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スティーヴ・ガッド 来日記念特集~ドラマーとしての魅力が感じられる10枚

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 ジャズやフュージョン、そしてソウルやシンガー・ソングライターのバッキングまで、正確なリズム感を武器にタイトなグルーヴを生み出すスティーヴ・ガッド。60年代からプロのセッション・ミュージシャンとして活動を始め、70歳を超えた現在も第一線で活躍し続けている。彼のプレイは決して派手でトリッキーなわけではないが、生まれ持った圧倒的なリズムのセンスや、ハッとさせるテクニカルなプレイから、多くの“ガッド・フリーク”を生み、フォロワーともいえるドラマーも多数存在する。

 ここ数年も、自身のバンドを率いてツアーを回るだけでなく、チック・コリアとの双頭バンドや桑原あいのリーダー作といった先鋭的なジャズの作品に参加する一方で、ジェイムス・テイラーやポール・サイモンといったシンガーたちのサポートとしても大きな役割を担っている。そして、この3月にはサックス奏者のミカエル・ブリッチャー、ハモンド・オルガン奏者のダン・ヘマーとのトリオでの来日公演も控えている。

 ここでは、スティーヴ・ガッドを知るための基本として、10枚のアルバムをセレクトした。王道のジャズから、時代を作り上げたクロスオーヴァー/フュージョン、そしてロック・シーンの名盤まで様々だが、いずれも彼のドラマーとしての魅力を味わえるものばかり。もちろん、彼の足跡は10枚で収まるものではないが、ぜひこれらを聴いてからスティーヴ・ガッドのプレイを実際に間近で体感してほしい。

『Stuff』Stuff(1976年)

CD

 最初にガッドが大きく注目されたのは、なんといってもスタッフだろう。クリス・パーカーとのツイン・ドラムに、ゴードン・エドワーズ、リチャード・ティー、エリック・ゲイル、コーネル・デュプリーという6人の猛者が集った奇跡的なバンドは、いわゆるセッション・ミュージシャンとして数々の名盤をサポートしただけでなく、自らも傑作アルバムを連発。このデビュー作でも代表曲「My Sweetness」などでガッドのグルーヴィーなプレイが確かめられる。。

『Friends』Chick Corea(1978年)

チック・コリアとの付き合いは古いが、実際にレコーディングで共にするのは70年代後半になってから。フェンダー・ローズがメインでありながら、リズムはエディ・ゴメスのウッド・ベースという一風変わった組み合わせがユニークで、ジャズとフュージョンの中間のような印象がある。なかでも「Samba Song」は強烈なドラム・プレイが聴けることで有名な一曲。冒頭から疾走感に満ちており、ソロでは縦横無尽に叩きまくるため、ガッドのアグレッシヴな一面を感じたいなら必聴だ。

 

『Winelight』Grover Washington, Jr.(1980年)

CD

 スムース・ジャズの幕開けといっても過言ではない、グローヴァー・ワシントン・ジュニアの大傑作。メロウなクワイエット・ストーム・サウンドはとにかく心地良いが、その基盤を作り上げているのがリズム・セクションであることは間違いない。ラルフ・マクドナルドのパーカッション、マーカス・ミラーのベースという3者の融合は絶品。特に冒頭の「Winelight」の官能的なグルーヴは、このメンバーならではの魅力。ガッドのストイックなプレイは本作では必要不可欠なのだ。

 

『Gaucho』Steely Dan(1980年)

CD

 セッション・ミュージシャンとして様々なアーティストと共演してきたが、ロック・ファンから注目を集めた最初のトピックはスティーリー・ダンだろう。楽曲でいえば豪快なソロが披露される「Aja」なのだろうが、アルバムとしては本作を挙げておきたい。シングル・ヒットした「Hey Nineteen」での機械のような鉄壁のリズムの他、跳ねたビートが印象的な「My Rival」や少しブルージーな「Third World Man」など4曲にフィーチャーされており、アルバムの中核を成している。

 

『One-Trick Pony』Paul Simon(1980年)

CD

 ガッドがサポートするアーティストのなかでも、ポール・サイモンは特別な存在だ。『Still Crazy After All These Years』(1975年)から始まった彼らの蜜月は、このポールが主演する映画のサウドトラックで大きく結実。とくにシングル・ヒットした「Late In The Evening」におけるスティックの音を効果的に使ったアフロ・ビートの導入は画期的で、トニ・レヴィンのベースとのコンビネーションも絶妙。なお、映画の方にはガッドを含むバンド・メンバーが全員役者として出演しているのにも注目。

 

『Manhattan Jazz Quintet』Manhattan Jazz Quintet(1984年)

CD

 ピアニストのデヴィッド・マシューズを中心に結成されたマンハッタン・ジャズ・クインテット。日本のレーベルとジャズ雑誌の発案で結成されたグループで、ガッドがストレート・アヘッドなジャズを演奏するということでも注目を集めた。ジョージ・ヤングやルー・ソロフがリードを取るこのデビュー作では、「Summertime」や「My Favorite Things」といったスタンダードを中心に手堅い演奏を披露しており、時折聞かせるドラム・ソロも切れ味があってグループにシャープな印象を与えている。

 

『The Gadd Gang』The Gadd Gang(1986年)

ガッドはすでに1984年にソロ作『Gadd About』を発表していたが、本格的なリーダー作というとこのガッド・ギャングを思い出すファンが多いだろう。コーネル・デュプリー、リチャード・ティーというスタッフ組にエディ・ゴメスを加えたリズム・セクションは、いわゆるスーパー・バンドといってもいいアンサンブルで、当時はTVのCMにも登場した。フュージョン・サウンドをベースにブルースやアフロ・ビートを取り入れた音楽性はバラエティに富んでおり、ガッドの幅広い志向性が垣間見られる。

 

『Pilgrim』Eric Clapton(1998年)

CD

 ガッドの生演奏を観たことがあるという方の大半が、エリック・クラプトンのサポートではないだろうか。ツアーのたびにファースト・コールされるガッドは、現在のクラプトン・バンドに欠かせない一員といえるだろう。初の本格的なコラボレーションとなった本作は、滋味深いブルース・ロックのバッキングということもあって派手な演奏ではない。しかし、ルーズになりすぎずブルージーな世界観をタイトに引き締めているのはガッドの功績が大きい。

 

『Way Back Home』Steve Gadd Band(2016年)

CD

 70歳を記念して行われたニューヨークでのライヴ・アルバム。マイケル・ランドウ、ラリー・ゴールディングス、ジミー・ジョンソン、ウォルト・ファウラーというジェイムス・テイラーのサポート・メンバー中心で固めたバンドは、これまでにないほどにリラックスしたムードのプレイが楽しめる。とはいえ、「Them Changes」などでは迫力あるドラム・ソロを展開しており、健在ぶりが確かめられる。

 

『Omara』Blicher Hemmer Gadd(2018年)

今回来日する布陣での最新作がこちら。前作『Blicher Hemmer Gadd』(2014年)から4年ぶりとなるライヴ・レコーディング作品。リードするのはあくまでもデンマークのトップ・プレイヤーであるミカエル・ブリッチャーのサックスだが、ガッドのドラム・ソロもふんだんにフィーチャーされており、彼の円熟したドラミングを堪能できる。ベースレスでハモンド・オルガンとのコンビネーションというのも珍しく、新たな魅力を発見できる一枚となっている。

 




 

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