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FM COCOLO『J-POP レジェンドフォーラム』7月はサザンオールスターズを特集!2代目エンジニア池村雅彦をゲストに迎えた番組トークvol.2を公開



J-POP レジェンドフォーラム

FM COCOLOで毎週月曜日21:00~22:00に放送されている、音楽評論家「田家秀樹」が案内人を務める『J-POP レジェンドフォーラム』。伝説のアーティスト、伝説のアルバム、伝説のライブ、そして伝説のムーブメント。一つのアーティストを1か月にわたって特集する番組で、2018年7月の特集はデビュー40周年を迎えたサザンオールスターズだ。歴代のレコーディング・エンジニアをゲストに迎え、これまでのオリジナル・アルバムを5週間に渡って辿っていく。第2回目の放送では、5thアルバム『NUDE MAN』から8thアルバム『KAMAKURA』を担当した池村雅彦が、自身の関わったアルバムの中からそれぞれ好きな曲をピックアップ。時代とともにレコーディング方法の変化も多かったこの時代において、サザンが変えたことと変えなかったことは何か―。オンエア内では、この時期がサザンにとって一つのターニング・ポイントになったとも語られている。

出会いは渋谷にあった伝説のヤマハLMセンター

田家秀樹:池村さんは82年のアルバム『NUDE MAN』から85年のアルバム『KAMAKURA』まで4作品のレコーディングを担当されていたということですが、40年という時間をどうお感じになられますか?

池村雅彦:彼らがアマチュアの頃から知っていたんですが、最初からブレイクしてそこから落ちずに第一線で活躍しているというのは、やっぱりすごいなと思います。

田家:むしろ年々クオリティが上がっている感じがしますもんね。今仰られたようにアマチュア時代から彼らを知っているということなんですが、ヤマハのLMセンター(ライトミュージックセンター)でバイトしていた大学生が池村さんなんですよね。

池村:そうですね。

田家:伝説のヤマハ渋谷店ですよね。

池村:もう無くなってから結構時間が経つんですが、渋谷の音楽で渋谷のヤマハというのは外せないかと思います。

田家:佐野元春さん、佐藤奈々子さん、そして佐橋佳幸さんなどですね。池村さんはサザンのデモテープをレコーディングしていますよね。

池村:はい。LMセンターというのは楽器の売り場ではなくて、音楽教室やスタジオレンタルを行っていた場所なんです。後はヤマハの【ポプコン(ポピュラーソングコンテスト)】や【EastWest】(アマチュアバンドのコンテスト)などの受付をやっていたんですが、その中にサザンがいたのが出会いのきっかけですね。

田家:サザンは普段からスタジオに出入りしていたんですか?それとも先にデモテープを送ってきていた?

池村:リハーサルなんかでも使ったりしていたんですが、向こうからというよりは、こちらの方から「こういうコンテストがあるから出てみれば?」と言っていました。

田家:それが桑田さんがベストヴォーカル賞を受賞したヤマハ【EastWest】だった。

池村:そうですね。今と違いデモテープが中々録れない時代だったので、持ち込みの人は持ち込んできたけど、録れない人はこっちで録っていたんですよね。ちょっとそのあたりの記憶は薄れてきているんですけど、4曲ぐらい録ったのがきっかけですかね。

田家:サザンの方から積極的にというよりは、池村さんから「出たら?」と言われたから出たという感じだったんですか?

池村:そうですかね。どちらかというと「出なよ」と僕らが言っていた気がしますね。

田家:でも彼らが【EastWest】に出ていなかったら、今の歴史はないわけでしょ?

