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FM COCOLO『J-POP レジェンドフォーラム』9月は桑田佳祐『がらくた』特集! 小林克也をゲストに迎えた番組トークvol.3を公開



J-POP レジェンドフォーラム

FM COCOLOで毎週月曜日21:00~22:00に放送されている、音楽評論家「田家秀樹」が案内人を務める『J-POP レジェンドフォーラム』。伝説のアーティスト、伝説のアルバム、伝説のライブ、そして伝説のムーブメント。一つのアーティストを1ヶ月にわたって特集する番組で、9月の特集は桑田佳祐『がらくた』だ。3回目の放送では、桑田佳祐デビュー以来の最大の理解者とも言えるDJ小林克也が登場した。桑田と小林が初めてあった時のことから、共作した「六本木のベンちゃん」など、デビューから見守り続けてきた小林だからこそ分かる桑田像が垣間見える回となった。

番組トーク vol.1: キーボード片山敦夫 / ギター斎藤誠

番組トーク vol.2: 音楽評論家/DJ宮治淳一

「これがアルバムの聴き方だな」って思った

小林克也:(バックで流れている「過ぎ去りし日々(ゴーイング・ダウン)」を聴きながら全然変わってないね。僕は大体、ラジカセで聴くんですけど、ラジカセで聴くと正直に分かるんです。2回目に歌詞カードを見ながら桑田君の音楽を聴いていて、「これがアルバムの聴き方だな」って思った。特に桑田佳祐みたいに詞が深かったり、詞で裏切ったりする方は、音と共にビジュアルで聴き手を刺激させる。今はこういう聴き方をする人はいないだろうなと思う。

田家秀樹:一曲目はこれでなければいけない、という風に始まってますもんね。

小林:そうそう。

田家:そういう意味では頼もしいアルバムでもあったと。桑田さんと初めてお会いになった時のことを覚えていますか?

小林:覚えてますよ。いつかだったまでは覚えてないんですが、今のTOKYO FMであるエフエム東京が新宿のKDDIビルの30階に入っていた時に、初めてゲストで彼が来たときじゃないかな。彼は一番隅にいて、「あ、来てる!」って思った。誰かが紹介してくれて、「こんにちは」って挨拶したのが初めてです。

田家:そういうお話も色々と、後ほど振り返りたいと思っております。

小林:アルバムを2、3回聴くようになると、好きな聴き方をするようになるでしょ? そうすると違うことを考えたりするわけ。で、「若い広場」なんかは、アルバム制作がどれくらいかかったか分かんないけど、「これは初期に作ったな」とか想像するんです。別に間違っていても良いんですけど。

田家:この曲はアルバムの2曲目でなければいけないタイプの曲だと思いますね。

小林:うん、そうだと思う。早めに聴かせるような曲じゃないかな。



▲ 桑田佳祐「若い広場」


田家:桑田さんがご自身で書かれたブックレット(初回限定盤の特典「がらくたノート(波乗文庫)」)の中で「『アーチスト』だとか『アーチストさん』だとかいう呼び方がアタシは腑に落ちない」っておっしゃっているんですよ。歌い手なんだと。その辺はどう思われますか。

小林:それは彼がずっと言っていることだね。だけど、陶芸家もアーチストって呼ぶから、アーチストという名詞にこだわらなくていいんじゃないかな。彼の場合は、誰が自分をアーチストと呼んでいるかに敏感なんだと思う。

田家:誰が言ってるかで受け止め方も変わってくる。

小林:言葉に強い感受性を持っている人なんだろうね。

田家:なるほど。1979年4月発売のサザンオールスターズの2枚目のアルバム『10ナンバーズ・からっと』の1曲目に「お願いD.J.」があります。このアルバムは「いとしのエリー」が収録されているのですが、この曲にはウルフマン・ジャックのモノマネがサンプリングされていますよね。(注釈:桑田と小林はウルフマン・ジャックのモノマネで知られている。)

小林:フフフ。

田家:先程エフエム東京のスタジオで初めて会ったとおっしゃいましたが、桑田さんのデビュー直後の頃でしょうか?

小林:そうですね。次は青年館で。

田家:あ、その時僕もいました。

小林:その後、彼が家に遊びに来たんです。

田家:でました(笑)。その時にウルフマン・ジャックの話とかされたんですか?

