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イーグルス『ホテル・カルフォルニア』40周年記念盤特集 ~デラックス版ハイレゾ音源の魅力を真保安一郎が解説。~
イーグルスの伝説的名盤『ホテル・カルフォルニア』のリリース40周年記念盤がこの冬リリースされた。今回のリイシューでは、通常盤「40周年記念エディション」に加えて、当時のライブ音源を収録したCD2枚組の「エクスパンデッド・エディション」、さらに、高音質のハイレゾのステレオ・リマスター音源を収録したBlu-ray Audioディスク+様々な豪華特典の付属した「デラックス・エディション」の3パターンがリリース。これから本作を手に取る初級リスナーから筋金入りのコア・ファンまで、誰もがイーグルスに(再び)出会うきっかけを作ってくれるリイシューとなっている。
2枚組「エクスパンデッド・エディション」と3枚組「デラックス・エディション」に収録されるライブ音源は、1976年10月20日から22日にかけてロサンゼルス・フォーラムで収録されたもの。当時のメンバーは、グレン・フライ、ドン・ヘンリー、ランディ・マイズナー、ドン・フェルダー、そして創立メンバーのバーニー・レドンに代わりジョー・ウォルシュが加入。1976年に実現した初来日公演も、このラインナップで演奏が行われており、イーグルス全盛期のメンバーとも言える。特に「呪われた夜」「魔女のささやき」「ジェームス・ディーン」「過ぎた事」「地獄の良き日」の5曲は、公式なライヴ音源としては今回が世界初披露目。ドン・フェルダー、フライ、ウォルシュによるトリプル・ギターとなったイーグルスが、ロック・バンドとしていかに素晴らしいバンドであったかを体感することのできる本リイシューの目玉の一つだ。
そして、もう一つの目玉が「デラックス・エディション」に収録されたBlu-ray Audioディスク&ハイレゾ音源だ。今回Billboard JAPANでは、こちらの音源に注目、オリジナルLPからかつての再発リリースの数々まで、イーグルス音源に精通する真保安一郎氏に解説を依頼した。過去最高のクリアな高音質が実現したことで、誰もがその存在を知る名盤から改めて聴こえてくることは何なのか? その魅力に迫る。ページ作成の便宜上、Spotifyの音源も挿入するが、可能であればぜひハイレゾ音質の音源とともに楽しんで欲しい。
バンドの置かれた状況を改めて浮き彫りにするハイレゾ音源の魅力
世界一有名なツイン・リードが40年の時を経てハイレゾで甦る! ギターをかじったことがあるおじさんなら、一度はコピーしたことがあるだろう。76年12月に発売されたイーグルス『ホテル・カリフォルニア』が、3枚組にオマケをてんこ盛りにしたデラックス・エディションで発売され、その中にBlu-ray Audioディスクが含まれているのだ。
収録されたハイレゾのステレオ・リマスターは、2013年に米国ライノ・レコーズによってコンパイルされた『The Studio Albums 1972-1979』時のリマスターが元になっているようで、音圧は低めにおさえられ、その分ダイナミクスは自然。全体的にスムーズに響く。このライノによるコンパイル作品集はハイレゾ配信もされ、バーニー・グランドマンのマスタリングにより、ノー・コンプレッサーと最小限のEQでアナログ盤化もされている。今回はそれに近い味わいで、音圧を高くする傾向にあった00年代のリマスターからの脱却を強くかんじさせる仕上がりとなっている。
例えばタイトル曲のイントロ、あの有名なドン・ヘンリーの、歌のはじまりをつげるドラムの合いの手、2発の“ドンドン”。これは低音を強調したまるでバスドラのような“ズンズン”ではなく、ちゃんとフロア・タムの“ドゥンドゥン” と、軽みがないといけない。出た当時、このフィルはロックでありなのか?ダサすぎないか(当時の用語です)とさんざん言われたのだが、いいのである。この曲は元々レゲエなのだ。しかもメキシカン・レゲエ。脱力が必要なのである。
そして肝心のギター・サウンドだが、これもきわめて自然に響く。イントロの、ジョー・ウォルシュによるラテン・フレーバーをとりいれたアコースティック・ギターも重く沈み込まずに軽やかに響く。これは後に借金のカタにとられたというタカミネのギター。曲後半の有名なツインギター・ソロは、ドン・フェルダーのギブソン・レスポールからジョー・ウォルシュのテレキャスへと続いていくが、ギター・サウンドの音色のキャラクターも違和感はない。
楽器がそれぞれの特色を生かしながら気持ちよく分離して聴こえてくるはハイレゾならでは。大音量で聴けばさらに効果は高い。
今回収録されているハイレゾ音源は192 KHz/24-Bitという形式。通常のCD音源は44.1Khz/16bitであり、単純にいうと音楽を入れている器の容量が大きいということになる。スペックに余裕があるので、大きな音で聴いていても疲れないのがいいところ。
アルバムの2曲目は先行シングルとなった「ニュー・キッド・イン・タウン」。このアルバムでグレン・フライが唯一リード・ヴォーカルをとった曲である。当時はグレンが1曲のみということで驚いた記憶がある。もともとイーグルスはメンバー全員がヴォーカルをとるバンドとして結成されたのだ。だが、この頃になるとグレンもメイン・ヴォーカルはドン・ヘンリーと心に決めていたようで、インストをのぞいたヴォーカル曲全8曲中5曲がドン・ヘンリー。ドン・フェルダーは1曲もなし(脱退の原因の一つ?)。その他の3人のメンバーが1曲ずつとなっている。
