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中島美嘉 『YES』インタビュー
孤高の存在。そんな印象を彼女に対してこれまで抱いていた人は少なくないだろう。実際、中島美嘉という人は、少し前までは、他のアーティストと何かをしたり、簡単に人を信じたり、心を開いたりすることを極端に嫌がっているように見えた。それは、表現者としての自身の世界を守ろうとするが故の感覚だったわけだが、今作『YES』を聴いていると、すべての人を肯定し、繋がりを持つことの重要性を打ち出しているように感じられる。一体、中島美嘉に何が起きているのだろうか。彼女は構えずにすべてを語ってくれた。
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--ニューアルバム『YES』を聴かせていただいて感じたことなんですけど、今作はそのタイトル通り、すごく肯定的なアルバムですよね。僕は中島さんの『FIND THE WAY』という曲が大好きなんですけど、あれと同じベクトルに向かった世界観を今作からは感じたんですが、自身ではどう思われますか?
中島美嘉:開放的なイメージがありますね。そればかりを意識して作ったわけじゃないんですけど、出来上がって聴いてみたら開放的な作品になっていたので、無意識なんですけど、そういうベクトルだったんでしょうね。前向きになってきたんだなって。そんな印象です。
--そうした楽曲が今作に集約された背景には、当然、中島美嘉の今の心境が大きく関係していると思うんですが、実際に今の中島さんはいろんな物事や対人間に対して肯定的になっているというか、心がオープンな状態になっているんですかね?
中島美嘉:そうですね。仕事では特にそうなってきましたね。
--その心境の変化は、いろんな出逢いや体験によって起きたモノ?
中島美嘉:そうですね。出逢いが一番大きかったと思います。
--個人的には、今作にも収録されている『ALL HANDS TOGETHER』、あの曲との出逢い、そしてあの曲を通してアラン・トゥーサンと出逢えたことが、まず大きく関係しているんじゃないかと思うんですが、どうでしょう?
中島美嘉:それがあったから、こういうアルバムになったんだと思います。
--あの、資料によると、アランと出逢う少し前には歌を辞めることも考えたらしいですが、それはなぜ?
中島美嘉:アランと出逢う前も前向きは前向きだったんですけど、自信がどんどん無くなっていっていたんですよね。それで怖くなってきてしまって。怖いと言っても「もう立てない、無理」という状態ではなかったんですけど、そうなってしまう前にもう辞めてしまうか、辞めたくないならその不安を超えなきゃいけない。そのどちらかだなと感じていたんです。そうなった一番の理由は、いろんなことを知る上で、例えば、自分の周りの人や物事がどれだけ動いているかとか、ライブであればどれだけの人数が関わってくるのかとか、レコーディングで言えば、耳が肥えていくと、歌っているときにどうしてもある音が気になって、自分の声が聞こえなくなったりとか。そういうことが増えていくと、すごく不安が大きくなってしまって。自分らしさが無くなってきてしまった気がしたんですよね。
--中島さんが大事にしてきた“自分らしさ”とは、どんなモノだったりしたんですか?
中島美嘉:何にでも屈しないし、動じずにいられる、何も知らない良さっていうのが自分にはあると思っていたんですよ。それで、あんまり勉強もせずに、感じるままにすべてをしてきたから。まぁ今もその状態に戻ってこれたから、そういう状態なんですけど。あんまり小難しいことを考えて歌っても、その難しさっていうのは、伝わるモノではないし。なので、感じるままに歌って、その感じたことを相手が感じ取る。それが一番良いと思うんですけど、あの時期はそういうところが「無くなってきちゃったのかなぁ」って気付いてしまって。
--それがアランと出逢って良い方向へひっくり返すことが出来たと。
中島美嘉:そうですね。より前向きな姿勢とか、人に対してオープンな感じとか、そういうモノを彼から学んで。音楽性もそうですが、人として尊敬できるところもすごく大きくて。だから「アランみたいな生き方がしたい」って思ったんですよね。人として。
--で、そんなアランとの出逢いの後にシングルとしてリリースされた『MY SUGAR CAT』からも中島美嘉の変化みたいなモノはすごく明確に感じることができたんですが、自身ではあの曲にどんな印象や感想を持たれていますか?