小林:したかもしれないね。ウルフマンはとにかく曲を徹底的に聴いて、その曲がどういう絵を見せるかにこだわりがあるんだ。ただ曲をかけるだけじゃなくて、イントロの5~15秒に乗せて流すジョークを書かせるライターを雇っていて、「これはダメ」、「これはいい」って自分で選んでいた。

田家:桑田さんが克也さんにウルフマンの話を訊くことはなかったんでしょうか?

小林::「彼の何がいいと思ってるの?」といったことはよく話してた。桑田君は音楽についてあまり語らないんですよ。語らないって言うとおかしいですけど、「これはこうで、あれはああで」といったことはあまり語らないんです。自分がものすごく興味があることを人と話しても無駄だと思っているんじゃないかな? 自分のことだから。

田家:なるほどね。

小林:そういう意味ではマイペースな人。「これ面白いよ」って言って女子プロレスの雑誌を見せてくれたりしたけど、でもそれを本気で読んでいたのか分かんない。昔、『赤胴鈴之助』のビデオをプレゼントされたこともありました。

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桑田君の音楽を聴くと情景が見事に思い浮かぶ

田家:3曲目に入っている「大河の一滴」は、ご自身の青春のことを歌っているんでしょうね。

小林:とにかく、このアルバムはデジャヴ感がいっぱいですよね。

田家:どこかで聴いたような、見たような。

小林:聞き手の年代によって違うかもしれないけど、青春時代など、それぞれ違う絵を思い出したりしているはずですよ。

田家:1982年のサザンオールスターズの5枚目のアルバム『NUDE MAN』の一曲目「DJ・コービーの伝説」のDJ・コービーは小林克也さんのことですね。

小林:英語でコービーって名前があるじゃないですか。僕の苗字の小林を覚えられない向こうの方がDJコービーって呼んだんです。僕が言い始めたんじゃないんですよ。でもありがたいことだと思ってます。桑田君が僕のことを曲にしていると聞いて、びっくりしたんです。知人のことも、そんな簡単に曲に出来ちゃうんだって思いました。僕の曲なんてどんな曲になるんだろうと疑問でした。

田家:克也さんが今もされている『ベストヒットUSA』は1981年の4月にスタートで、アメリカのMTVが始まったのは1981年8月。『ベストヒットUSA』はMTVよりも早かったんですね。

小林:そうそう。

田家:克也さんの功績でもあると思うんですが、80年代に入ってから、洋楽が日本の若者に当たり前に聞かれるようになった、洋楽と邦楽が一つになり始めたのがこの頃からだと思うんです。その先例を作ったのが桑田さんだと思うんですね。洋楽も歌謡曲も邦楽も全部一緒でいいじゃんっていう先例を作った方だと思います。

小林:僕は桑田君のことを、日本人の洋楽奴隷を解放したリンカーン大統領だって呼ぶんです。僕みたいに、洋楽に限ると言ってた人がいたじゃないですか?とにかく舶来物がいいって言う人が桑田君の音楽を聴いた時に、「おお!」となるわけ。サウンドは洋楽っぽくても、歌詞をよく聴けば日本の良さが見えてくる彼の音楽に洋楽奴隷はやられたんですよ。

田家:日本音楽の革命のひとつで、日本語のロックの原型を作ったはっぴいえんどとは別の新たな革命を作ったのが桑田さんという。そういう中で、美しい日本語の歌詞で書かれているのが「簪 / かんざし」ですよね。

小林:これはいい!桑田君しか出来ない曲だよね。僕は昔、10年くらい役者のような活動をしてたことがあり、カメラ割りなどを学んだのですが、映像や演技を学んだ人は桑田君の音楽を聴くと情景が見事に思い浮かぶはず。「虚しい未練の風吹く都会(まち)では これ以上泣いたら生きられぬ」という部分では冷たい街並みが写され、「頬紅」の箇所では女の子がアップされる。その子の生き方が表情で描かれ、綺麗な顔の裏には苦悩が隠されている。ミュージックビデオなんか要らず、既に一枚の絵を見せてくれている。

田家:間奏でカメラがスーと引いていくような?

