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ブンブンサテライツ中野雅之からの返信「音楽は続けていきます」
2人の青春に愛と敬意を込めて―――
まず中野雅之からの返信を紹介する前に読んで頂きたいテキストがある。アーカイヴからの引用ではあるのだが、BOOM BOOM SATELLITES(ブンブンサテライツ)前作『SHINE LIKE A BILLION SUNS』リリース時のインタビューで僕は2人にこんな質問をした。
--答えるのは少し照れくさい質問かもしれませんが、川島さんから見た中野さんはどんなミュージシャンだと思いますか?
川島道行:心を使って音楽を奏でる人。多くのミュージシャンはそうなのかもしれないですけど、そことスキル的な部分のバランス感覚がすごく長けている人だなと思っています。聴いてくれる人の心をちゃんと思いやった上で、自分の音を発しているんだなとそばで見ていて強く感じますね。--逆に、中野さんから見た川島さんはどんなミュージシャンだと思いますか?
中野雅之:そうですね……まだよく分からないですね。一同:(笑)
--もう結構長い付き合いですよね(笑)。「97年 ヨーロッパでデビューした」って書いてありますよ?
川島道行:ハハハハ! 中野雅之:それがですね、知り合ったのは90年代初頭で、僕がまだ10代の頃なんですけど、それから20数年過ごしてきたんですけど、どんどんどんどん変わっていくんですよ。考え方も喋ることもどんどんどんどん変化していって、これは不思議としか言いようがなくて。例えば、脳腫瘍の手術を4回してるんですけど、手術の度に生まれ変わってるんじゃないかなって。何か業みたいなものを神様に抜かれていってるんじゃないかな?って思うぐらい、だんだんだんだん歌も変わってきてるし。僕にとってその川島くんの変化っていうのは、音楽を創る上でのモチベーションになってるんですよ。「あ、こんな声が出るんだったら……」って。それが変化していくので、「じゃあ、次はどんな声が出るのか」って思うし。そういうところが興味深いし、結局掴みきれない。歌う理由とか声を出したい理由について明快な答えをくれない。「なんで歌うのか?」「何を歌いたいのか」っていうのはレコーディングのときの問答としてあるんですけど、それに答えるだけで悪戦苦闘しているような人なんです。本来、バンドでボーカルをやるっていうのは、エゴの塊みたいな人が多い。--ですよね。
中野雅之:「自分はこれがやりたい」とか、極端な話「格好良い俺を見てほしい」みたいな人だっているから。でも彼はそういうことからうーんと遠いところにいる人で、だから分からないし、僕はそれをすごく興味深いなと思って、川島くんのことをずーっと観察し続けている。で、それをキャプチャーして作品にするのも僕の役割だと思っています。--では、川島さんを「こういうミュージシャンだ」と分かってしまったら、ブンブンサテライツの音楽は止まるかもしれない?
中野雅之:有り得ますよね、それは。「あ、分かっててそれやってるんでしょ?」みたいな、手癖で音楽が作れるみたいなところが見えちゃった時点で、僕は興味を失っちゃうと思うんです。そんなに器用な人間じゃないから、自分でもそれを掴みかねているような、自問自答しているような様をそのまま作品に落とし込んでいるので。だから可能性としてはありますよ。「あー、もう分かっちゃったんだ?」って(笑)。--ということは、分からない限り続いていくということですよね。
中野雅之:じゃあ、ずーっと分からないフリしなきゃ。 川島道行:ハハハハハ!--川島さんも意識して「分からない」とか言い出して(笑)。
中野雅之:でもそんなのすぐバレますよ。 川島道行:そう。そんなに賢くない(笑)。このインタビューを終えてからずっとBOOM BOOM SATELLITESの活動は続くものだと何も知らない自分は無責任に思っていた。というか、その感覚は最後の作品『LAY YOUR HANDS ON ME』がリリースされ、発売週に一通りの活動を終えたように見えた今も実は変わっていない。でも『LAY YOUR HANDS ON ME』に収められた4曲、個人的にはひとつの組曲だと受け止めているが、今作を最初から最後まで通して初めて聴いたとき、2人は音楽表現における究極系に到達したのだなと。作品を追うごとに人間の営みや温もりを明確に体感させてくれるようになっていたBOOM BOOM SATELLITESは、それを自らの人生を賭して描ききったのだなと。もっと言えば、BOOM BOOM SATELLITESの音楽が永遠に聴き継がれる為のミッションを完遂してみせたと。
今回、中野雅之からの返信の中には「青春」という2文字が何度か記されているが、2人が約20年ものあいだ謳歌してきた青春は、あまりにも美しい音楽の物語とその到達点を我々に体感させてくれた。BOOM BOOM SATELLITESへの最後のインタビューとして中野氏にメールで投げかけさせてもらった9つの質問。彼らの青春に魅せられた者であれば、その返信のすべてに愛おしいと感じることだろう。ぜひ最後まで読んでもらいたい。
学生時代に川島くんと遊びから始めたものが
そのまま続いたいわば“青春”
--97年のヨーロッパデビューより約20年間にわたってBOOM BOOM SATELLITESの音楽を制作/発信してきた訳ですが、その活動に幕を閉じようとしている今の率直な心境を聞かせてもらえますか。
BOOM BOOM SATELLITES『LAY YOUR HANDS ON ME』Short Ver.