中島美嘉:この曲は、五島良子さんに書いて頂いたのですが、五島さんのメロディってすごく自分に合うんですよ。だからこの曲をやるのは、すごく楽しみだったんです。でもちょうど迷っている時期でもあったんですよ。ただ迷っているときに迷ってることを人に悟られたくなくて、「歌詞でちょっと毒っ気を出してみよう」とか思って(笑)。
--僕は中島美嘉という人は『MY SUGAR CAT』的な表現はどちらかと言えば苦手な人。っていう印象だったんですよ(笑)。毒っ気はあるけど、実際にあんなに可愛らしい楽曲はこれまでほとんどなかったですし。
中島美嘉:でも正直なところ、私はこういう歌詞を書くのは楽しいんですよ。なんて言ったらいいんだろう?「可愛いだけじゃないぞ、女は」みたいなところを書くのがすごく好きで。『MY SUGAR CAT』とすごく似たような歌詞で『Carrot&Whip』(サードアルバム『MUSIC』に収録)っていう曲があるんですけど、またあんな雰囲気の曲が良いねって、スタッフと話してたのもあったので、そういう歌詞にして。結果、ファンのみんなも喜んでくれて。「久々に女の子らしい美嘉ちゃんを見ました」とか言ってくれたり。
でも元々“可愛らしく”とか、そういう表現は実際苦手なんです。それでどう頑張って可愛く歌っても「あ、可愛くならないな」と(笑)。
--(笑)。
中島美嘉:それに気付いてからは、『Carrot&Whip』や『MY SUGAR CAT』みたいな曲も私らしく歌えるようになりましたね。
Interviewer:平賀哲雄
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--あとですね、去年末、映画『NANA2』を観に行かせてもらったんですけど、もう明らかに前作以上にひとつひとつのセリフに感情が乗っている大崎ナナがそこにいたんですよ。で、これもまた心境の変化がもたらしているモノなんだろうなって感じたりしたんですが、自分ではどう思われますか?
中島美嘉:『NANA2』で慣れたっていうのもあるんですけど、『NANA』では、いろいろ手厳しい意見や感想があったり、『NANA』から『NANA2』までの期間に本当にいろんな反応があり過ぎたんですよ。それで「あぁもうこうなったら一生懸命やるしかないな」っていう発想になったんです。最初の『NANA』のときは、やっぱり迷いがあったりとか、不安の方が大きくて。私も原作のファンだったし、だからこそ自信を持てなかったりもしたし。でも『NANA2』になって、みんなの結束力がより出てきて、本当に凄かったんですよ。キャストのみんなも本当に仲が良くて、監督も全然様相が変わっていて。多分、監督と私が一番様相が前回と違ったんですよ。お互いの気持ちも同じ方向に向いていたんだと思うんですけど。
--あの、特にですね、タクミにハチを奪われてしまったノブをナナ(中島美嘉)が抱きしめるシーンあるじゃないですか?こういうこと言われると照れくさいかもしれませんが、中島さんのノブに向かって感情的に叫ぶ姿に僕はボロボロ泣いてしまいました(笑)。
中島美嘉:(笑)。
--で、なんでボロボロ泣けたかって言ったら、もちろん脚本や見せ方の力も大きいわけなんですけど、そこで叫ばれた言葉と感情に迷いがなかったからだと思うんですよ。さっきの話ともリンクするんですけど、中島さんの心が開けてるから。
中島美嘉:あのシーンに関しては、撮影に入ってから結構後半の方で、本当にみんなが仲良くなった後だったんですよ。で、あれがノブじゃなくて、実際にナリ(成宮寛貴)が同じようなシチュエーションで傷ついていたとしても、本気であんな風に叫べるぐらいの関係になっていたんですよね。それぐらい仲が良くなっていた。あのシーンをそんなに仲が良くなくてやっていたら、あんな風にはなっていなかったと思う。私はあまり器用じゃないし。まだ女優としては全然経験もないし。だから本物の感情がそこにないと、ああいう感じにはならない。あのときは本当にみんなでご飯行ったりして仲良くなった後だったから、本気で向かっていくことが出来たんですよ。
--そこで仲間と打ち解けていったり、その結果、良いモノが生まれたりした。その流れっていうのは、今作『YES』にも大きく反映、影響していたりしますか?