池村:そうかもしれないですね。ただあの頃だと、ヤマハのコンテストにはポプコンとEastWestが2つあって、ご周知の通りポプコンは一つのパターンがあるじゃないですか。

田家:「美しき愛と青春」という感じですよね。確かに(サザンは)【ポプコン】というタイプではないですね(笑)

池村:【ポプコン】はフォーク系なんですよね。どう見てもサザンは違うので、それだったらこっち(EastWest)で演奏した方がいいんじゃないの?って。佐野元春君とかはポプコンの方に出ていましたよね。

田家:そういう意味ではまさに“生みの親”ですね。

池村:まあ、きっかけにはなりましたかね(笑)。

田家:8月1日に最新作品『海のOh, Yeah!!』が発売されますが、今日は池村さんが最初に担当された曲が、82年発売のアルバム『NUDE MAN』からの先行シングル「匂艶(にじいろ) THE NIGHT CLUB」からお聞きいただきます。

――♪「匂艶(にじいろ) THE NIGHT CLUB」

田家:池村さんは、渋谷のライトミュージックセンターでアルバイトをされていて、その後はポニーキャニオンの一口坂スタジオにお入りになって、そこからビクタースタジオが改修するということでビクターに行かれて、サザンオールスターズと再会を果たされた。

池村:そうですね。仕事としてそこで会いました。

田家:そしてこの曲が最初のお仕事だったんですね。

池村:はい、「匂艶(にじいろ) THE NIGHT CLUB」が最初でした。

田家:その時はどういう再会だったんですか?

池村:僕が一口坂にいた頃は猪俣(サザンの初代エンジニア/猪俣彰三)さんがやっていたんですが、その頃僕はあまりサザンと接触がなかったんですよ。レコーディングを見に行くこともそんなになくて。ただ、1回だけサザンが一口坂スタジオにトラックダウンに来たんです。多分「涙のアベニュー」で「Hey! Ryudo!」がカップリングだったと思うんですけど、その2曲をミックスに来た時に僕がアシスタントとしてついて少し接触はありましたね。 。

田家:「匂艶(にじいろ) THE NIGHT CLUB」を最初に聴いたときはどう思われました?

池村:レコーディングは、最初はメンバーだけで録りますから、ドラム、ベース、ギター、キーボード、パーカッションだけなんですよね。こんなに弦が動いたりも、ブラスやコーラスやクラップもないんですよね。なので録っているうちにどんどん増えていくんです。まだ24トラックの時代ですからね、最初にこれだけやるよみたいなのが分かっていればトラックをとっておいたりするんですけどね。桑田(Vo/桑田佳祐)君の中に構成はきっとあったんでしょうけど、初めは5人の音しか聴いていませんから、そこからあんなに音を増やしていくという作業があって、この曲が1番初めというのは結構大変でした。サザンはシンプルな曲もあれば、これは音が厚い方だと思うので。一発目がこれで、「ロックっぽくしたい」と言っていたんだけど、曲自体は歌謡曲っぽいですからね。ロックに規定はないので気持ちの部分でロックっぽくなったと思います(笑)

曲作りの合宿に行って、ほとんど野球してました(笑)

――♪「Plastic Super Star(Live in Better Days)」

田家:タイトルにもなっている“Live in Better Days”は青山学院大学の音楽サークルですね。池村さんが、「EastWest」に出ないかと誘っていた時は、Better Daysの学生だったんですか?

池村:そうですね。弘(Dr/松田弘)なんかは社会人でしたが、まだ皆学生でしたね。

田家:「Plastic Super Star」のライブ・バージョンというのはどんなレコーディングだったんですか?

池村:これは、ライブっぽくしたいということで大橋にあるビクタースタジオだったかキティの伊豆スタジオにBetter Daysの人たちを20~30人ぐらい呼んだんです。皆でヘッドフォンするわけにはいかないから、スピーカーから音を出して、それを聴いて学生たちを盛り上がらせるという形でライブの雰囲気を出しました。

田家:なるほど。そういう良い意味での学生気分みたいなものは、『NUDE MAN』の頃はサザンの中にもあったんですね。

池村:まぁあったとは思いますね。ただ、どうしてこの曲をライブっぽくしたかったのかは分からないんですけど、色んな冒険はしていましたよね。

田家:この『NUDE MAN』は忘れられないアルバムということになるんじゃないですか?