前作(『呪われた夜』1975年)がヒット。それに続いたベスト(『グレイテスト・ヒッツ 1971-1975』1976年)がさらに大ヒットしたことと引き換えに、ビジネス上のプレッシャーがのしかかってきていたのだろうか。もう新作で失敗は許されないバンドとなっていたのだ。ヴォーカリストの選択ひとつとっても、ビジネスライクに、より成功の確度が高い方へ。イーグルスはこの頃、60年末の民主的で平和な理想の終焉を迎えていたのである。そして、それはアルバム全体のコンセプトへとつながっている。一つの時代の終わりを強く感じさせてくる本作の空気は、サウンド面にもあらわれてきているのだ。
そもそもイーグルスの録音は音がいいのだが、特に「オン・ザ・ボーダー」の途中からエンジニア/プロデューサーとなったビル・シムジクはハイファイ志向が強く、本作もロスとマイアミのスタジオを行き来しながら当時最新の24トラックで録音されている。ビルが地震を怖がったため、ロスでずっと録音しなかったという話も残っている。
ところが面白いもので、この最新の機材を使った多重録音による制作は、当時のウェスト・コースト・ロックとしては凝りすぎ、という批判を受けてしまう。これを払拭する目的もあって6曲目の「暗黙の日々」はバンド全員による同時録音を行なっている。ヴォーカルは後入れだが、一丸となって突き進むアンサンブルは、イーグルスがスタジオ内でもまだまだ素晴らしいバンドであったことを思い知らせてくれる。
次作『ロング・ラン』(1979年)では、さらにサウンドの洗練が進んでしまうが、『ホテル・カリフォルニア』はロックがAORへ向かう最後のところでギリギリふんばっている感じだ。イーグルスを含めた70年代ロックにとって、若者の音楽からアダルト・オリエンテッドな大人の音楽への移行が必然であったことも、このアルバムのサウンドは示唆してくれている。分離の良いハイレゾで聴けば、そのフュージョン/AORへ近づいていくサウンドの変遷を素直に感じ取ることができると思う。
またこのBlu-ray Audioディスクには、紹介してきたステレオ・リマスターの192 KHz/24-Bitハイレゾ版に加え、Dolby Digital 5.1 Surround Sound(96 KHz/24-Bit)で2001年のマルチ・チャンネル版も収録されている。このマルチ・チャンネルは当時ワーナーが力を入れていたDVD—Audio版としてリリースされ話題を呼んだもの。
オリジナルのエンジニアであるビル・シムジクがエリオット・シャイナーとともに5.1ミックスを手がけ、Sterlingサウンド・スタジオのテッド・ジェンセンがマスタリング。Sterlingサウンド自体も元のオリジナル盤のマスタリング/カッティングを手がけていたのだから、理想のリマスター・スタッフだった。広大な音場と、分離の良い鳴りっぷり。ヴォーカルやストリングスの繊細なニュアンスも見事に描きだされていた。今や市場でもプレミアがついているため今回のデラックス・エディションで復刻されたのは大変ありがたいことだ。こちらも一度機会があったら是非体験してみて欲しい。
▲Hotel California 40th Anniversary Edition (Updated Official Trailers)
リリース情報
アルバム『ホテル・カリフォルニア 40周年記念デラックス・エディション』
- 発売中
- 定価:12,960円(tax in.)
- 3枚組
- Disc1:オリジナル・アルバム
- Disc2:1976年の未発表ライヴ音源
- Disc3:Blu-ray (Audio)
- ボックス仕様
- 約28cmx28cm、44ページのハードカヴァー・ブックレット(当時の貴重な未発表写真を掲載)
- 約28cmx28cm、24ページのツアー・パンフレット・レプリカ
- 約28cmx56cm、3枚のポスター(2つ折り)
- 1)ノーマン・シーフ撮影の写真、2)ファミリー・トゥリー、3)ツアー・ポスター
- →詳細はこちら
アルバム『ホテル・カリフォルニア 40周年記念エクスパンデッド・エディション』
- 発売中
- 定価:2,808円(tax in.)
- 2枚組
- Disc1:オリジナル・アルバム
- Disc2:1976年の未発表ライヴ音源
- →詳細はこちら
Billboard Live TOKYOにてコラボ・カクテルの実施も決定!
カクテル『JUST PRISONERS』
- イーグルス『ホテル・カリフォルニア:40周年記念盤』のリリースを記念して、
Billboard Live Tokyoでコラボ・カクテルの提供が決定!
2018年1月の下記対象公演にてコラボ・カクテルをご注文のお客様に、
先着で『ホテル・カリフォルニア』スペシャル・ポスターをプレゼントいたします。 - →カクテル詳細はこちら
- 対象公演
- 2018年1月5日(金)~1月6日(土)「デヴィッド・T.ウォーカー」 詳細
- 2018年1月11日(木)~1月13日(土)「ポール・スタンレー」 詳細
- 2018年1月18日(木)・1月20日(土)~1/21(日)「ボビー・コールドウェル」 詳細
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Text:真保安一郎
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