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ア・グレイト・ビッグ・ワールド特集:ヒット曲「セイ・サムシング」から2年…聴く人に勇気を与える新作を携えNYの2人が帰還
2013年にメジャー・デビューを果たした、ニューヨークのピアノ・ポップ・デュオ、ア・グレイト・ビッグ・ワールド。そんな彼らがメジャー・デビュー・アルバム『イズ・ゼア・エニバディ・アウト・ゼア?』以来、約2年ぶりとなる新作アルバム『ホエン・ザ・モーニング・カムズ』を12月16日に発売した(輸入盤は12月13日に発売)。
前作『イズ・ゼア・エニバディ・アウト・ゼア?』は、収録曲「セイ・サムシング」がThe Billboard Hot 100で最高位4位、さらにアルバム自体もThe Billboard 200で最高位3位をマークし、新人として破格の成功を収めた。そんな彼らが新たにリリースした新作は果たしてどんな作品になのか? "現代のシンデレラ・ボーイズ"とも言われたデュオのキャリアを振り返りつつ、その新作の魅力に迫ってみよう。
「セイ・サムシング」あまりに直接的でピュアだったがゆえのヒット
ア・グレイト・ビッグ・ワールド(AGBW)は2012年、ニューヨーク大学の学生同士として知り合ったイアン・アクセルとチャド・キングが意気投合、創作のパートナーとしてチームを組み始動した。その初期にはキックスターターなどで資金を集め自主制作でEPをリリースするなど、いわゆるインディでのスタートだった。
そんな彼らが現在へ至る大きなチャンスを掴むことになったのが「セイ・サムシング」の大ヒット。インディーズ時代に書かれた同曲は、あのクリスティーナ・アギレラをも虜にし、最終的には彼女とAGBWの二人の共作という形でリメイクして『イズ・ゼア・エニバディ・アウト・ゼア?』に収録、前書きにもあるように大ヒットを記録した。同曲、そしてアルバムのヒットを足がかりに二人は【アメリカン・ミュージック・アワード】やヴィクトリアズ・シークレットのショウでも演奏するなど存在感を高め、2015年【57回グラミー賞“ベスト・ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス”部門】を受賞しスターの座を得た。
Say Something
その「セイ・サムシング」の歌詞はこんなもの。
何か言ってよ 君を諦めてしまいそう/君が望むなら 僕は君だけのものだよ/
どこだってついて行くのに/何か言ってよ 君を諦めてしまいそうだよ
成熟して大人になる前の時期に、いや、もしかしたら大人になっても訪れる、身を引き裂くように切ない失恋のフィーリング。「セイ・サムシング」はそれを、ダミアン・ライスを思わせる美しいメロディと歌声に乗せて表現。決して奇を衒ったわけではなく、むしろあまりに直接的でピュアだったことがヒットの核心だったという意味で、現代としては珍しいヒット曲の一つとして、多くのリスナーの胸に刻まれた。
一方で、アルバム『イズ・ゼア・エニバディ・アウト・ゼア?』は彼らが“単に良いバラードを書くバンド”で終わらないことを証明した。「ロック・スター」や「アイ・リアリー・ウォント・イット」は若い世代らしい彼らのポップスへの野心や幅広い音楽的な志向を反映したもので、だからこそAGBWは、同世代のファン.や先輩格のベン・フォールズと並び得る魅力的なインディ・ユニットとして、注目を集めるようになったのだ。
聴く人に勇気を与える新作『ホエン・ザ・モーニング・カムズ』
さて、そんなナイーブな一曲によってスターとなった彼らだが、新作『ホエン・ザ・モーニング・カムズ』は、そこから更に前進し、AGBWのアーティストとしての成長がはっきりと感じられる作品となった。
結論から言えば、『ホエン・ザ・モーニング・カムズ』は聴く人に勇気を与える作品だと言える。踏み出す勇気や耐え忍ぶ勇気。それは決して仰々しいものではない。『朝が来た時』、目が覚めて、特に理由もなく「今日は何かが変わるかも知れない」と素直に思えてくる。そんな何気ない一日の始まりのような(もしかすると、そんなに前向きになれない日が大半かも知れないけど…)清々しくて、力強い情感が本作にはあふれている。
その最大のポイントは“アコースティックな質感を大事にした楽器や歌の鳴り”と“ヒップホップの影響を受けた力強いリズム&ビート”の組み合わせだ。バンド本来のメロディ・メーカーとしての資質や努力はもちろん、そうしたサウンド面でのコンセプトが、本作が引き出そうとしている情感を一層クリアにしている。
新アルバムからの先行シングル「ホールド・イーチ・アザー」もまたヒップホップ譲りのブレイク・ビーツがイントロから力強く鳴り響く作品だ。同曲は実は「セイ・サムシング」と同じく失恋をテーマにした曲だが、その醸し出すフィーリングはまったく違う。「セイ・サムシング」が拭い得ぬ悲しみがゆっくりと浄化されていく様を表現したサウンドだったと言えるとしたら、本作は失恋の悲しみを前にして、それでも歩むことを止めないと高らかに誓うようなサウンドだと言える。