池村:そうですね。サザンはその頃アルバムはもう4枚ぐらい作っているからプロの現場は慣れていますけど、僕の方は下っ端でしたから緊張もしつつ、試行錯誤もしつつ色々試しながらやっていた感じはありますね。

田家:試しながらやっていた。

池村:サザンだからできることなんでしょうけど、「今日新曲録るよ」っていう時もまだサビしか出来上がっていないこともあるんですよ。随分できている曲ももちろんあるんですが、リハをやりながら作っていくから、こっちは色々練習もできるんですよね。マイクを違うもので録ってみたりして。本番までに時間もあるんで、試しに録ってみた時に「今のテイクでいこう」って言われたりすると、「えっ?!」ってなることもありましたね(笑)なので普通のバンドとは違って、スタジオで色んな事ができたので、エンジニアとしても勉強になりました。

田家:サザンの方が少し先輩だということもあったんでしょうか(笑)でもこの『NUDE MAN』は、『ステレオ太陽族』(1981年)なんかと比べていると、やっぱりプロっぽくなっている感じがありますよね。曲のバリエーションとか。「DJ・コービーの伝説」に始まる13曲の中には、「夏をあきらめて」や「流れる雲を追いかけて」、「Oh! クラウディア」といったバラード的な名曲もあったり。

池村:そうですね。今から考えると『NUDE MAN』は名曲が揃っていて、いいアルバムだなと思います。

田家:ラストの収録曲でジャズの「Just A Little Bit」も名曲ですよね。

池村:それと「Oh! クラウディア」の2曲は特に名曲ですね。『NUDE MAN』の話題でいくと、アルバムを作るということで伊豆にあるキティスタジオに合宿しに行ったんですよ。

田家:曲作りで。

池村:えぇ。今でもあるリゾートスタジオなんですけどね。そこにメンバーたちと行って、最低5曲ぐらいはベーシックを録ろうと。だけど、ほとんど野球してたんですよね。

田家:(笑)

池村:スタジオの前に芝生があって、結局1曲ぐらいしかリズムを録れなかったような記憶があるんですが、これが多分「Oh! クラウディア」か「Just A Little Bit」でした。成果としては素晴らしい曲が生まれましたが、プロデューサーの高垣(高垣健)さんの算段としては5曲ぐらい録るつもりだったんでしょうけど…(笑) それが思い出ですね。

田家:なるほどね(笑)

池村:ちょうどその時期にビクタースタジオを改修していたので、外のスタジオもよく使っていたんですよ。

田家:それは、プロデュースを担当する高垣さんからすると「困ったなぁ」といった感じだったんでしょうか?

池村:まぁ、スタジオでも新曲をサビしかできていないところから作っていたぐらいでしたから、肝は座っていたんじゃないでしょうか(笑)

田家:サザンはそういうバンドなんだぞ、と(笑)

池村:もう5枚目ですからね(笑)

――♪「Oh! クラウディア」

田家:でも合宿中に曲を作らずに野球に興じている時の雰囲気というのはどういうものだったんでしょうか?

池村:でもそれはあくまで僕が見た感じですから、見えないところで一生懸命曲を書いたりやっていたと思います。

田家:それをご覧になっている時はどういうお気持ちだったんですか?

池村:野球ですか?…僕も出ていましたね(笑)

田家:そうなんですか(笑)。そういう和気あいあいとした雰囲気というのは今でもある感じしますもんね。

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バンドだけで作っていた時代から機材が増え打ち込みが出てきた

――♪「マチルダBABY」

田家:1983年7月発売、6枚目のアルバム『綺麗』の1曲目、「マチルダBABY」ですね。

池村:少しテンポを走らせてみたりSEみたいなのも入れてみたり、色んな所からヒントを得ていて曲のスタートが面白いですよね。

田家:『NUDE MAN』はバンドの肉体みたいなものを感じるアルバムだなと思ったんですけど、『綺麗』はアルバムの1曲目が「マチルダBABY」のような始まりでしたからね。このシンセの音は、彼らがこういう風にしたいと言ってきたんですか?