中島美嘉:そうですね。『NANA2』のおかげで気付けたこともいっぱいあったし、あれがなければ、今作の方向性もかなり違っていたと思う。もしかしたら、アルバムを出す話自体、無くなってしまっていたかもしれないし、そのまま歌うことを辞めちゃっていたかもしれないし。それぐらい私にとっては大きな出来事でしたね。
1ヶ月~2ヶ月にわたって共演者の人とずっと一緒に過ごすって、音楽活動をしているアーティスト同士では、まずないでしょ。それに、そんなに長く一緒にいないにしてもアーティスト同士で一緒に何かをするっていうのが、私はすごく苦手だったんですよ。一緒にいること自体が苦手。でも『NANA』では、主役だったから。主役じゃなければ放っておいてもらってもよかったかもしれないけど、主役がしっかりしていないと、周りもやりづらいし。そういうことをふと思って、「自分から心を開いてみようかなぁ」って。そしたらみんなもすごく楽しそうに話し掛けてくれたりするようになったのが、一番大きかった。--心を開いてみたら、それは気持ちの良いモノではあったんですか?
中島美嘉:うん、楽になった!
--アーティスト同士で一緒に居たり、何かしたりするのが苦手というのは、前から言ってましたけど、そこで心を開こうとしなかったのは、何が怖かったからなんですか?
中島美嘉:後々自分で後悔するんじゃないか?とか、そういうことなんですけど、相手の意見に惑わされてやりたいことが出来なかったりとか、それが嫌だったんですよね。
--それがここに来て「これでいいんだ!」というのを掴めたというか。
中島美嘉:うんうん。何か失敗してそこで反省したことがプラスになっていくことを実感して分かってきたからだと思うんですけど。
--で、そんな今の状態が素直に表現されているのが、今作『YES』だと思うんですけど、今作の面白いところは、実にたくさんのアーティストが携わってそれぞれの個性を発揮しているのにも関わらず、どれも今の中島さんの心境に美しくハマっているところだと思うんですよね。
中島美嘉:そうですね。今回参加して頂いたアーティストの方って、特に『ALL HANDS TOGETHER』はそうなんですけど、「どうして参加してくれるんだろう?」って思うぐらいキャリアのある方々で。でもそれは、見栄とかお金とか、そういうこととは関係ないところで活動している人たちが「こうやって集まってきてくれるんだなぁ」って。それは今回のこのアルバムでも強く感じて。「なんか似たようなことやってるな」とか「楽しそうだな」とか「良いことやってるな」と思った人が集まってきてくれる。「そういう気持ちは伝わってくるんだなぁ」っていうのは、思いますね。
--そうして集まった曲を並べた今作を聴いて、どんなことを感じたりしました?
中島美嘉:今回「ブラックミュージックで、音楽的に原点回帰するアルバムを作りたいと思ってます」という話を参加してくださった方たちには前もって説明させてもらってるんですけど、ひとえに「ブラックミュージック」って言っても人それぞれ捉え方は違うのが面白いなとは思いましたね。
--これは結果論かもしれないんですけど、尾崎豊さんの『I LOVE YOU』とルイ・アームストロングの『WHAT A WONDERFUL WORLD』のカバーがこのアルバムに収録されたところで更に意味深い存在になっているところなんですよね。偶然だけどこのタイミングで中島さんが歌っていることに必然性を感じるというか。自分ではどう思いますか?
中島美嘉:カバー曲ってカバーすること自体難しいので、毎回「どう?」って投げかけてもらわないと自分から腰を上げて歌うことはないんですけど、『I LOVE YOU』と『WHAT A WONDERFUL WORLD』は、あんまり違和感なく歌えたんですよ。どちらかと言うと、自分のオリジナル曲のように歌えたので、確かに今作の最初と最後がカバー曲っていうのは、あんまり感じなかったですね。
Interviewer:平賀哲雄
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--またそうした誰もが知る名バラードと並んでも決して霞むことのないオリジナルのバラード曲『見えない星』。この曲には、どんな印象を?