小林:そうそう!これは本当に見事だと思う。彼の特徴で「今何時?」みたいに突然カットインすることがあって、これにはびっくりすることがあるんだけど、それは違うキャラクターが言っているんですよね。

田家:あれは映画の手法ではなくビデオの手法だと思うんですよ。いきなり関係ないカットが入れるのがビデオで、映画ではそれが出来ないというのが、たぶんあるんだと思うんです。MTV世代の監督はそれが出来るんでしょう。桑田さんはそれを歌の中でもやれる人なんでしょうね。今、克也さんが言われたような情景が直感で浮かんでくるような聞き手であるといいですよね。

小林:みんな浮かんでいるんでしょうけど、言われて気付く人が多いと思います。

田家:アルバムはそういう深い聴き方も出来ます。次に流れていますのは、小林克也&ザ・ナンバーワン・バンドのアルバム『もも』から、「六本木のベンちゃん」。曲は/嘉門雄三さんで、詞は嘉門雄三さんと、克也さんの両名です。この1枚目のアルバム『もも』の中では、「六本木のベンちゃん」以外に「ブルースだ~れ」や「My Peggy Sue」などで、嘉門雄三名義で桑田佳祐さんが参加しています。

CD
▲『ももんこ』/小林克也&
ザ・ナンバーワン・バンド

小林:「六本木のベンちゃん」の作曲をお願いしたら、「克也さんが六本木のディスコでみんなを煽ってるんだよ」って、寺内タケシとブルージーンズみたいなフレーズを書いてくれたんです。でも、本来コラボというのは、そこで「そうですか、ありがとうございました」と言うのではないと思っていて。僕は、そのイメージはちょっと違うなと思ったので、自分で歌詞を書いて、「これに沿って歌うのはどうですか?」って渡したんです。そうしたら、桑田君が30分くらいでその歌詞を書き直しちゃって。間近に見ていて、偉大な才能を痛感していましたね。歌い出しの「中目黒」を「きゃーめぐろ」に書き直したり、季節が順番にきて夏になったという歌詞の部分を「秋がぶっとんじゃって 冬春はぶいちゃって いきなり夏が来た」にしたり。普通の人間が書くようじゃない詞を、即座にできちゃう彼の才能をまざまざと目の前で見せてもらいました。

田家:なるほど。そして、そんな普通の人間が書かないような歌詞を書いた彼のラブソングがアルバム9曲目「百万本の赤い薔薇」です。

小林:これを聴いた時に、桑田佳祐のリズム&ブルースの世界が続いてる、フィラデルフィアサウンドだって思いました。アレンジも良いですよね。

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桑田佳祐の偉大なところは、パロディを超えるところ

田家:さて、少しだけアルバムを離れますが、流れているのは、2009年のシングル「君にサヨナラを」のカップリングの「声に出して歌いたい日本文学」の中の1曲目「汚れちまった悲しみに」。中原中也さんの詩に曲を付けたものです。以前のインタビューで克也さんが、「桑田佳祐は文豪である」とおっしゃっていたのが、すごく印象的でした。「声に出して歌いたい日本文学」が発表された時、音楽と文学の領域を越えたというか、音楽がここまでできるんだということを桑田さんが見せてくれたなと思ったんですが、いかがですか。

小林:桑田佳祐の作詞の言葉遣いは普通の人じゃないなと、僕は本能的に感じていました。僕は、若い頃プレスリーやビートルズ、ストーンズに魅せられて、英語の本ばかり読んでいたんです。日本語から離れれば、英語が上手くなるんじゃないかと思って。だから、中学生や高校生という大事な時期に、日本の古典文学を読んでいないんです。でも、桑田さんが歌詞にする日本語はすごい。今までになかった人のやり方ですよね。聴いているうちに絵が浮かぶし、音楽で小説を書いているような感じってこういうことなんだなって思います。だから、「桑田は文豪である」と思いました。

田家:すごく言い当てている感じがしますよね。

小林:有名な評論家の方には、「えっ?」って言われたんですよ。「どういうこと?説明してよ」って。でも、なかなか言葉では説明しづらいですよね。僕も、誰かと比較したのではなく、「味わいがあるんだよなあ。世界が見えてるんだよな」って、本能的に感じたことだから。そんなときに、この「声に出して歌いたい日本文学」が発表されて、桑田っていう人は、やっぱりこういうことを勉強している人なんだなって思いました。一種の長編メドレーみたいになっていて、「言いたいことは分かった」って思いましたね。

田家:音楽は全部表現できるんだ、音楽で全部表現するんだっていう腹の決め方みたいなものも感じましたし、その上で克也さんがおっしゃる「文豪」という表現は、すごくしっくりきました。「音楽は文学を超えるんだぞ」みたいな気概で音楽をやっているんだっていうような。こんな堅苦しいこと、桑田さんは絶対に言わないんでしょうけど。