池村:プロデューサーの高垣さんが色んな音楽とか新しいプロデューサーやアーティスト、ミュージシャンを勧めて桑田くんを触発していたんですけど、この曲なんかそういう影響を感じますよね。

田家:聴いていた人も「何か変わり始めているな」という風にひしひしと感じた曲だったんじゃないでしょうか。特にアナログとデジタルっていうのがちょうどこの頃入れ替わり始めた時代ですもんね。

池村:機材に関しては、猪俣さんがされていた時は16(ch)ぐらいで、僕の時は24(ch)からだったんです。やっぱり私が一番やってて大きいと思ったのは、打ち込みが出てきたんですよね。それがすごく過渡期で、苦労ではないんですが、バンドだけで作っていた時代から、マニピュレーターとか、そういう人が入ってきて。ちょうど僕がやっていた時期は猪俣さんの時とは制作の技術が変わっていたんですね。

田家:そういう中でもサビしかできていない状態で、レコーディングが行われていたという。

池村:いや、それは曲によるのでしっかり作り込んでくる曲ももちろんあれば、スタジオで作る曲もありましたからね。

田家:(笑)

池村:歌詞もスタジオに来てから書いたりしていましたが、噂だとそれは今でもあるみたいです…(笑)それであの詞を書くわけだから、やっぱりすごいですよね。

田家:そんなアルバム『綺麗』の中から池村さんが選ばれたのは、この曲なんですね。シングルにもなりました、「EMANON」。

――♪「EMANON」

田家:池村さんはどんな音楽をやられていたんですか?ヤマハでアルバイトを始められた経緯は何かあるんでしょうか。

池村:元々もちろん音楽が好きだったんで、70年代のウェストコーストにAORなど、ベタなんですけど、そういうのがど真ん中な20代で。後は歌謡曲とかも好きでしたから、桑田君が聴いていたような曲も時代的には一緒でした。

田家:「EMANON」はお好きな曲だった。

池村:好きですね。

田家:ジャジーで大人っぽい感じですよね。

池村:そうですね。このアルバムに「海」っていうバラードがあるんですが、あの曲は皆が好きそうな桑田節じゃないですか。僕も好きでよくかけたりするんですけど、桑田君ってレゲエっぽいところとか、ソロでやっていた「ヨシ子さん」(2017年『がらくた』)のような、ちょっと違う感覚のものからロックンロールっぽいものとか、1パターンじゃなくて自分のルーツがたくさんあると思うので。僕としては音も気に入っていた曲だったので今回は、「EMANON」を聴いて頂きました。

僕らが大尊敬する人に『綺麗』を聴かせたの?!

――♪「JAPANEGGAE」

田家:7枚目のアルバム『人気者で行こう』の1曲目でもある「JAPANEGGAE」ですが、この曲も思い出されることがありそうですね。

池村:これも凝った曲ですよね。普通の8ビートとかじゃなくて、桑田君にしか書けない曲だし詞だと思いますよね。だからこういう世界を作ろうではなくて、出ている音をまとめていく作り方しかできないんですけど、24chでしたから足りないんです。色々と世界観を作るのに苦労しました。

田家:和風と洋風で、古文みたいな歌詞と熟語が出ていたりして、それでいてデジタルっぽい感じもありながらバンドでっていう色んな要素があって。先ほど『人気者で行こう』で一つの柱ができたと仰っていましたが、やりたいことはこういうことなのかなって見える感じはしましたもんね。

池村:普通の曲じゃなくてこだわりのある曲を1曲目に持ってきた感じはしますよね。

田家:サザン流のミクスチャーと言うんでしょうか。

池村:サザンの曲の中でも独特だなと思いますね。

田家:でもこの『人気者で行こう』が初期のサザンの最高傑作という人は多いですもんね。

池村:そうですね。いい曲が多いし、勢いがあったし、「ガッと行こう!」というのはあった気がします。

田家:『NUDE MAN』の時と『綺麗』の時と『人気者で行こう』の時と、やっぱり作っているときに「あれ?このバンドは違う所にいこうとしているな」とか「新しい何かが芽生えているな」というのはありましたか?