中島美嘉:この曲は、私がとにかく歌いたくて、シングルにしたんですけど、やっぱり良いですね。歌いたい歌をうたえる環境は。
--この曲の「寂しさ分かり合えた人より こんな寂しさくれるあなたが愛しい」っていうフレーズがあるじゃないですか。この詞を見たとき、「これを書いた人は天才だな」って思ったんですよ。この上ない切なさを宿した言葉だなと感じて。
中島美嘉:メロディももちろんですが、歌詞に関してもすごく好きな世界観なんですよ。それもあって「この曲が良い」って推したんです。歌詞については「あ、こういう人がいるんだな」って思えて。自分ではきっとこんな歌詞は出てこないし、「言われてみれば、そうだよなぁ」って純粋に思えたので。
--またシングルとしては久しぶりのバラード曲でしたけど、実際に歌ってみていかがでした?
中島美嘉:ちょっと迷いましたね。バラードを歌うときの感覚がなかなか元に戻らなかったんですよ。いろんな練習を積み立てて歌っているわけではないので、一回逸れると戻すのが大変なんですよ。『NANA』で「ロックだ、ロックだ」って思い込んでずっと『NANA』の曲を歌ってきて、いきなりこういうバラードを歌うのは・・・まぁ自分で言いだしたんですけど(笑)、「また歌えなくなっちゃった」って不安になりましたね。でも徐々に感覚を取り戻して良くなっていった感じですね。
--ではでは、他の収録曲についても触れていきたいんですが、3曲目の『素直なまま』(RYOJI from ケツメイシ)。『見えない星』もそうですけど、この世界観を男性が作っていることに本当に驚かされて。女性の視点から見てどう思いますか?
中島美嘉:この曲は戸惑いましたね。「この曲は果たして私が歌っていいんだろうか?」「私が歌って良い曲だと思ってもらえるんだろうか?」って。この曲の良さが伝えられるかどうかがすごく不安だったんですよ。RYOJIさんが仮歌を入れてくださったんですけど、それを聴くとめちゃくちゃ良い曲なんですよ。「これはRYOJIさんが歌った方がいいかもよ」って本当に思うぐらい。それでいろいろ考えたんですけど、とりあえず歌ってみようと思って。で、歌ってみて、スタッフが聴いて、「似合わないね」ってなったらそれは仕方がない。そうなったら悲しいけどやめようと思ってたんですけど、実際に歌ってみたら、意外なことに、歌えば歌うほど楽しくなってくる曲で、「おぉ!いいかも」って。
--この曲は「負けない私 人前では泣けない私」っていうフレーズを中島美嘉に歌わせたらどうなるか?っていうのをすごく分かった上で作ってる気がするんですよ。もうRYOJIさんのしてやったりの顔が浮かぶというか(笑)。
中島美嘉:そうですね(笑)。こんなにハッキリ内面を打ち出すような表現をしている詞は今回初めてだったんですよ。大抵私が歌詞を頼むと「弱い」とか「悲しい」とか、そういったテーマが多いので、「そういうノリの声なのかな」って思っていたりもしたんですけど。でも私自身も「きっとこの歌詞を自分が歌ったら良いかもしれないな」とは、どこかで思っていたんですよ。だから「チャレンジしよう」と思えたんですけど。
--また今の中島さんの心情、このアルバムの雰囲気によくハマっているなと感じたのが、Lori Fine(COLDFEET)が手掛けている『JOY』と『THE DIVIDING LINE』。まず『JOY』には、どんな印象や感想を?
中島美嘉:「こんなに素直で可愛い曲はない」と思いましたね。今まで頂いたLoriの曲は、ほとんど私が日本詞を付けるんですけど、『JOY』に関しては「Loriが書いてきてくれた英詞のままがいい」と思って。そこはスタッフも同じ感想だったので、そのまま歌ったんですけど、日本語で日本人が歌うと恥ずかしくなるような内容なんですよ。でも英語だとなぜかすんなり聴けたりするんですよね。なんか「ありがとう」って言ってるなぁ・・・何に対しての「ありがとう」なんだろうなぁ・・・でも「ありがとう」って言われてるんだなぁ・・・ぐらいの感じが良いなと思って。
--また作詞を自身で手掛けられた『THE DIVIDING LINE』は、ある意味今作のタイトルトラック的ナンバーだと思うんですが、こうした詞が生まれた背景にはどんな想いやキッカケが?
