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カミナリグモ 『王様のミサイル』インタビュー
山中さわお(the pillows)に「自分より不器用で、自分より天才に久しぶりに遭遇。良い音楽しか作らない」と言わしめたカミナリグモ。今から9年前、まだ学生だった上野啓示(g,vo)が9.11アメリカ同時多発テロ事件に対する報復行為を目の当たりにして綴った、深いメッセージを持つ『王様のミサイル』が、活動10周年を記念する今年、シングルとしてリリースされることになった。
今回の上野啓示単独インタビューでは、日本で平和に暮らす者として、もしくは被害者ではない身として、9.11や3.11はどう捉えて生きていけばよいのか。同曲に込められたメッセージの真意は何なのか。「世界が完全に平和で平等になる為の手段は存在しない」という持論を持つ氏に訊いた。
完璧な世界は訪れない。その中で希望を見出すとしたら
--今作『王様のミサイル』という楽曲が生まれた経緯を教えてください。
上野啓示:かれこれ9年前、普通の大学生だった僕は、一人暮らしのアパートでテレビを観ていて。世界情勢的には、2001年にアメリカ同時多発テロがあって、その報復として空爆があった頃。それをブラウン管を通して見て、わりと衝動的にというか、特に「こういう曲作ろう」みたいなこともなく書き始めたら一晩でこの曲が生まれたんです。
--9.11アメリカ同時多発テロ事件が起きたときは、どんな心境でした?
上野啓示:その頃はカナダに留学していて、9.11の1週間前ぐらいにニューヨークに居たんですよ。なので、最初は「何なんだろう?」って感じでしたけど、情報を集めていく中で、テロ組織が起こした事件であることが分かって。その後の報復があって『王様のミサイル』は書いた曲ではあるんですけど、おそらく9.11のテロ自体も何かの報復、復讐の連鎖の中で生み出された出来事だったと思っていて。でも、僕はですけど、そういう憎しみ合っている人同士が争いを起こし、殺し合うのはまだ理解できるというか、もし家族が殺されたら、殺した相手を憎いと思う感覚は理解できる。
--当事者であれば、そうした感情は生まれるでしょうね。
上野啓示:全くその利害に関係ない人たちが「復讐やめよう、戦争やめよう」と謳うのはちょっとナンセンスな気もするんですけど、僕が一番思うことは、9.11のテロも、そのあとの空爆も、争いに関係ない人たちが巻き込まれて命を落としていて、それはどう考えても理不尽。何も理解していない、判断できていない子供が命を落とすようなことは、やはりあってはいけない。その感覚はきっと『王様のミサイル』に大きく反映されていると思います。
--9.11への報復があった当時、現地の子供が「将来の夢はアメリカ人を殺すことだ」と、目を輝かせている映像がオンエアされました。そうした子供もおそらく多く存在することに対しては、どんなことを感じますか?
上野啓示:それこそさっき話したような環境が生み出す現象だと思います。人間って曖昧で割り切れない生き物じゃないですか。正義か悪かなんて立場によって全く逆転するし、ある人にとっては喜ばしい出来事が、ある人にとってすごく不幸な出来事になったり。そう考えると、きっと完璧な世界は訪れない。その中でもし希望を見出すとしたら、想像力を持つしかない。自分本位な生き物同士であるからこそ戦争は起こるし、個人同士でも常に争いは起こるし、実際に自分も起こすし。好きじゃない人はたくさんいて、価値観が違って衝突することもあります。でもその一方で、自分とは関係ない国で知らない人たちに起きた不幸に対して、何も感じない訳にはいかないのも人間だと思うんですね。
--具体的に言うと?
上野啓示:あくまで自分に置き換えて、ということにはなるんですけど、何百分の一でもいいからその痛みを理解しようとする。それで、自分のことじゃないのに涙を流したりとか、そういうことが出来るのもまた人間の本質であると思う。それは、僕が『王様のミサイル』にも見出している、理想通りにはならない世界の反対にあるもの。言ってしまえば、希望という言葉だと思うので。だから「将来の夢はアメリカ人を殺すことだ」と言ってしまう子供がいるとしたら、自分はその子供と話したこともないし、もちろん血の繋がりもないけど、さっき言ったように何も感じない訳にはいかない。やるせないと思うし、考えますよね。「じゃあ、そういう子供を生み出さない為にはどうすればいいんだろう?」って。人を殺すということは、自分も殺されるということに繋がるし、復讐の連鎖には願わくば組み込まれてほしくないと思う。そう思うのは、自分の周りの子供とか身近な人に置き換えて想像できる能力が、幸い人間にはあるからなんだろうなって。
実際、僕には何も出来ないじゃないですか
--この曲の歌詞にある通り、「君と僕では テレビの向こう つかみきれない現実だ」という感覚はあるけれども、という?