池村:『人気者で行こう』のアルバムの前にアメリカに行って、ボブ・クリアマウンテン(ミックス・エンジニア)に『綺麗』を聴かせたという話を聞きました。

田家:一緒に行かれたわけではないんですね。

池村:もちろん、レコーディング以外は僕の管轄外ですからね。向こうでセッションをやったりしていたみたいです。だけど、ボブ・クリアマウンテンという僕らが大尊敬する人に『綺麗』を聴かせたの?!…って。後から聞いた話ですが、聴かせたときに「音が綺麗すぎる」って彼が言ってたみたいで。まぁロックって一言で言うとひずみだと思うんですよね。そういう意味では『綺麗』ってスッキリとした部分があったから。それを意図して作ったわけじゃないんですけど、ボブ・クリアマウンテンに聴かせて、もしかしたらそこで「次のアルバムは骨太いのを作ろう」という考えもメンバーの中にあったのかもしれませんね。

田家:メンバーから「ボブ・クリアマウンテンにニューヨークでこんなこと言われたんだよ」という話を直接されたりはしてない?

池村:どうかなぁ。レコーディングの休憩の時にそういう話をしたとは思うんですが、そんなにじっくりと話したわけではないですね。

田家:やっぱりそれを聞いたときに池村さんも「じゃあどうしよう」となりましたか?音の録り方が変わったり。

池村:どうしようと言っても、やっぱり桑田君がどういう曲を作ってくるかにかかっているので。それを受けてこっちは少しガツンという感じっていう意識で作っていって、それが結果になっていく形ですね。頭からこういう風にしていこうというよりは。

田家:やっぱりでもそう意識した音の撮り方になっていると。

池村:それはあるかもしれないですね。サウンドは80年代なので、どうしてもループレコとかそういう処理はしてしまったんですけど。

田家:本当にこの頃のロックのアルバムって、ドラム聴いた時のエコー感で分かりますよね。84年だなとか、85年だとか。

池村:そうなんですよね。猪俣さんの時はそういうのがなかったから、やっぱり同じ音というのもなんですし、サザンはロックバンドの音でいこうという意識はありましたし、ですから色んな事をした分だけ毎回反省ですよね。音楽って先端のものを作ると古くなっちゃうんですよ。

田家:なるほどね。

池村:サザンの曲の中でも、僕が携わっていた時代って、機材が増えてデジタルディレイがわーっと出てきて、ただのスネアの音にもデジタルリバーブなんかをかけて太くする、みたいなことはやらないと、というのもあったから。曲によっては猪俣さんのときと比べて僕が関わったこの4枚の頃は、曲によってはドラムの音がかなり違うんですよね。叩いている弘はずっと同じなんだけど。あくまで自分の仕事の部分でですが、それが成功している曲もあれば、余計なことしなきゃ良かったなというものもありますね。その時は、メンバー達からもOKもらっているからもちろんそれでいいんだけど、難しいですね。ギミックでやって、外れるとちょっと恥ずかしいなっていうのもあった時代ですね。

田家:そんな中で生まれたのがこの名曲です。7枚目のアルバム『人気者で行こう』から「ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)」。

――♪「ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)」

田家:この曲で思い出されることありますか?