中島美嘉:これは、今までのストック曲の中から、私のすごくやりたかった曲で。はじめは今回このアルバムに入る予定はなかったんですけど、どうしても作品にしたかったから私が詞を先に付けて「やりませんか?」って提案したんですよ。
--この曲の最後で中島さんは、あらゆるモノを、あらゆるときを、すべてを“YES”と肯定しようと歌っています。それはこれだけネガティブな物事が日々舞い降る世界や人生の中で成立させるのはすごく難しいことだと思うんですけど、中島さんはどう思われますか?
中島美嘉:最近“ネガティブ流行り”というか、ネガティブに演じる人も意外といて。「面白くないなぁ」と思って(笑)それを見てるんですけど。やっぱり「地球がヤバイぞ」とか「凄い犯罪が起きてるぞ」とか、そういうのって一回理解したり、一回受け入れないと、絶対に実感として湧くことなんてあり得なくて。「ふ~ん」って思ったままでは、変わりようがない。一人でも多くそれを実感して受け入れる態勢にならない限り、それは変わらないから。もう起きてしまったことはどうしようもないけど、それを一回みんな受け入れることで実感が湧くんじゃないかと思うんですよね。
--ネガティブを隅に追いやって、ポジティブぶってても何も変わらなくて、ネガティブを一回受け入れたことでそれをポジティブに転換する作業をしないとっていう。
中島美嘉:そうそう。
Interviewer:平賀哲雄
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--ここに来て、そういう想いを分かりやすく表現したい、歌いたいと思ったのは、なぜなんでしょうね?
中島美嘉:自分がそれを実感できたからだと思うんですよね。「いよいよヤバイな」とか、「自分がやらなきゃいけないな」とか。私は、私が言っていることに耳を傾けている人がいるってことを実感しなきゃいけない立場で、影響力が多少なりともあるっていうのは分かっている。そしたら私のような職業の人たちが何かをやるのが一番早いと思うんですよ、浸透するのが。だから私は、私の無理のない範囲で何かをやっていこうと思って。
--それをすごく意識するようになったのは、カトリーナのことが大きかったりするんでしょうか?
中島美嘉:確信したのは、あの時ですね。やっぱり「何かしたいな」「何か役に立ちたいな」とは思っていたんですけど、実際に行動を起こしてみると、「なんだ?意外とやれるじゃん」って気付いたんですよ。「チャリティって難しいなぁ」とか「遠い存在だなぁ」とか思っていたんですけど、やろうと思えばやれることを知ったんですよね。
--そうした想いが溢れている『THE DIVIDING LINE』のあとも、それに劣らず意味深いナンバーが続きます。佐藤タイジさんが曲を手掛けられた『汚れた花』。このナンバーはどんなやり取りの中で生まれていった曲なんでしょうか?
中島美嘉:“選曲会”っていう曲を選ぶ会議があるんですけど、そのときにはリストに無かった曲なんですよ、実は。それでアルバムの制作が進む中で「シアターブルックのタイジさんが書いてくれたんだよね」ってスタッフがその曲を持ってきたんですよ。それですぐに聴いてみたんですよ。そしたら、これがまた良い曲で!「この人は誰なんだ!?」みたいな(笑)。「これは是非歌いたい!」って言って、そこからスムーズに形になっていった曲ですね。
--また、この曲の中島さんが書かれた詞には、すごく考えさせられました。どんな瞬間にこんな想いが溢れ出てきたんですか?
中島美嘉:仕事をしていると、どうしてもこういう瞬間があって。特に人に見られる仕事だし、どこかで飾っている自分がいたりとか、上手くやり過ごそうとしている自分がいたりとか(笑)。そういうときに「あぁ~、またやっちゃったな」って思うんですよ。でもそれをやらなければいけない瞬間というのは、多々あって。夢を与える仕事というのもあるし。だけどそれを後々反省とか、後悔できる自分をずっと保っていたい。あとでちゃんと「あぁ、やっちゃったなぁ」って、気付ける自分でいたいなって。そういう大人の嘆きみたいなモノを書きたいと思ったんですよね。
--この曲の最後に「僕の背中を押すのは 幼い日約束した あの僕だった」というフレーズが出てきますが、これはどんな想いや記憶から出てきた言葉だったりするんでしょうか?