上野啓示:もちろんそれが大前提。実際、僕には何も出来ないじゃないですか。いや、本当に頑張れば、自腹で戦地に行って、戦車の前に立って「みんな、やめてください!」って言うことも出来ると思うけど、僕はそれをしようと思わないし。もし自分の家族や大切な人が戦地にいたら、するかもしれないけど、行ったこともない国、会ったこともない人たちの為にそこまで出来ない。だから『王様のミサイル』は、直接被害のない安全な場所にいて、他の国で起こっている災難を傍観している人の立場の歌になっていて。少なくとも「このまま戦争が続けばいいのに」とは思っていないけど、まずは想像力の範囲での行動しかない、という。それは胸を痛めたりとか、涙を流したりすること。そうして心を動かさなければ、体は動かないと思うので。
--心を動かすことも容易ではないですからね。僕は9.11のときは、とあるドラマの最終回を観ていて、急に飛行機がビルへと突っ込む映像に切り替わったので「おいおい、これからってときに!」と思ったんですよ。やがてそれが世界中に衝撃と波紋を呼ぶ大事件であることを知るんですけど、何日かすると自分の心配は「あのドラマのラストシーンがしっかりと放送される機会はあるのか?」という、罰当たりな感覚になっていた。この感覚、分かりますか?
上野啓示:分かります。
--自分を正当化するつもりはありませんが、これがここで暮らしている人間のリアルなんですよね。少なくとも自分の周りには、同時多発テロのことを今話題にあげる人はいない。これってどうすればいいんでしょうね?
上野啓示:別にそれは無理して考える必要もないし、リアリティを感じられるかどうかですからね。あのビルにもし自分の友達がいたら、違う感覚になっている訳じゃないですか。やっぱりリアリティがないと人間は想像できない。東日本大震災もそうですけど、自分も含めたくさんの人が「自分に何か出来ることはないか」と考えて、募金したりしたと思うんです。でも、例えば、あれが実家のある大阪や祖父母が住んでいる広島で起きていたら、僕はおそらくいろいろ考える前に現地まで駆け付けたでしょう。厳密に言うと、募金する金額も違うと思う。人間はリアリティの働く中でしか行動できないと思うので、その度合いによって反応が変わるのは当然なこと。
--なるほど。
上野啓示:だからこそ、世の中から争いや不幸を減らしたいんであれば、想像力を働かせやすい世界にしていく。例えば、僕が学生時代から思っていたのは、いろんな国にもっと行きやすいような環境を整えて、みんなが出来るだけ旅をして、出来るだけいろんな国の人に会う。それでニュージーランドに行ったことがあれば、ニュージーランドで起こった地震は他人事にならないし。僕で例えれば、留学していたカナダのトロントでとんでもない事件が起きたら、あのときの友達や先生がどうなったのか心配になるじゃないですか。いろんな場所に行って、いろんな人に出会うということは、リアリティを生み出すし、想像力を生み出す。これは国レベルでも個人レベルでも出来ることなんじゃないかなって、常々思っていました。
--「ビンラディン殺害」のニュースには、どんなことを感じましたか?