小林:超えるんだぞっていうよりも、自分には自分の道があるという思いなんだと思います。

田家:音楽の文豪、文豪的ミュージシャン。「ヨシ子さん」もある意味では、文豪的ですよね。



▲ 桑田佳祐「ヨシ子さん」


小林:そうですね。でも文豪だけど、この曲めちゃくちゃ遊んでるじゃない?体を動かして、笑いながら聞いて、でもあとに何か残るものがありますよね。音楽も、パロってるし。本来、パロディはパロディのままで本物を超えることってないじゃないですか。でも、桑田佳祐の偉大なところは、パロディを超えるところ。そして、それをオリジナルにしてします。すごいパワーだなと、改めて思います。

田家:「声に出して読みたい日本文学」と「ヨシ子さん」を並べて聞くのも、面白い試みかもしれませんね。

小林:「ヨシ子さん」は、パロディと言うには軽すぎて。彼の批判精神みたいなものが、すごく入っているなと思います。

田家:パロディという言葉で、ふと思い浮かんだんですが、ただのパロディで終わらないんだっていうことを他に日本でやろうとしたのは、1970年代の大瀧詠一さんくらいではないでしょうか。

小林:パロディだろうが、コメディだろうが、悲劇だろうが、人って悲しいからって悲しい顔をするんじゃないんです。例えば、チャップリンやバスターキートンって、芝居の時笑ってないですよね。ああいうのを、コメディの世界でdeadpanって言うんです。直訳すると、“死んだ顔”で、悲しい時も、嬉しい時も同じ顔をしているという意味。それができる役者は、大役者です。そして、桑田も演技の時にdeadpanをするんです。テクニックとして、deadpanを使っていないのかもしれないけど、本気でその演技に入っているからじゃないでしょうか。

田家:どんな音楽をやっていても全て本気な感じがしますもんね。例え、○○風と人から言われようとも、全部その世界に入りこんで、本気でやっている。

小林:コメディだからって、おちゃらけるのがコメディアンじゃないんですよ。本当の人間のコメディの中には、悲しみもある。だから、冗談ではない世界を演じることができる人が、コメディアンだと思います。桑田佳祐は、それを音楽だけではなく絵でも表現していますよね。

田家:このアルバムの中で、「ヨシ子さん」が全然浮いて聞こえないのは、全部そういうものを引き受ける位の本気の曲が、他にもいっぱいあるからでしょうね。日本の長いポップミュージックの歴史の中での桑田さんの影響力について、小林さんはどう感じていらっしゃいますか。

小林:カラオケに行けば多くの人が桑田佳祐を歌っていますよね。それも影響力だと思いますが、でも影響を受けていることをおくびにも出していないけれど、大きな影響を受けている人はたくさんいると思います。

田家:克也さんが今までご覧になってきた洋楽やポップミュージックの流れの中で、桑田さんにこんなことを継承してほしいなと思うことってありますか?

小林:もうずいぶん継いでると思うよ。むしろ、彼ほど昔のものを伝えている人はいないんじゃないかな。

田家:ちゃんと消化して、今のものとして、自分のものとして。

小林:ビートルズがそうじゃないですか?昔を継承していますよね。だから、桑田佳祐に継承してほしいって言うとおこがましいと思います。

田家:克也さんが、おこがましいと感じられるくらいの存在であると。

小林:僕は、本来は悪口を言ったり、茶化したりするのが好きなんですけどね(笑)。

田家:今日は、面と向かってお伺いしてしまいました(笑)。


桑田佳祐「がらくた」

がらくた

2017/08/23 RELEASE
VIZL-1700 ¥ 5,280(税込)

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真夏の大感謝祭 LIVE
サザンオールスターズ「真夏の大感謝祭 LIVE」

2008/12/03

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I AM YOUR SINGER
サザンオールスターズ「I AM YOUR SINGER」

2008/08/06

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I AM YOUR SINGER
サザンオールスターズ「I AM YOUR SINGER」

2008/08/06

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ダーリン
桑田佳祐「ダーリン」

2007/12/05

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風の詩を聴かせて
桑田佳祐「風の詩を聴かせて」

2007/08/22

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明日晴れるかな
桑田佳祐「明日晴れるかな」

2007/05/16

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