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『ザ・ピーナッツ トリビュート・ソングス』リリース記念特集
デビューした1959年に生まれた人が57歳、解散~引退した75年で考えても40代となるわけで、今の若い世代には耳馴染みの無いアーティストかもしれないが、代表曲のいずれかを聴けば「あ、これ……」と思うことも多いだろう。
今年7月に妹 伊藤ユミさんの訃報が報じられ、すでに12年に姉 伊藤エミさんが他界していることから、両名がこの世を去ってしまったザ・ピーナッツ。前述したように59年、シングル盤『可愛い花』でレコードデビューしてから約16年の間トップシーンをまい進し続け、アメリカの人気テレビ番組『エド・サリヴァン・ショウ』や『ダニー・ケイ・ショウ』への出演など海外でも成功を収めた唯一無二の存在だ。
生誕75周年を迎える今年、音楽史の記録にも人々の記憶にも残る唯一無二の存在である彼女たちの名曲を、現在シーンで活躍する女性アーティストたちがカヴァー。総勢24名の女性アーティストがそれぞれにタッグを組み、代表的な12曲を様々な形で現代に蘇らせた。
そこでBillboard JAPANでは、各楽曲とカヴァーしたアーティストについてと共に、このたび用意された再現ジャケットを紹介。その魅力についてより深く解説していく。
1曲目「恋のバカンス」
ザ・ピーナッツといえばこの楽曲、そしてそのカヴァーといえばこの人たち、という方も多いのではないだろうか。オリジナルソングのヒットソングとしては、前年にリリースした「ふりむかないで」に続く1曲となり、その年の紅白歌合戦でも歌唱した。当然ミュージシャンからの人気も高く、70年代から現在に至るまで、数多くのアーティストやアイドルらからカヴァーされているが、65年には当時のソビエト連邦の人気歌手 ニーナ・パンテレーエワが「カニークルィ・リュブヴィー」の名前でカヴァーを発表して大ヒット。ロシア人では知らない人はいないと言われるほどの定番曲となったことでも有名だ。
そんな代表曲中の代表曲をこのたびカヴァーしたのが、DREAMS COME TRUEのライブでもおなじみの女性ユニット FUNK THE PEANUTS。編曲は中村正人が担当し、原曲のムーディなメロディの艶かしさはそのままに、ラテン調のビートや華やかなホーンセクションなどを導入したアレンジを施している。
2曲目「恋のフーガ」
67年に発表され、作詞:なかにし礼、作曲:すぎやまこういち、編曲:宮川泰と日本の歌謡シーンを代表する巨匠たちが名を連ねた名曲。前述「恋のバカンス」にはじまり、幾つかの“恋の”シリーズが発表されたが、紅白歌合戦で歌唱したシリーズ作はバカンスとこのフーガのみ。また、この楽曲でなかにし礼は同年の日本レコード大賞 作詞賞を受賞。こちらもカヴァー曲は古くから数多く存在しているが、近年では小柳ゆきやW(ダブルユー / 辻希美と加護亜依によるユニット)、GO!GO!7188などによるものが有名。オリジナル発表と同じ67年秋に公開されたクレージーキャッツ主演映画『クレージーの怪盗ジバコ』では、木の実ナナによる英語バージョンが挿入歌として使用された。
「恋のフーガ」といえばティンパニが打ち鳴らされるド迫力のイントロが特徴的だが、それは今回カヴァーを担当した百田夏菜子と玉井詩織が所属するアイドル ももいろクローバーZの世界観とも共通するものがあるといえるだろう。劇伴などもこなす長谷川智樹 編曲による、奇妙なテイストの間奏なども大きな聴きどころのひとつだ。
3曲目「ふりむかないで」
デビュー作となった「可愛い花」をはじめ、欧米の流行歌やクラシック音楽の日本語詞カヴァーで人気を博してきたザ・ピーナッツが、オリジナル曲では初のヒットとなり、紅白でオリジナル曲を歌唱したもこの曲が初めて。岩谷時子・宮川泰コンビによる初のヒット曲であると共に、発表した62年に公開された初のザ・ピーナッツ主演映画『私と私』挿入歌にも起用されるなど、様々な記念碑となった1曲だ。最近では映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』劇中歌やドラマ『デート~恋とはどんなものかしら~』オープニングにも起用され話題を呼んだ。
