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ジョン・レジェンド、約3年ぶりの新作『ダークネス・アンド・ライト』発売記念特集

JohnLegend

 アメリカが世界に誇るシンガー・ソングライター、ジョン・レジェンド。2004年のデビュー以来、その名の通り数々の“伝説”を作り続けてきた。2006年の第48回グラミー賞ではマライア・キャリー、カニエ・ウェストと肩を並べ同年最多8部門でノミネート、最優秀新人賞を含む3部門を受賞した。その後もミュージシャンとしての才能を開花させ数多くの賞を授賞し、またその音楽性から幅広い層から支持を受けている。

  そんなジョン・レジェンドの約3年ぶりの最新作『ダークネス・アンド・ライト』が2016年12月7日にリリースされた。2016年は妻でモデルのクリッシー・テイゲンとの間に最愛の娘、ルナ・シモン(Luna Simone)も授かり、父親としては初となる愛に溢れた、そしてジョン・レジェンドの<今>の人生が反映された作品になっている。また、今作はピアノだけでなく、バンドとストリングスのサウンドをベースにし、これまでにない作品に仕上げた。そんな最新作とジョン・レジェンドのこれまでの軌跡を音楽ジャーナリストでラジオパーソナリティも務める高橋芳朗氏に辿ってもらった。

由緒正しいグッド・ミュージック継承者

 もう10年も前の話になるが、カニエ・ウェストは2006年に「Grammy Family」なるタイトルの曲をリリースしている。これは、今年のビヨンセのツアーでサポート・アクトを務めていたDJキャレドのデビュー・アルバム『Listennn...The Album』で聴くことができる。

 「Grammy Family」とは要するに、“俺のレーベルが抱えてるアーティストはグラミー賞の常連ばかりだぜ” というボースト(自慢、誇張)になるわけだが、このいかにもカニエらしい大言壮語がそれなりに説得力を有していたのは、なんといってもジョン・レジェンドの存在によるところが大きい。

CD
▲『GET LIFTED』

 というのも、カニエ・ウェストが立ち上げたレーベル「G.O.O.D.ミュージック」の第一弾アーティストとして2004年12月にアルバム『Get Lifted』でデビューしたジョン・レジェンドは、まさにこの2006年のグラミー賞で計8部門にノミネートされて主要部門の最優秀新人賞や最優秀R&Bアルバム賞など3部門で受賞を果たしているからだ。

 しかも、この8部門ノミネート/3部門受賞というジョンの成果は、同じ2006年のグラミー賞においてセカンド・アルバム『Late Registration』が高い評価を受けたボスのカニエと肩を並べる堂々たる数字であった(カニエは最優秀レコード賞や最優秀アルバム賞など主要部門を含む8部門でノミネートされていたが、結果最優秀ラップ・アルバム賞など3部門の受賞にとどまった)。つまり、のちにカニエが「Grammy Family」なんて大見得を切ることができたのは他でもない、まだデビュー間もなかったジョンの大活躍が拠り所になっているのである。

 そしてレーベルの出世頭であるジョンは、カニエと共に現在もなおG.O.O.D.ミュージックにおいて「Grammy Family」の看板を守り続けている。ジョンのデビューから現在に至るまでのグラミー賞ノミネート数は実に30度に及ぶが(受賞は10度)、これはジョンより一足早い2003年にソロ・デビューしたビヨンセの38度(受賞17度)に迫る、2000年以降にデビューしたR&Bシンガーとしては極端に突出したケースになる。


▲John Legend - All of Me

 ソングライターやプロデューサーといった音楽関係者の投票をもとに選考されるグラミー賞のような場でのジョンの圧倒的な支持の高さは、彼の真摯なミュージシャンシップ、言わばミュージシャンとしての「折り目の正しさ」みたいなものによるところが大きいと考えている。グラミー賞最優秀楽曲賞にノミネートされたデビュー・ヒットの「Ordinarly People」からデビュー10周年のタイミングで勝ち取った初の全米No.1ヒット「オール・オブ・ミー」まで、ピアノの弾き語りでドラマティックなバラードを丁寧に歌い上げる姿に引っ張られているのかもしれないが、やはりジョンには「由緒正しいグッド・ミュージック継承者」というイメージが強い。

 ジョンはザ・ルーツと共につくり上げたカヴァー・アルバム『ウェイク・アップ!』(2010年)に象徴されるようにソウル・ミュージック/ブラック・ミュージックの伝統を継いでいくことに意識的でありながら、影響を受けたアーティストとして真っ先に挙げるスティーヴィー・ワンダーやニーナ・シモンのようにジャンルをクロスオーヴァーしていくことにまったく躊躇がない。ジョンが自身の作品でたびたびレゲエやボサノバに挑み、ライヴで「アイ・ウォント・ユー」や「サムシング」といったビートルズ・ナンバー、さらにはサイモン&ガーファンクル「明日に架ける橋」をレパートリーにしていたことは彼のファンならばよくご存知のはず。近年では、デヴィッド・ゲッタ「LISTEN / リスン」やカイゴ「ハッピー・バースデー」などEDMアーティストとのコラボにも積極的だ。