上野啓示:またビンラディンに関係する人がテロや報復を考えるんだろうな、計画するんだろうな、この連鎖は終わらないんだろうなと思いました。その一方で、戦争は起きない方がおかしいというか、起きるものだと僕は思っていて。人間という生き物の性質上。だからそれを前提として、子供が巻き込まれて命を落としたり、憎しみの連鎖に組み込まれてしまうのはやり切れないので、少しでもそうならないように願う。
--それは『王様のミサイル』にまんま繋がる話ですよね。
上野啓示:そうですね。曲の中でも「理想みたいな世界はきっと嘘だ」って言っているので。それでも信じていたいものというのは、僕の中では想像力。人間は自分本位にしか考えられない生き物だけど、だからこそ何かを自分と置き換えて考えたり、感じたりできる。その能力がミサイルで奪えないものになったり、最後に花を咲かせたりするんじゃないですかね。
覆らない現実を受け入れた上でのアンチテーゼ
--それは『王様のミサイル』に込められた想いそのものだとも思うんですけど、個人的にはなかなか危険な曲でもあるなと感じて。9.11のことで言えば、アメリカサイドへの批判としても受け取られかねないじゃないですか。
上野啓示:そんなに大げさなつもりはなくて、逆に王様のミサイルはテロリストの飛行機としても捉えられるだろうし。結果的にアメリカ批判として受け取られても全然良いんですけど、世界的に見ればいろんなところで常に起こっていることなんですよね。みんな平等じゃないし、平和でもないし、いろんな立場の人がいて、いろんな価値観の人がいて、その中で強い立場にいる人がそのときの気分で弱い立場にいる人を虐げたり、命を奪ったりすることは往々にしてあるし。戦争じゃなくても、例えば会社の中とかプロ野球の中でもあるじゃないですか。王様の都合の良いように理不尽なルールが作られるし、それに腹は立つけれど、だからと言って平等には決してならない。世界が完全に平和で平等になる為の手段は存在しない、という感覚が前提になっていて。
--その上でのアンチテーゼですよね。
上野啓示:そうですね。僕はわりと、巨大なものにアンチテーゼ的な立場で立ち向かっていきたい性格なんですけど、そういうものに立ち向かうにあたって、最初から「なんで平等じゃないんだ?」って言っていても始まらないから。それはそれとして受け入れて、その中で、スポーツに例えれば「じゃあ、弱いチームが強いチームを倒す為にどうすればいいんだ?」みたいな考え方の方が興味があるというか、建設的だと思う。そういうマインドが『王様のミサイル』にもある。
--今作のPVを世界140以上の国と地域に向けて公開。全5か国語(日本語/英語/フランス語/アラビア語/朝鮮語)の字幕入りミュージックビデオを配信する運びになったのは?
上野啓示:スタッフの間で出たアイデアだったんですけど、良いアイデアだなと思って。字幕を入れることによって、日本語が分からない人たちにも理解してもらえるチャンスがあるっていうのは、曲のテーマ的にも相応しいし、意義のあることだなと。あと、この曲をインディーズ時代に出したときのミュージックビデオも、誰かが英訳を付けてアップしたりしていたので、そもそもそういうニーズのある曲なんだなとは感じていました。
--ちなみに、そもそも9年前に作った曲を今改めてシングルという形でリリースしようと思った経緯ってどんなものだったんですか?
上野啓示:カミナリグモが活動10周年ということもあって、このタイミングでシングルリリースする機会をもらえたので、インディーズで出していたことはさしおいて、今ある曲の中で、まだカミナリグモを知らない人に知ってもらう為に一番相応しい曲を出そうと。そこでメンバーもスタッフも『王様のミサイル』を選んだんですよね。
--新録音するにあたって変化させた部分はあるんでしょうか?
上野啓示:詞曲は一緒ですけど、それ以外はほぼ全部。と言うのも、カミナリグモってちょっと歪なバンドで、メンバー2人だけど、本来やりたい音楽というのがバンドサウンドで。ドラムとベースとベーシックのアンサンブルがあるもので。それは最初からそうだったんですけど、バンドメンバーというのは自分が望んだからと言って見つからないじゃないですか。たまたまキーボードのghomaちゃん(成瀬篤志)はちょうど5年前にメンバーになったんですけど、リズム隊はその都度でサポートできる人を探していたので、バンドの向かっていく方向が見付けづらかったんですよね。でもここ2年で、正式メンバーではないけど、ライブもレコーディングも固定のメンバーで、しかも自分たちが望んでいた技術とセンスを持っているメンバーと携われているので、やっと向かいたい場所、イメージするサウンドがすごくハッキリして。また、この曲はライブではずっとやっていたので、今のメンバーでどんどん洗練されていたので、それをこのタイミングでリリースできるということは、自分たちとしては非常に意味があることだと思います。
--その『王様のミサイル』、どんな風に世に響いていってほしい?
上野啓示:僕の歌は全般的にそうなんですけど、押し付けがましいメッセージがあるような曲じゃなくて。自分の感覚としては、カミナリグモの中で誰もに当てはまるメッセージの曲はないと思うんですよね。なので、この『王様のミサイル』も自分と似たような感性で、似たような価値観を持っている人たちの琴線に触れて、大切に想ってもらえるような曲だと思うので、そういう人に届けばいいなと。で、この曲でカミナリグモの世界に足を踏み入れてくれた人たちの何人かが、他の曲にも出逢ってくれて、このバンドを理解してくれたら、それはバンドとしては嬉しいことですね。
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