池村:これはパッと聴くと、シーケンサーでタッタタッタとやっていておかしくない曲ですよね。この時にはもうマニピュレーターの藤井(藤井丈司)君が一緒にやってましたし。でも、全部原坊(Key/原由子)が手弾きでやっているところが面白いですよね。この曲ってドラムのスネアのリバーブが大事なんですけど、今のレコーディングってプロツールスがありますから、前にやったセッションの続きをそのままやろうと思ったら1週間後でも同じことをすぐ再現できるんです。だけど、この頃は今日これで終わりだっていうと一旦そこで全部バラすんです。次の日にやると言っても楽器も機材も1から音を出さないといけない。そうすると、同じ雰囲気のリバーブもスタジオが変わっちゃうとまた同じものが出せない。桑田君が前日にこれでよかったと思っていイメージしていたものが、次の日には「あれ?これじゃもうちょっとインパクト欲しいかな」となったりする。結構気を遣ったりしてね。この曲はドラムサウンドとかスネアが結構肝になると思ったんで、聴けばわかるんですけど、リバーブがイントロと歌の部分では違っていたり、変化させたりとエンジニアとして気を遣った曲ですね。

田家:それがこのブランニュー感にもなっていたんですね。お聴き頂いたのは1984年のアルバム『人気者で行こう』から「ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)」でした。

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桑田君はやっぱりメンバーが好きだから

――♪「Computer Children」

田家:1985年9月発売2枚組のアルバム『KAMAKURA』の1曲目、「Computer Children」。僕らはリスナーとして驚きの1曲目ではありました。まさに今まで池村さんがお話されていたことが集約されて、全部このアルバムにあるんでしょうね(笑)

池村:結構大変でしたねこれは本当に。ミックスダウンも2~3日かかったんですよね。

田家:1曲に?

池村:はい(笑)ずっと作業しているわけじゃないんですが、色んな音が入ってまとめて、ただその着地点が中々見えなくて。

田家:えぇ。

池村:僕はバラードだと「こうだ」と思うイメージがあったりするんですが、こういう世界観がある曲ですから、パートに寄って正解が違っているところがあるから、時間がかかりましたね。

田家:このアルバム『KAMAKURA』は、レコーディング時間が1800時間となっていますね。

池村:そうですね。普通の感じで始めたけど、色々曲が増えてきて普通だったら10曲入れるとなったら10曲や11曲ぐらいで打ち止めになるんですけど、桑田君がどんどん曲を作ってきたんですよね。

田家:全20曲ですね。

池村:はい。なのでどこかのタイミングで、「じゃあダブル・アルバムにしようか」という感じになりました。

田家:やっていく中で曲が増えてしょうがなくなって、1枚じゃ収まらないから2枚にしようと?

池村:そうですね。僕はまぁ制作の人間ではないですけど、雰囲気ではそんな感じでした。初めから2枚にするということは全然なかったです。

田家:でもこの頃って毎年1枚(アルバムを)出しているわけでしょ?

池村:えぇ。

田家:1984年には『人気者で行こう』も出ていますし、このアルバムの後に彼らはロサンゼルスで合宿レコーディングして、英語詞の「Tarako」を作ったりして、その後夏にはスタジアム・ツアー【熱帯絶命ツアー夏“出席とります”】もあって、その年の10月から1985年2月までライブ・ツアー【大衆音楽取締法違反 “やっぱりあいつはクロだった!"”~実刑判決2月まで~】と2回のツアーをやっていて。どうやって1800時間作ったんだろうと思いますね。

池村:半年ぐらいやっていましたけどね。

田家:合間にスタジオに来ていたんですか?この時はビクタースタジオを押さえっぱなし?

池村:ずっと押さえていましたね。ただもう『KAMAKURA』の時は結構発売ギリギリまでやっていたから、最後の方はビクタースタジオを3部屋ぐらい使っていましたね。エンジニアは僕でしたけど、次にこの番組に出る今井ちゃん(エンジニア/今井邦彦)とかも居て。ディレクターは高垣さん1人ですが、部屋を2つ3つ回っていましたよ(笑)

田家:では、この『KAMAKURA』を象徴している曲と言えばどの曲ですか?

