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特集:大貫妙子~日本のポップス史を代表する女性SSW
日本のポップス史を語る上で、どうしても外せない女性シンガー・ソングライターのひとりが大貫妙子だ。エッジの効いた音楽性を持ちながらも、その透明感のある美しい声で聴く人々の心に響く音楽を多数作りげてきた。ここでは、シュガー・ベイブのメンバーとしてデビューし、輝かしいキャリアを積み重ね、数多くの名曲を生み出してきたミューズの軌跡を追ってみよう。
東京生まれの大貫妙子は、ロック喫茶に通う音楽好きな女の子だった。美術学校で陶芸を学んだが、途中退学。その後、ひとりで弾き語りをしていたところ、フォーク・グループに参加したり、伝説のロック喫茶「ディスク・チャート」のセッションに加わるなどして活動。ソロ・デビューの話もあったが、山下達郎に誘われ、1972年にシュガー・ベイブに加入した。地道なライヴ活動の末、大瀧詠一のプロデュースにより1975年にアルバム『SONGS』で本格的なデビューとなった。
しかし、翌1976年の4月にバンドは解散。その後すぐに大貫はソロ・デビューに向けてレコーディングを開始し、9月にはファースト・アルバム『Grey Skies』を発表した。シュガー・ベイブ時代のレパートリーである「愛は幻」や「約束」などを含む本作は、盟友の山下達郎だけでなく、その後音楽的な重要なパートナーとなる坂本龍一がアレンジで参加。シュガー・ベイブの延長線上に、ジャズやソウルのエッセンスを取り入れて新たな大貫の魅力を引き出した。続く『SUNSHOWER』(1977年)ではさらにソウル、ファンク、クロスオーヴァーといったコンテンポラリーな味付けがなされ、よりサウンド志向の作品に仕上がった。なかでもニュー・ソウル風の「都会」は、のちにジャパニーズ・レアグルーヴの名曲として再評価されることになる。
しかし、思うようにセールスが伸びなかったこともあり、心機一転RVCに移籍。音楽評論家の小倉エージをプロデューサーに迎え、3作目のソロ作『MIGNONNE』(1978年)を発表。「突然の贈りもの」や「横顔」といった初期の名曲が収められているが、こちらもセールスは惨敗し、しばらく沈黙気に入る。2年後に再開するが、プロデューサーの牧村憲一からの提案で、ヨーロッパ志向へと方向転換。坂本龍一と加藤和彦にアレンジを任せた『ROMANTIQUE』(1980年)が高く評価される。その後、『AVENTURE』(1981年)、『Cliché』(1982年)と続き、これらは「ヨーロッパ三部作」として人気が高い。また、これらには「新しいシャツ」、「若き日の望楼」、「恋人たちの明日」、「黒のクレール」。「色彩都市」といった代表曲が網羅されている。
その後の彼女は、ある意味でしっかりとブランドを作り上げたといえるだろう。ドラマ主題歌としてヒットした「夏に恋する女たち」を含む『SIGNIFIE』(1983年)、ミディに移籍して坂本龍一との80年代最後のタッグとなった『COPINE』(1985年)、巨匠マーティ・ペイチや矢野顕子を迎えて作り上げた『PURISSIMA』(1988年)と続き、その後は小林武史とのアコースティック・ポップ路線で『NEW MOON』(1990年)など3枚を発表。ブラジル音楽に傾倒した『TCHOU!』(1995年)、坂本龍一との再会となった『LUCY』(1997年)、フレンチ路線へと回帰した『attraction』(1999年)、山弦とのコラボレーション『note』(2002年)と、続々と作品を発表。また、この間には『Shall we ダンス?』(1996年)や『東京日和』(1997年)などの主題歌も手がけ、サウンドトラックの分野でも高く評価された。
その後もツアーは精力的に行うが、少しずつ作品の数をセーブしていく。とはいえ、発表するアルバムはすべてが傑作レベルであることには間違いない。セルフ・カヴァーでありながら端正で美しい『Boucles d'oreilles』(2007年)、坂本龍一のピアノだけをバックに歌った『UTAU』(2010年)、小松亮太とのコラボレーション作『Tint』(2015年)と、話題作が続いた。また、2016年にはソロ・デビュー40周年企画として、豪華なBOXセットや千住明とのシンフォニック・アルバムもリリースされた。
▲ 「大貫妙子ソロデビュー40周年BOX パラレルワールド」
▲ 「大貫妙子 Symphonic Concert2016 DVDダイジェスト」
このように、長いキャリアの中で多様な活動を行ってきた大貫妙子だが、一貫して変わらないものがある。それは、彼女の声の魅力であり、その声を活かした音楽を追求してきたということだ。もちろん、サウンドは時代やその時の嗜好によって変化してはいるが、どこを切り取っても凛とした歌声の素晴らしさは変わらない。これからもまだまだ彼女は精力的に歌い続けていくはず。その唯一無二の世界をレコードやライヴで味わってもらいたい。
公演情報
大貫妙子
ビルボードライブ大阪:2017/9/1(金)
1stステージ開場17:30 開演18:30 / 2ndステージ開場20:30 開演21:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ東京:2017/9/9(土)
1stステージ開場15:30 開演16:30 / 2ndステージ開場18:30 開演19:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ東京:2017/9/11(月)
1stステージ開場17:30 開演19:00 / 2ndステージ開場20:45 開演21:30
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
BAND MEMBERS
大貫 妙子 / Taeko Onuki(Vocals)
小倉 博和 / Hirokazu Ogura(Guitar)
鈴木 正人 / Masato Suzuki(Bass)
沼澤 尚 / Takashi Numazawa(Drums)
林 立夫 / Tatsuo Hayashi(Drums)
フェビアン・レザ・パネ / Febian Reza Pane(Piano)
森 俊之 / Toshiyuki Mori(Electric Piano, Organ, Synthesizer)
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Text: 栗本斉
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