最強の歌少女たちが全国から集まって結成されたボーカルグループとして、今人気急上昇中のLittle Glee Monsterのアサヒとmanakaがカヴァーした今回の「ふりむかないで」は、出だしから彼女たちらしいコーラスワークが全開。原曲の雰囲気をそのままに、よりヒップにアレンジした宮崎誠も含め、その実力を存分にたん能できる名カヴァーになっている。
4曲目「情熱の花」
デビューした59年に発表したカヴァー曲で、元は20世紀屈指のシンガー カテリーナ・ヴァレンテが歌っていた楽曲。ボーカルメロディはベートーヴェン「エリーゼのために」をアレンジしたものになっており、ムーディなスパニッシュ・ギターが印象的だった原曲よりもハイテンポで小気味よいアレンジは宮川泰によるもの。また、日本語詞は音羽たかしと水島哲の共作となっている。さらに同曲は、翌年公開となる同名映画が公開され、ザ・ピーナッツも本人役で出演、素晴らしいハーモニーで劇中を彩っている。
学年で言うと同じ年になる相田翔子と森高千里は、共に80年代後半~90年代にかけて絶大な人気を獲得し、トップシーンをまい進し続けたアイドル的存在。カテリーナ・ヴァレンテによる原曲の雰囲気も踏襲しつつ、ティンパニを使用したトラックメイクや絶妙の力加減が見事な両者のコーラスで、サウンドに妙味を与えているのが聴きどころだ。
- 5曲目~8曲目
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Reviewer:杉岡祐樹
5曲目「明日になれば」
元は65年に発表したレコード盤『乙女の涙』のカップリング(B面)に収録されたオリジナル曲。同年に日本レコード大賞 作詞賞を受賞する安井かずみが作詞、宮川泰が作曲と編曲を担当し、強い思いを馳せる女性の恋情をムーディに表現した。また、原曲は何度か再レコーディングされたために幾つかのバージョンが存在するが、新たに録音されるたびによりゴージャスなサウンドに進化してファンを喜ばせた。
これまでの4曲と比べると、原曲とは違ったアプローチによるカヴァーとなったのがこの「明日になれば」で、矢井田瞳の特徴的なファルセットや植村花菜の力強く伸びやかな歌を楽しむことができるアレンジに。原曲の雰囲気をギラついたギターサウンドで再現し、たった2日逢えないだけで思いを募らせてしまう女性の激情の中から、切なさや苦しさをより際立たせているのが面白い。
6曲目「恋のオフェリア」
切ない旋律から一気に展開し、印象的なストリングスが耳に残るイントロへ……。作曲編曲を担当した宮川泰の真骨頂とも言うべき圧巻のサウンドと、シェイクスピアの代表的な悲劇『ハムレット』に登場する恋人の名を冠して“恋は命をかけた女のまごころ”と節が炸裂するなかにし礼による歌詞。ハーモニーを多用せず、ユニゾンによる歌唱に終始したザ・ピーナッツの歌も独特の雰囲気があり、発表した68年当時はもちろん、後にさらなる評価を獲得した名曲だ。
今回のカヴァーでは、90年代末から2000年代に絶大な人気を誇った鈴木亜美と、そんな彼女と入れ替わるように2000年代前半にソロデビュー、後にモーニング娘。にも加入した藤本美貴というタッグが実現。イントロは原曲に近いが、小気味よいテンポ感と交互に歌うAメロの質感などもあり、楽曲のキュートな側面を強調したアレンジになっている。
7曲目「モスラの歌」
そして今回のトリビュートでは、中川翔子&平野綾というマルチな活躍を続けている才人ふたりがカヴァーに挑戦。さらにサウンドは大仰なイントロから一変し、原曲のイメージを一新するハードなロックテイストのアレンジが施されており、セリフパートから疾走していく現代的な展開も。コミカルになりがちなところを伸びやかに歌い上げている両者のボーカルはお見事だ。
8曲目「手編みの靴下」
この曲を発表した4年後に新たな歌詞で園まりがシングル『逢いたくて逢いたくて』として発表するという、時代を超えて愛され続けた珠玉のメロディが大きな聴きどころ。スロウなテンポとスケール感のあるサウンドは実に歌謡曲らしく、それぞれが控えめなアプローチでユニゾンで歌い上げるザ・ピーナッツの魅力を最大限に引き出している。