池村:やっぱり「鎌倉物語」かな。この曲は知っている方もいるかもしれないけど、原坊が妊娠していた頃なので、途中から女性はEPOさんに来てもらっていたりして。

田家:そういうのもあったんですね。

池村:歌も、スタジオに来られなかったので桑田君の自宅に中継車を横付けして、大騒動みたいな(笑)僕は行ってないんですけどね。

田家:スタジオから離れられないですもんね。

池村:なので今井ちゃんとかが行って、録っていましたね。

田家:なるほどね。そしたらその話は来週今井さんにもお聞ききしようと思います。

池村:そうですね(笑)

――♪「鎌倉物語」

田家:池村さんの中で、原さんの存在感というのはどんな風ですか?

池村:原坊はやっぱり要と言うか、桑田君の音楽のキーポイントなんですよね。コーラスをつける時なんかでも必ず原坊にコードを聴いたりとか、「これどう?」みたいなことを聞いて確認取るんですよ。彼女は音楽的なものをすごく持ってますよね。桑田君は原坊のそういうところをとても信頼していると思いますよ。困ったときには原坊に「どう?」と聞いて「いいんじゃないの」なんて返されると自信つけて、みたいなのは感じましたね。

田家:困ったときの原さんなんですね。

池村:だと思います。

田家:1982年のアルバム『NUDE MAN』から1985年のアルバム『KAMAKURA』。サザンオールスターズにとってどんな時期だったと思われますか?

池村:やっぱり、技術とかテクニカルなものとか作り方がすごく変化した4枚だったので、『NUDE MAN』あたりはまだその前の時代の生バンド感が強かったですけども、『KAMAKURA』になるとね。だから、ビートルズなんかと一緒ですよね。ただ、桑田君はやっぱりメンバーが好きだから、すごいミュージシャンとかだって色々できるだろうけど、メンバーじゃなきゃ出せない音ってあると思うし、そこらへんが桑田君のバンド愛ですよね。テクニカルとか別のミュージシャンを選んでたらどんどん変化していくと思うけど、そういうこともやりつつメンバーの音も大事にするというバランス感覚を持っているからこれだけ続いているんだと思います。

田家:でも『KAMAKURA』はサザンオールスターズのアルバムということももちろんあるんですが、1985年に出た日本のロックアルバムの中でも色んな要素やテーマ、色んな意味のあるアルバムだなと思いますよね。

池村:うん。

田家:時代を象徴している、時代そのものみたいな意味で。

池村:携わっている時は何も考えずにやっていましたけど、結果論として確かにそういうものが音として、形として出たアルバムかもしれませんね。ですから、一つのターニング・ポイントになったアルバムだと思います。それまでのサザンとそれ以降のサザンでの一つの集大成になっているんじゃないでしょうかね。

田家:それまでのサザンと、その後のサザンで何が変わったと思いますか?

池村:桑田君の才能がどんどん光ってますし、この先もどんどん新しいことをやっていくと思いますけどね。

田家:来週は『KAMAKURA』のアシスタントでもあった今井邦彦さんに色々お聞きしていこうと思うのですが、サザンオールスターズの会、というのがビクターの中にあるんですって?

池村:結局、エンジニアをやったのは5人なんで、1回皆で飲もうよと言って桑田君も呼んで。これはテープでも回しておけば1冊本が出るぐらいの話をしてましたね。無理でしょうけど(笑)それがきっかけで、時々機会があると集まったり飲み会をしたりして。話が尽きないんですよね。これがサザンの奥の深いところなんでしょうかね。

田家:なるほどね。

池村:毎回、「会っても話すことなんてないんじゃないか」と思っても、いくらでもサザンのレコーディングに関する話が出て来るんですよ。これはもう、後世に伝えたいなと思いますね(笑)




▲サザンオールスターズ「壮年JUMP(Full ver.)」

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