--この約20年間を旅や冒険とするなら、BOOM BOOM SATELLITESはどんなストーリーを歩んできたなと思いますか?
中野雅之:川島くんとは友達から始まり、僕らは他人なので自分の考えを全て共有したり、完全に同じ方向を向くことはできないけど、そこで妥協するのではなく、頑張ってすり寄せていかなくてはならない。それは年齢を重ねるごとに変わり、長い時間を共有することで徐々に価値観が近づいていくものでもあるけれど、どうしてもひとつにはならないから、頑張り続けなくてはならなくて。相手に何を求め、自分は何をし、相手に何をさせるのか、そういったことを諦めずにやることで青春が続いたんだと思います。--最後の作品『LAY YOUR HANDS ON ME』を制作する上で、お二人が目指されたものは何だったのか教えてください。
BOOM BOOM SATELLITES 『STARS AND CLOUDS』Short Ver.
--今作『LAY YOUR HANDS ON ME』(LAY YOUR HANDS ON ME/STARS AND CLOUDS)に川島さんが綴ったリリック、和訳含めてご覧になったとき、そしてそれが歌になったとき、どんな印象や感想を持たれましたか?
中野雅之:レコーディングは本当に大変でした。川島君の体力的なこともあり、1日に1フレーズしか録れないこともありました。ただ、出てくる声は、ミュージシャンとしてのエゴがなく、ここ最近の作品から、業が抜けおちていく感じがしていましたが、今回はそれの究極の形を表現しているのかなと思い、すごいものを見た気がしました。--では、4曲,22分でバンドの生涯を描いた『LAY YOUR HANDS ON ME』の完成形を聴いたときはどんな気分になりましたか?
中野雅之:僕たちには、もうアルバム1枚を完成させる時間が残されていなかったので、このEPはそれに匹敵するものにしなくてはいけませんでした。作品性の高さやストーリーを感じてもらえるよう、しっかり表現しなくてはいけないって思っていました。--「音響含め、音楽で出来る表現のMAXに近い作品だと思います。音楽を聴くその時間を過ごすことで起きえる、いろんなものを僕たちは引き出したい訳ですよ。目に見えない何かや、記憶の深いところにあるものを。それを現時点でMAXのところまで引き出せるものが出来たかなって思います」とは、『SHINE LIKE A BILLION SUNS』リリース時の中野さんの言葉ですが、その点において最後の作品『LAY YOUR HANDS ON ME』は「MAX」に到達できたと感じられていますか?
BOOM BOOM SATELLITES 『A HUNDRED SUNS』
--今作からは人間の生命力や営みが感じ取れます。また、「LAY YOUR HANDS ON ME」のMVには川島さんの娘さんが、「LAY YOUR HANDS ON ME」「STARS AND CLOUDS」のティザー映像には笑い合う中野さんと川島さんの姿を映し出していますが、ここまで人間らしい作品に辿り着いたことにはどんな感慨を持たれていますか?
中野雅之:僕の人生の大半はこのバンドに捧げてきましたが、10年続けた後の活動も消化試合ではなかったということは自負できる。この世界で生きていれば、そういった形で効率的に活動して幸せに生きることもあるけれど、今振り返って思うのは消化試合になるどころか、学生時代に川島くんと遊びから始めたものがそのまま続いたいわば“青春”でした。--活動終了後、これまで生み出してきたBOOM BOOM SATELLITESの音楽がどんな役割を担ってくれたらなと思いますか?
中野雅之:僕たちアーティストは楽曲を残すことが出来て、それは作品としてずっと生き続ける。音楽を誠実に作ってきたのでどの作品も恥ずかしくありません。これまでやってこられたのは、支えてくれた人たちがいたからで、聴いてくれた人たちに感謝の想いでいっぱいです。僕たちの曲が生き続けるので、作品のなかで何度でも会いましょう。--最後に。中野さんは、これからも音楽を続けていきますか?
中野雅之:今はまだどんな形態かはわからないけど音楽は続けていきます。Interviewer:平賀哲雄
LAY YOUR HANDS ON ME
2016/06/22 RELEASE
SRCL-9106/7 ¥ 4,023(税込)
Disc01
- 01.LAY YOUR HANDS ON ME
- 02.STARS AND CLOUDS
- 03.FLARE
- 04.NARCOSIS
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