中島美嘉:小さい頃って、すごく純粋に物事を見るから、見たままにしか理解しないじゃないですか。自分もそうだったし。で、例えば私は、その頃に憧れていた世界に今こうして入ってるわけですけど、別に入っていないとしても、その憧れていた世界は「そんな楽な世界じゃないだろう」と、大人になるに連れて大体気付くようになっていく。でもそれに気付かない子供たちが「キラキラした世界だ」って思っていることに対して、嘘を付きたくない。でも疲れていて嘘を付きそうになったときに、小さい頃の自分と対峙して、背中を押してもらうんですよね。
--続いて『GOING BACK HOME』。Every Little Thingの持田(香織)さんが歌詞を手掛けたナンバーですが。
中島美嘉:私は彼女のやさしい詞がすごく好きで。で、彼女自身も本当に気持ちの素敵な方なので、やっぱりそれがちゃんと詞に出ているから、今回頼んで良かったなと思いますね。私が持田さんに歌詞を頼んだことに対して「意外だな」って思う人がいっぱいいると思うんですね。で、実際にあまり接点がないことをしていると思うんですよ。見た目も書く歌詞の内容も音楽性も全然違うところに居て。でもやっぱり気持ちが一緒だと全然違和感がないんですよ。それをこれでみんなに知ってもらえるんじゃないかなと思ってます。
--そして、とても大きな、とても大切なメッセージが綴られたナンバー『祈念歌』。これね、おそらく宮沢(和史)さん「あ、これ、自分で歌いたい」って思ったとおもうんですよ(笑)。それぐらい素晴らしいメッセージソングだと思うんですが、自身ではどんな印象や感想を?
中島美嘉:宮沢さんにとっては、『祈念歌』のような歌詞って自然と生まれてくるテーマだと思うんですよ。でも私たちの世代にしたら少しテーマが大きいかなって思うんです。だからそのズッシリ響く曲をどうやってみんなにちゃんと聴いてもらおうかと思って、そこは結構考えましたね。結果、まず歌い方を軽くしようと思って。みんなが「なんか気持ち良いなぁ」「どんなことを歌ってるんだろう」って思ってくれるような歌い方が良いかなと思ったんですよね。
--今日、『YES』の各収録曲についての話を聞かせていただいて思ったことでもあるんですが、今作ってもちろん中島美嘉のアルバムなんですけど、中島さんだけじゃなく、アランも持田さんも宮沢さんも、本当に『YES』というみんなの想いが込められたアルバムだと思うんですよ。表現者として、メッセンジャーとして、想いを届ける者としての、みんなのエネルギーが集約された作品。そんな感じがするんですけど、自身ではどう思われますか?
中島美嘉:そうでしょうね。やっぱり考えていることとか思っていることって、なぜか話をしていなくても伝わっていって、「おぉ、この人、同じ匂いがするぞ」って私が思うこともあるし。みんなが同じ想いでこのアルバムに参加してくれたことは、すごく嬉しいですね。
--そんな今の中島美嘉の心情や想いをリアルに感じ取れるのが、今作『YES』を引っ提げた【MIKA NAKASHIMA TOUR 2007】だと思うんですが、久しぶりの全国ツアー、どんなモノにしたいなと思っていますか?
中島美嘉:去年ライブが出来ていないんですけど、その間に出したアルバムが今作も含め3枚もあるんですよ(笑)。それをまとめるのがすごく大変で、みんなで迷ってます。やっぱり一人でも多くの人に満足して帰ってほしいから、「あぁ、あの曲聴きたかったのに」っていうのが、できるだけ少ない方が良いじゃないですか。それはどうしても出てきちゃうと思うんですけど、できるだけないように今考えてます。
--では、最後に毎度毎度なんですが(笑)、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
中島美嘉:ん~~~~~~~っ(笑)。このアルバムで癒やされたりスッキリしてもらえたら嬉しいです。
Interviewer:平賀哲雄
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