ある種スタンダードなこの楽曲を、今回のトリビュートでは1、2番を島谷ひとみと夏川りみがそれぞれ歌い、3番でユニゾンするスタイルを採用し、BEGINの島袋優による三線やウクレレを導入した沖縄色のある南国風アレンジに。村田陽一のトロンボーンもかわいらしい音色を響かせており、構成はシンプルながら聴きどころの多い1曲といえるだろう。
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Reviewer:杉岡祐樹
9曲目「指輪のあとに」
そして今回、同曲が発表された時期にソロデビューした太田裕美と谷山浩子が絶妙のテンポ感でカヴァー。優しい歌声のユニゾンとハーモニーを駆使して、ラテン調のアレンジのサウンドと相まって原曲以上にキュートな雰囲気を際立たせている。
10曲目「大阪の女」
このたび同曲をカヴァーしたマルシアと森口博子は共に80年代末から90年代にかけて女優やタレントとしてもマルチに活躍したが、中でも抜群の歌唱力で歌手として高い評価を獲得した存在だ。その力量は今なお衰えるところはなく、季節の移ろいを思わせるように展開していく高難度なサウンドを自在に乗りこなしていく様は本作のハイライトのひとつといえるだろう。
11曲目「ウナ・セラ・ディ東京」
63年にザ・ピーナッツが発表した「東京たそがれ」を、翌年イタリアの女性歌手でカンツォーネの女王と呼ばれたミルバが来日時に歌唱して話題に。同年秋にアレンジを変更した「ウナ・セラ・ディ東京」としてザ・ピーナッツが再びリリースし、ロングヒットを記録するという珍しい経緯の末に誕生した。紅白では計3度歌唱し、引退興行となった75年のさよなら公演でも終盤に歌うなど、彼女たちを代表する不朽の名曲である。また、この曲で日本レコード大賞 作曲賞を受賞した宮川泰の通夜で演奏された楽曲としても有名。
そして同曲のカヴァーでは、昭和を代表する女性歌手である岩崎宏美&石川ひとみという豪華なタッグが実現した。より歌謡テイストを際立たせた長谷川智樹のアレンジに合わせて、それぞれのソロパートからハーモニー、たっぷりと間を取っての“とても淋しい”まで……。凄味すら感じさせる印象的なボーカルをたん能できる名カヴァーとなっている。
12曲目「銀色の道」
同曲のカヴァーは、華原朋美&misonoという異色タッグがユニゾンで挑戦した。徐々に迫力を増していくサウンドの真ん中を突き抜けてくる芯のある歌声が耳に残り、その上でほんのり寂寥感をたたえた両者の声質は「銀色の道」の雰囲気と非常にマッチしているのが面白い。
13曲目「スターダスト」
以上12曲のカヴァー楽曲に続いて本作のラストを飾るのが、ザ・ピーナッツの伊藤エミと伊藤ユミによるアメリカン・ジャズのスタンダード・ナンバーのカヴァー「スターダスト」だ。1927年に発表され、今なお歌い継がれている20世紀を代表する世界的な1曲であり、ザ・ピーナッツは60~70年代にオンエアされた伝説的テレビ番組『シャボン玉ホリデー』のエンディングテーマとして同曲を歌唱。今回収録されたのは、70年頃、テープのみで発売されたバージョンになるという。
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Reviewer:杉岡祐樹
ザ・ピーナッツ オリジナル・ソングス
2016/09/07 RELEASE
KICX-989 ¥ 2,547(税込)
Disc01
- 01.恋のバカンス
- 02.恋のフーガ
- 03.ふりむかないで
- 04.情熱の花 (モノラル録音)
- 05.明日になれば
- 06.恋のオフェリア
- 07.モスラの歌 (ステレオ版)
- 08.手編みの靴下
- 09.指輪のあとに
- 10.大阪の女
- 11.ウナ・セラ・ディ東京
- 12.銀色の道 [NHK-TV「夢をあなたに」より]
- 13.スターダスト
- 14.恋のフーガ (ザ・ピーナッツ ラスト・ライブ) [1975年4月5日渋谷NHKホールより] 【ボーナス・トラック】
- 15.情熱の砂漠~さよならは突然に (ザ・ピーナッツ ラスト・ライブ) [1975年4月5日渋谷NHKホールより] 【ボーナス・トラック】
- 16.浮気なあいつ (ザ・ピーナッツ ラスト・ライブ) [1975年4月5日渋谷NHKホールより] 【ボーナス・トラック】
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