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藤巻亮太『日日是好日』リリース記念 CHART insight インタビュー
3月23日、2ndソロアルバム『日日是好日』をリリースする藤巻亮太。『オオカミ青年』以来、約3年半ぶりのリリースとなる同作は、ヒップホップ調のリズムが新鮮な「回復魔法」や、オアシスのバラード曲を彷彿とさせるアレンジが普遍的なメッセージをより豊かに伝える「おくりもの」、5拍子の渦巻くリズムがえも言えぬエネルギーをダイナミックに発する「かすみ草」など、非常にバラエティに富んだロック・アルバム。去る「3月9日」には同作を冠したスペシャル公演(【藤巻亮太 3月9日 PREMIUM DAY !! 『日日是好日』SPECIAL LIVE】)で新曲もいち早く披露、こちらも大好評を博した。
今回はそんな藤巻との対話を「CHART insight」インタビューとして掲載。『日日是好日』という作品や、そこに至る心境について、そして、前述の公演に関連して、レミオロメン時代の名曲「3月9日」のヒットについても話を聞いた。
「ソロになってから音楽を引き算で作るようになった気がします」
――今回の公演のように、リリース前の楽曲をライブで披露することはよくあるんですか?(※インタビューは3月9日の公演より前に行われた。)
藤巻:リリースしてからツアーがあって初お披露目という流れが多いですね。でも、いまちょうど弾き語りツアー(【藤巻亮太 TOUR 2016 ~歌旅編~】)をやっていて、そこでは結構披露してます。
――やっぱり弾き語りのライブはバンドとは感覚的に違いますか?
藤巻:そうですね。僕は最初からドラムがいてベースがいてっていう3ピース・バンドで始まっているので、最初は少し戸惑いました。でも、最近はもう一度“歌う”ことの楽しさや喜びを実感しているようなところがあって。それはやっぱり弾き語りをやっていることが大きいんですよね。弾き語りって空白が多くなるんですけど、楽器が減ることで、むしろ歌うことの豊かさが際立つ。音数が少ないことの良さっていうことなんでしょうね。続けることでついて来た自信もあるし、その中でバリエーションを増やすことが今の自分にとって課題という部分もあって。だから、楽しいし、挑戦だし、修行だし(笑)。そうやって新しいことにチャレンジすることでミュージシャンとして成長する部分もあるので、楽しみながら、噛み締めながらやってますね。
――レミオロメンの頃は弾き語りでライブをすることは少なかったんですか?
藤巻:レミオの時は一回もなかったですね。(2011年東日本大震災の復興支援を行っていたap bankの活動の一つとして被災地に歌を届けにいった)【歌の炊き出し】で、拙いながら想いだけで弾き語りで歌ったり、『オオカミ青年』発売後は【~歌旅編~】のツアーでキーボードやヴァイオリンを伴って廻ったりということはあったんですけど、今回のツアーのように、がっつりと弾き語りだけでツアーをするというのは初めてです。
--弾き語りでライブを多く行うようになったことは今回のアルバムに影響を与えていると思いますか?
藤巻:やっぱりソロになってから音楽を引き算で作るようになった気がしますね。「足りないんじゃないか?」っていうのは一種の強迫観念じゃないですか? バンドの頃は、活動して色んな人と出会う中で、音を足すことが楽しくなっていった時期でもあったんです。でも、それが当然になった時に、「本当に何が表現したかったのか?」ということが本末転倒になっているような部分もあったような気がしていて。今は、ダビングなどを駆使してアレンジを派手にしていくことありきではなくて、素材の良さを活かすような考え方になっています。例えば、それこそ弾き語りで成立する曲があるなら無闇に音を足さない、とか。そういう意味で、色んなことに臆病にならなくなりましたね。
新作リリース情報
公演情報
藤巻亮太 3月9日 PREMIUM DAY !!