Hold Each Other ft. Futuristic
僕が歌っているパートが、男性を恋愛対象としていることで、
オンエアされないラジオ局もいくつかあります。【チャド】
勇気という点で言えば、この曲でチャドはある重要なチャレンジを行っている。実は同性愛者である彼は、本作の中で恋愛の対象として「him」つまり男性代名詞を用いてる。これは異性愛的な価値観の強いメインストリームのポップスの世界では異例のこと。もちろん、同性愛のシンガー自体は、欧米のポップスの世界では珍しくはなく、最近ではここ日本でも人気のサム・スミスが同性愛者だとカミング・アウトしてなお支持を得ている。また、アメリカでは近年、同性婚の法整備が急速に進むなど、同性愛者への風当たりは一見弱まっているようにも見える。
だが、この件について、AGBWの<Human Rights Campaign>のNational Dinnerでのパフォーマンス映像を観ると、表面上の追い風とは別の問題の根深さも見えて来る。その中でチャドは「次の曲は「Hold Each Other」という曲で、現在全米中の多くのラジオ局がオンエアしてくれていますが、僕が歌っているパートが、男性を恋愛対象としていることで、オンエアされないラジオ局もいくつかあります。僕が小さかったころ、こういった曲はまだ存在していませんでしたが、そういう曲があったらいいのにと思っていました。そんな思いやメッセージが込められたこの曲をパフォームできることをとても誇りに思いますし、とてもうれしく思っています。」と語りバンドの楽曲の意義を改めて示している。
A Great Big World Perform at the 2015 HRC National Dinner
AGBWの場合、直接的にヒップホップ・コミュニティの出身ではないが、ヒップホップと同性愛の関係性で言えば、2014年のグラミー賞のマックルモア&ライアン・ルイスの「セイム・ラブ」のパフォーマンスも記憶に新しい。同パフォーマンスには長年同性愛のコミュニティから愛されて来た歌姫マドンナがサプライズで登場、参加した全てのカップルたちを祝福するという場面もあった。
AGBWは、同性愛者のチャドとともに異性愛者のイアンも所属、ともにヴォーカルも作曲も行う、ある意味では「セイム・ラブ」を地で行くユニットだと言える。そんな彼らが、自分たちの新たな失恋ソングとして放った「ホールド・イーチ・アザー」が、前述したようにどこまでも晴れ晴れしいフィーリングを持っていることは、彼らの音楽が、やはりこの時代に鳴らされるべきポップスであることの証明のように思う。
最後は「ホールド・イーチ・アザー」のラジオ・セッションでの映像をご紹介。新たなグループのアンセムとして、二人が並び歌う様子をぜひ観て感じて欲しい。『ホエン・ザ・モーニング・カムズ』国内盤には「ホールド・イーチ・アザー」の別テイクに、「セイ・サムシング」のベント・コレクティヴ・ラジオ・エディットが収録される。この冬注目すべき新たなインディ・ポップの傑作をぜひチェックしてみて欲しい。
Hold Each Other (Live on KISS Radio)
ア・グレイト・ビッグ・ワールドのサイン入り写真を
抽選で3名様にプレゼント!
2015年12月16日(水)~12月23日(水)正午までに、Billboard JAPANの公式twitterアカウント(@Billboard_JAPAN)と洋楽専用アカウント(@BillboardJP_INT)を両方フォロー&ハッシュタグ#AGBWPhotoJPでツイートした読者の中から抽選で3名様にサイン入りアーティスト写真をプレゼント!
・写真は選べません。予めご了承ください。
・応募締め切りは、12月23日(水)正午となります。
・当選者の方には、@Billboard_JAPANよりDMを送ります。当選時に@Billboard_JAPANと@BillboardJP_INTをフォローされていない場合、当選は無効となります。
ホエン・ザ・モーニング・カムズ
2015/12/16 RELEASE
SICP-4741 ¥ 2,640(税込)
Disc01
- 01.オール・アイ・ウォント・イズ・ラヴ
- 02.カレイドスコープ
- 03.エンド・オブ・ザ・ワールド
- 04.ホールド・イーチ・アザー feat.フューチャリスティック
- 05.オアシス
- 06.カム・オン
- 07.ウォント・ストップ・ランニング
- 08.ワン・ステップ・アヘッド
- 09.ザ・フューチャーズ・ライト・イン・フロント・オブ・ミー
- 10.ホエン・ザ・モーニング・カムズ
- 11.ホエア・ダズ・ザ・タイム・ゴー
- 12.ホールド・イーチ・アザー
- 13.セイ・サムシング (ベント・コレクティヴ・ラジオ・エディット) (日本盤ボーナス・トラック)
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