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特集:ケイコ・リー ~デビュー20周年を迎えた、国内ジャズ・ヴォーカリスト最高峰
2015年にデビュー20周年を迎えたケイコ・リー。人気と実力ともに、我が国のジャズ・ヴォーカリストの最高峰といっていい存在であり、そのポストはデビュー以来、不動である。その証拠のひとつに、今は無きジャズ専門誌『スイング・ジャーナル』の読者投票では、女性ヴォーカリスト部門で13年もの間1位を独走していたことがある。もちろん、様々な場面で垣間見られる活躍ぶりに関しては説明不要だろう。時にはパワフルに、そして時には繊細にハスキーな歌声を操るだけでなく、ピアノで弾き語ったり自作曲も披露する多彩な彼女。2016年早々には恒例のビルボードライブ公演も決定し、話題も事欠かない。そんなケイコ・リーの足取りを追いながら、その魅力に迫ってみよう。
愛知県で生まれたケイコ・リー(本名は李敬子)。彼女はけっして幼い頃から教育された生え抜きではなく、努力の人である。というのも、ピアノを始めたのはなんと21歳の時であり、しかも独学。しかし、もともと音楽のセンスには天賦のものがあったのだろう。いつしかプロのピアニストとなり、ジャズのライヴハウスやホテルのラウンジなどで弾き始めていた。そして、音楽教室を開いている際に、周りの勧めもあって歌も歌い始める。また、ピアニストとして煮詰まり始めていた頃に米国を旅行。カーメン・マクレエなどのジャズ・シンガーのパフォーマンスに触れ、自らもヴォーカリストになることを決意した。
そうして徐々に歌もピアノも腕を上げていき、ようやくデビューのチャンスを勝ち取ったのは1995年のこと。ちょうど30歳を迎えた後に、ファースト・アルバム『イマジン』でデビューを果たした。ジョン・レノンの名曲である表題曲を始め、「タイム・アフター・タイム」や「サマータイム」といった馴染み深いナンバーを収録した本作は、耳の早いジャズ・ファンはもちろんのこと、ポップス・ファンにもアピール。一躍彼女の名前が音楽ファンの間で浸透した。
コール・ポーターやガーシュインなどのスタンダードをメインに据えた『キッキン・イット』(1996年)、「いそしぎ」や「マイ・ロマンス」といったロマンティックなメロディを集めた『ビューティフル・ラヴ』(1997年)、ビートルズやスティーヴィー・ワンダーなどのポップな楽曲を中心に集めた『イフ・イッツ・ラブ』(1998年)など、着々とリリースを重ね、ライヴの動員も大幅にアップしていく。
2000年には全曲ピアノ弾き語りというトライを行ったアルバム『ローマからの手紙』を発表。歌唱力だけでなく、ピアニストとしてもあらためて実力ぶりをアピールして新境地を開いた。そして、2001年にはクイーンの「ウィ・ウィル・ロック・ユー」のカヴァーがCMソングに起用され、大きな話題になる。そのヒットを受けて、翌2002年に発表したベスト・アルバム『ヴォイセズ』は、25万枚を超えるセールスを記録。この頃には、すでに彼女の名前は、女性ジャズ・シンガーの代名詞となっていた。そして、その独特の声は、テレビやCMなど様々なところから聞こえてくるようになる。
その後も、全曲オリジナル・ナンバーで固めた意欲作『ヴァイタミン K』(2003年)、マイルス・デイヴィスにちなんだ楽曲ばかりを集めたという好企画『フーズ・スクリーミン』(2004年)、ジャズ・レジェンドのひとりであるピアニスト、ハンク・ジョーンズとの共演ライヴ盤『ライヴ・アット・ベイシー ~ウィズ・ハンク・ジョーンズ~』(2006年)など続々と話題作を発表。また、CHEMISTRYのデビュー・アルバムに書き下ろしして堂珍嘉邦とデュエットした「星たちの距離」(2001年)や、山口百恵の楽曲を英語で歌いCMに起用された「美・サイレント~Be Silent」(2007年)など、ジャズという範疇に収まらない話題性も作り続けてきた。こういった企画が成功するのも、彼女がジャズという狭いジャンルには収まりきれないスケール感を持っている証拠だろう。
▲ 『ケイコ・リー ショートPV Smoke Gets In Your Eyes~Smile~My Romance』
また、彼女のいちばんの魅力はその声やピアノだが、人を引き付ける力も無視できない。これまでに共演したミュージシャンも数え上げればきりがないほどだ。例えば、2012年に発表した『ケイコ・リー・シングス・スーパー・スタンダーズ2』では、マンハッタンズのジェラルド・アルストンや盲目のシンガー・ソングライターのラウル・ミドン、そして玉置浩二、ATSUSHI(EXILE)、村上てつや(ゴスペラーズ)といった豪華な名前が並んでいる。ジャンルも世代も違うこれだけの人選を可能にしてしまうのは、ケイコ・リーならではと言ってもいいだろう。
2014年には『KEIKO LEE sings THE BEATLES』を発表し、タイトル通りビートルズの名曲を歌っているが、単なるカヴァーに陥ることなく渡辺貞夫やムッシュかまやつといった重鎮のゲストを迎えることで深い意味を持たせてくれた。他にも、リー・コニッツ、ジョー・ヘンダーソン、ロン・カーター、ジョージ・デューク、ケニー・バロン、アート・ファーマー、デヴィッド・サンボーン、マーティン・テイラーなどなど、レコーディングで共演しただけでも錚々たるミュージシャンの名前が並んでいる。
そんなケイコ・リーの最新作が、『LOVE XX』という意味深なタイトルが付けられたアルバムだ。「Autumn Leaves」や「Caravan」といったスタンダード・ナンバーをセレクトし、過去に歌った楽曲にストリングスをオーバーダビングしたリミックス・ナンバーも交えた企画作。なかでも、スティーヴィー・ワンダーの「Higher Ground」で日野皓正のトランペットをフィーチャーしたほか、伝説的な歌手ビリー・ホリデイとの時空を超えたデュエット「I’m A Fool To Want You」なんていうものまである。こういったトライを柔軟に行えるフットワークの軽さは、彼女の才能のひとつと言ってもいいだろう。デビューして20年を超えてもなお、新しいトライを続けるケイコ・リー。今年のビルボードライブ公演ではどんな一面を見せてくれるのだろうか。今から楽しみにしたいと思う。
公演情報
KEIKO LEE
デビュー20周年記念アルバム "LOVE XX" 発売ライブ
ビルボードライブ大阪:2016年2月5日(金)~6日(土)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ東京:2016年2月8日(月)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
BAND MEMBERS
ケイコ・リー / KEIKO LEE (Vocals)
野力奏一/ Soichi Noriki (Piano, Keyboard)
岡沢 章 / Akira Okazawa (Bass)
渡嘉敷 祐一 / Yuichi Togashiki (Drums)
関連リンク
Text: 栗本斉
Love XX
2015/11/04 RELEASE
SICP-4580 ¥ 3,080(税込)
Disc01
- 01.Autumn Leaves
- 02.The Good Life
- 03.Fly Me To The Moon [remix]
- 04.Theme from “New York, New York”
- 05.I Look To You
- 06.Bridge Over Troubled Water [remix]
- 07.I’m A Fool To Want You
- 08.Higher Ground featuring 日野皓正
- 09.Caravan
- 10.A Song For You
- 11.Distance
- 12.Feelings [remix]
- 13.What A Wonderful World [remix]
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