 ソウルマンとしての強固な軸がありながらどんな音楽にもフレキシブルな対応を示し、現代的な感覚を持ち合わせている一方で歴史への造詣も深いーージョンがレイ・チャールズ、ルーサー・ヴァンドロス、スライ&ザ・ファミリー・ストーンなどのトリビュート・アルバムで重宝され、セルジオ・メンデス、トニー・ベネット、クインシー・ジョーンズ、バーブラ・ストライザント、スモーキー・ロビンソンといった業界の大御所たちから共演相手としてこぞってラブコールを受けているのは、きっとこういうところに起因するのだろう。


▲John Legend - Ordinary People (Live on Letterman)

 ジョンはこうした活動のなか、2008年にバラク・オバマ大統領の公式サポート・ソング「If You're Out There」を提供したのを契機として、社会的/政治的ステイトメントを率先して発信していくようになる。コモンとのタッグで2014年にリリースしたマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の伝記映画『グローリー/明日への行進』のテーマ曲「グローリー」では、60年代の公民権運動と現代の「Black Lives Matter」ムーヴメントを重ね合わせたメッセージが高く評価されてアカデミー賞の最優秀主題歌賞を受賞している。


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アーシーでブルージーでスピリチュアルな新作
『ダークネス・アンド・ライト』

CD
▲『ダークネス・アンド・ライト』

 「かつてニーナ・シモンはこう言いました。いま我々が生きている時代を作品に反映させることは、アーティストにとっての責務であると」ーーこれはジョンがアカデミー賞授賞式で披露したスピーチの一部だが、ここで彼が表明したミュージシャンとしての矜持は今回のニュー・アルバム『ダークネス・アンド・ライト』にもしっかりと息づいている。

 「先日の大統領選で国民が選択した道に対して、多くの人々が疑問や不安を抱いていると思う。そんななかで僕がこの『ダークネス・アンド・ライト』で伝えようとしているのは、たとえ世の中でなにが起こっても僕らには愛がある、ということ。愛し合う人がいて、守るべき人がいて、大切にしなければならない人がいる、というメッセージだ。それと同時に、戦うことにはどんな意味があるのか、意見を主張することにはどんな意味があるのか、そして、そうするだけの価値はあるのか、ということも問い掛けている。僕自身、その答えは『イエス』だと思っているよ」


▲John Legend - Love Me Now

 メジャー・デビューから10年が経過したこと、「オール・オブ・ミー」でついに全米制覇したこと、そして妻クリッシーとのあいだに初めての子供ルナ・シモーン・スティーブンスを授かったことなどが「独り立ち」を決意させたのだろうか。『ダークネス・アンド・ライト』はジョンのディスコグラフィ中、カニエ・ウェストが一切関与していない初めてのアルバムになる。よって、制作スタッフのキャスティングはジョンがイニシアチブを掌握していたと考えていいと思うのだが、ここで彼がプロデューサーとして白羽の矢を立てたのはアラバマ・シェイクス『Sound & Color』を手掛けて今年のグラミー賞の最優秀プロデューサー賞にノミネートされたブレイク・ミルズ。しかも、基本的にアルバムの全編を彼ひとりに任せるというキャリアでも初めての大胆なシフトが敷かれている。人選も含め、この発想はまちがいなく他のR&Bシンガーにはないものだ。

 「ブレイク・ミルズのことをロック/オルタナティブ・フィールドの人間だと思っているひとが多くて、それがとても興味深かったね。個人的に、アラバマ・シェイクスの『Sound & Color』はブレイクのソロ・アルバムのように感じたんだ。彼は素晴らしいミュージシャンであり、作詞家であり、思索家だと思う。そんなブレイクとのコラボレーションはとても楽しかったよ」

 ブレイク・ミルズをプロデューサーに迎えた影響が最も顕著に表れているのは、生楽器/ストリングの大幅な導入だ。なかでも、リズム・セクションをクリス・デイヴ(ドラム)とピノ・パラディーノ(ベース)というディアンジェロ『Black Messiah』と同じミュージシャンで固めているのは非常に興味深いところ。ボン・イヴェール「Holocene」やポール・サイモン『Stranger to Stranger』などの好演で名高いC.J.キャメリエリー(トランペット)、アルバム『The Epic』の衝撃もいまだ記憶に生々しいカマシ・ワシントン(テナー・サックス)の参加も話題になるだろう。


▲John Legend - Darkness and Light (Audio) ft. Brittany Howard

 「僕の音楽を聴けば、僕のルーツにあるのがゴスペルや古いソウル・ミュージックであることがよくわかるはずだ。その伝統は僕の深い部分にあるし、それが常に自分の一部になっている。他のどんな音楽を聴いても、アーティストとしてどんな活動をしていても、それがいつだって僕の核になっているんだ。『ダークネス・アンド・ライト』では過去の作品と比較して、特にそういうところが色濃く出ていると思う。デビュー・アルバムの『Get Lifted』を除けばね。その部分には何度も触れてきているから、聴いてもらえればすぐにわかると思うよ」

 アーシーでブルージー、そしてスピリチュアルな響きも備えた、重厚な手応えのアルバムだ。初の全米No.1ヒットを放った直後でも決して守りに入ることのない音楽的冒険心と、トランプ政権へと突入していくアメリカの社会情勢に対する強い問題意識が見事に絡み合った、ジョンの面目躍如たるマスターピース『ダークネス・アンド・ライト』。今度のジョンの歌は、きっといままでよりも広く遠くに届くことになるはずだ。


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