『日日是好日』SPECIAL LIVE
2016年3月9日(水)<終了>
ビルボードライブ東京
2ndステージ開場20:00 開演21:00
⇒詳細はこちら>
関連リンク
- 藤巻亮太 オフィシャルサイト
- 藤巻亮太 Twitterアカウント
- 藤巻亮太 SPEEDSTAR RECORDS公式サイト
- 「CHART insight」過去のインタビューはこちらから
「言葉って意味よりも響きの方が大事なんじゃないかな」
――新作は、歌が中心にはあるんですけど、本当にサウンドのバリエーションが豊かですよね。
藤巻:そうですね。『オオカミ青年』は荒々しさも含めて、衝動的な部分をパッケージしたアルバムだったんです。でも、それを出して衝動がある程度、成就した後は「このままだとレミオロメンと同じことをやることになるんじゃないか?」という不安が出てきて。やっぱり、どこかでソロではレミオロメンと違うことをしなきゃいけないっていう固定観念があったんですね。
でも、そういう固定観念があるうちは全然曲ってできないんですよ。だからある意味、そういうものを消して、純粋に音楽を作る楽しみに集中していった過程が『日日是好日』というアルバムになっていったんです。そういう固定観念――レミオロメンはレミオロメンらしく、ソロはソロらしく――っていうのも、全部自分が作ったものじゃないか!って気付いて、自分を縛るものをほどいていく感じというか。音楽って、まず、そうやって作っている本人を癒やす力があるっていうことにもう一回気付いたんです。
「このシングルを切る意味は?」とか「この歌詞の意図は?」とか、そういうのは後付でもいいじゃないですか? それって本当にクリエイティブなこととは少し違っていて。でも、それを伝えることまで含めて“音楽活動”になっていった時に、「あ、これは本末転倒になってるな」と。ワケとか意味とかなくて、ただ楽しいねとか、ただ気持ちいいねとか、そういうことが大切なんだと。そうすると、音楽がより豊かになっていくんですよね。
――なるほど。
藤巻:あと“日日是好日”という言葉に出会ったことも大きくて。これは禅の言葉なんですけど。「レミオロメンらしさから離れなきゃいけない」って考えている自分とか、「これからのソロ活動大丈夫かな?」って不安に思ってる自分。そういう風に昨日とか明日に心が縛られてる時ってすごく苦しいんですよね。でも“日日是好日”っていうのは「いやいや待てよ、昨日っていう過ぎた日や、明日っていうまだ来てもいない日にどうしてそんなに心を悩まされないといけないの? もっと今日っていう日を考えて、楽しいことをするんじゃなくて、することを楽しめば良いじゃん」みたいな、そんな言葉として僕は受けとめました。
それが良い言葉だな、と思った時に、確かに自分を縛ってるものってそういう感覚なんだなって気付いて。それから「日日是好日」って曲も出来て、自分がいま喜びを感じることに反応して、アルバムを作っていけた気がしますね。
――“日日是好日”という言葉と出会ったのは、どういうきっかけがあったんですか?
藤巻:芥川作家の玄侑宗久(げんゆう そうきゅう)さんという人がいて、お坊さんでもあるんですけど、すごく好きな作家さんで。その人が書いた禅についてのコラムに、そういう言葉が載っていたんだと思います。天気が雨だったり晴れだったり、自分にはどうしようもないこともあるんだけど、雨は雨なりに晴れは晴れなりに楽しむ力が人間には本来あるんだよ、っていう、そういう文章だったと思います。
――ちなみに「回復魔法」では<回復魔法を唱える>と歌っていますが、具体的にこの“回復魔法”が何を指すのか、藤巻さんの中に答えはあるんですか?
藤巻:「回復魔法」は、音楽って誰かを回復したり、癒したりする力があるなって実感していた時期に書いた気がします。でも、実は歌詞を書いている時はあんまり何も考えてないんですよね。最近は、言葉って意味よりも響きの方が大事なんじゃないかなって思っていて。メロディに、響きを伴った言葉がハマった時に、意味を超越してしまう。それが音楽の持つ力なのかなと思うんです。
――では、今回はより響きを意識して作詞を行うようになった?
藤巻:それはありますね。ちょっと前までは意味が通じてないと嫌で。でも、そうすると意味は通じるんだけどちょっと痩せてる、というようなことがあって。逆に、意味は通じてないんだけど説得力があるような状態こそ言葉の力なんだと思うんです。それは何かというと、人間には意識と無意識っていう領域があって、無意識の方が豊かだっていうことだと思うんですよね。
――なるほど。作詞の方法で具体的に変えた部分はありますか?
藤巻:後半はケータイで歌詞を書いてましたね。それまではでノートで書いてたんですけど、そこまで構えなくても良いかなって。で、出来たら消しちゃう、みたいな。
――そこまでするんですか!
藤巻:もちろん推敲はケータイの中でするんですけどね。もちろん、どっちが良いかは分からないですよ。ノートで書いているうちにこもってくる部分もあるので。ただ、「よし! 歌詞を書くぞ!」っていう儀式になっちゃうんじゃなくて、日常の中からフェードイン出来る言葉が良いんじゃないか? って最近は思うんですね。
新作リリース情報
公演情報
藤巻亮太 3月9日 PREMIUM DAY !!
『日日是好日』SPECIAL LIVE
2016年3月9日(水)<終了>
ビルボードライブ東京
2ndステージ開場20:00 開演21:00
⇒詳細はこちら>
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- 藤巻亮太 Twitterアカウント
- 藤巻亮太 SPEEDSTAR RECORDS公式サイト
- 「CHART insight」過去のインタビューはこちらから
「そういうことってみんなも思うんでしょうね、きっと」
――3月9日の公演に関連して、ぜひ「3月9日」のことについても聞かせて下さい。Billboard JAPANでは毎週ヒット・チャートを発表していて、CDセールスに加えてラジオのオンエア数やYoutube、Twitterなど様々な指標を合算して一つのチャート(JAPAN Hot100)を作っています。「3月9日」は、特にこの時期チャートインすることが多く、広くリスナーに根付いた定番ヒット曲となっています。作詞作曲とした本人として、あの曲への思いはどうでしょうか?
藤巻:作った本人の思いとしては、ただ幼なじみにプレゼントした曲でしかないですね。でも、それを面白がってくれた人が、こういう現象を起こしてくれたのかなと思います。
――もともとは結婚式の曲なんですよね?
藤巻:そうなんですよ。
――それが今、卒業式で歌われている。ある意味、“誤解”されている曲とも言えると思うのですが。
藤巻:良い意味で、ですよね。僕にとっては本当にありがたいご縁を頂いた曲で。曲を聴いたスタッフやファンが「ある人にとっては、新たに進んで行く“門出”を祝う曲でもあるよね」と解釈してくれて、もっともっと、そういう所で届けていく可能性を探してくれたんだと思います。で、そこから『1リットルの涙』というドラマで「粉雪」を使って貰った時に、プロデューサーさんが「この曲もすごく良いから、合唱のシーンで使いたい」って言ってくれて、ドラマの合唱コンクールのシーンで使われたことで大きく広がったと思いますね。周りの人が面白がってくれたことが大きかったんですよね。
――ご自分としてヒットしたという実感はありましたか?
藤巻:「粉雪」は急にワッとなったので感じましたけど、「3月9日」は、何年たっても「卒業式で歌いました!」って言われたり、もっとジワジワと広がっていった感じですね。
――あの曲自体にヒットする理由があったとしたら何だと思いますか?
藤巻:(長い沈黙)…………何でしょうね。でも、僕が幼なじみに対して思ったことが、すごく素直に書かれていた曲なんですけど、そういうことってみんなも思うんでしょうね、きっと。僕が思っていたことと、みんなが思うようなことが近かったっていうことじゃないですかね。
――素直に書いたということが大きかった?
藤巻:それはすごくあるんじゃないかと思いますね。こういうことって何年経っても分からないんですけどね。
――素直に思ったままに書くという意味では、今回の『日日是好日』で心がけたこととも近いかも知れないですね。
藤巻:そうですね。『日日是好日』も素直に思ったことをそのまま書いてますね。
――『日日是好日』というアルバムは“純粋に音楽を作る楽しみを再発見したアルバム”だという風に先ほど話していらっしゃいましたが、アルバムとして参照した作品などはありましたか?
藤巻:……アルバムとしては無いですね。今回はもっと曲毎にという感じです。
――3曲目の「回復魔法」はヒップホップ調のリズムが新鮮でした。
藤巻:そうですね。小沢健二さんとかね。でも、サビのギターが全然違うので面白いかなと。この曲もそうですけど、今まであんまりやったことのないグルーヴには興味がありますね。ポール・サイモン聴きながら「春祭り」作ったり。「かすみ草」も、特に何かを参考にしたわけではないですけど、5拍子で、今までにやったことがないグルーヴの曲ですね。この曲のドラムは(玉田)豊夢くんに頑張って貰って、今までの曲で一番カッコいいドラム・パートになったと思います(笑)。あの曲はドラムだけで、レコーディングに15時間くらい掛かっていますね。
――「おくりもの」は、少しOASISを思い出しました。
藤巻:あ、そうですね、OASISはすごい意識しました。ああいうスタンダート感のあるアレンジの曲にしたいなと思って。
「おくりもの」は、今まで両親について歌ったことはないし、照れくさいんですけど、今回、ディレクターさんと話していて、「30代になったし、一回作ってみたら?」って言われて。じゃあ、と思って、いざやり始めたら速攻で出来ましたね(笑)。作り始めたらどんどん出てくる感じでした。
――基本的に、アレンジまでかなり詰めてから各ミュージシャンに渡しているんですね。
藤巻:そうですね。いわゆる“丸投げ”をしたのは「8分前の僕ら」の河野さんのストリングスのアレンジくらいで、曲のベーシックな部分とかアレンジはかなり自分でPro Toolsで作ってから渡してます。今回は一部の曲以外は、「自分一人でどこまで出来るのか試してみよう」という気持ちが特に強かったですね。
――アートワークもすごくシンプルで印象深いです。ギターを持ってジャンプする写真を使ったのは?
藤巻:アートワークを担当してもらった菱川(勢一)さんに、「今までの藤巻くんのアートワークは“静”の写真が多すぎる。でも、今回のアルバムは“動”だよね」って言われたんです。「藤巻亮太は動き出そうとしてる。だから、跳んでみない?」って(笑)。で、じゃあ、そう言ってくれるならということで跳んだんです。今までそんな風に写真を“静/動”で考えたことがなかったので、クリエイターの方にヒントを貰ったっていう感じですね。でも、確かに今はああいう感じで音楽に取り組めていると思います。
New Album『日日是好日』スペシャルトレーラー
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藤巻亮太 3月9日 PREMIUM DAY !!
『日日是好日』SPECIAL LIVE
2016年3月9日(水)<終了>
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2ndステージ開場20:00 開演21:00
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