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特集:高野寛~日々進化し続ける音楽家の足跡~
高野寛という音楽家は、ともすればつかみどころがない存在かもしれない。その理由は、彼の多彩なキャリアにある。一般的には、「虹の都へ」や「ベステン・ダンク」というヒット曲を持つシンガー・ソングライターだろうが、人によってはトッド・アングレンとの交流や凝った宅録ポップ・アーティストという印象を持っているかもしれない。また、ライヴやフェスに通い詰めているリスナーなら、YMO周辺を筆頭とする尖った音楽シーンでは欠かせないギタリスト、というイメージもあるだろう。いずれにせよ、才能豊かで個性的な存在であることは確か。ここでは、そんなユニークなアーティストである高野寛を俯瞰してみたい。
高野寛は、1964年生まれ、静岡県出身。中学生でギターを始め、高校でバンド活動や宅録に目覚める。大阪芸術大学在学中の1986年に、高橋幸宏と鈴木慶一が主催する「究極のバンド」オーディションにギター部門で出場し、見事に合格。バンドでデビューする予定だったが流れてしまい、ザ・ビートニクス(高橋幸宏&鈴木慶一)のツアーでギタリストとして起用されて注目を集めた。
1988年には、高橋幸弘のプロデュースにより、シングル「See You Again」で東芝EMIからデビュー。宅録の感覚をスタジオで再現したファースト・ソロ・アルバム『hullo hulloa』で鮮烈な印象を残した。翌年にはセカンド・アルバム『RING』を発表し、通好みのシンガー・ソングライターとしての評価を受けるが、大きくブレイクするのはさらに翌年のこと。1990年に発表した4枚目のシングル「虹の都」が、MIZUNOのスキーウェアのCMタイアップとなり大ヒットを記録。トッド・ラングレンがプロデュースを手掛けた同曲を含むサード・アルバム『CUE』と、続くシングル「ベステン・ダンク」のさらなるヒットによって、当時の音楽シーンで確固たる地位を築いた。
その後も、再びトッド・ラングレンと組んだアルバム『AWAKENING』(1991年)、忌野清志郎が参加した「泡の魔術」を含む5作目『th@nks』(1992年)と力作を発表し続ける一方で、オリジナル・ラヴの田島貴男とのデュエット「Winter's Tale~冬物語~」で話題を呼ぶなど、持ち前のポップ・センスとファンをうならせるマニアックな作風で唯一無二の存在となっていく。彼の特色は、どこかひねくれたポップスを歌うシンガー・ソングライターであり、またマルチ・ミュージシャンならではの才能を活かしたセルフ・レコーディングの面白さだ。しかし、特有の密室的な印象も、6作目の『I (ai)』(1993年)、7作目『Sorrow and Smile』(1995年)と作品を重ねるごとに薄れていき、作家やシンガーとしての個性が浮き彫りとなっていった。それは、1999年に発表したアルバム『tide』の後に、初の弾き語りツアーを行ったことからもわかるだろう。
▲ 「アート・リンゼイと高野寛 improvisation #1」
また、ソロとしてしっかりと地に足の着いた活動を行う一方で、コラボレーションやゲスト参加も積極的に行っていく。2001年には、BIKKE(TOKYO No.1 SOUL SET)と斉藤哲也(undercurrent)が組んだNathalie Wiseにヴォーカル&ギターで参加。2005年には、原田郁子(クラムボン)、tatsu(レピッシュ)、坂田学とともに4Bを結成した。2006年には、THE BOOMの宮沢和史率いる多国籍バンドGANGA ZUMBA、2007年からは高橋幸宏や原田知世らとpupaのメンバーに加わるなど、とにかくバラエティ豊か。その他にも、YMO、細野晴臣、坂本龍一、テイ・トウワ、中村一義、YUKI、CHARA、スキマスイッチ、小泉今日子などなど、共演やプロデュースに関わったアーティストや作品は数え切れないほどいる。
オリジナルに関しても、2004年にはエレクトロニカの要素を巧みに取り入れた傑作『確かな光』をものにし、健在ぶりをアピール。2008年のデビュー20周年以降は、亀田誠治プロデュース曲を含む『Rainbow Magic』(2009年)、トッド・ラングレンやYMOのカヴァーにもトライした『カメレオン・ポップ』(2010年)という2枚の充実作を、ユニバーサルミュージックからリリースした。2013年には、デビュー25周年を記念して、ビートルズからくるりまで敬愛するアーティストの楽曲を歌った『TOKIO COVERS』を発表。その勢いで、翌2014年にはモレーノ・ヴェローゾらとブラジル録音した『TRIO』で話題を呼んだ。また、同年には、ハナレグミや岸田繁(くるり)といった高野寛を慕うアーティストが一同に会し、『高野寛 ソングブック ~TRIBUTE TO HIROSHI TAKANO~』もリリースされるなど、年々彼を取り巻く音楽シーンが増大し、充実しているように感じられる。
▲ 「高野寛 ソング・ブック 〜tribute to HIROSHI TAKANO〜」 (Trailer)
そんな彼の幅広い交友関係から生まれたライヴ企画が、2016年2月にビルボードライブで行われるスペシャル企画。高野寛、畠山美由紀、おおはた雄一という3人によるコラボレーションで、それぞれの個性を活かしながらも、ソロではできないパフォーマンスを繰り広げるのだという。数々のセッションに加わりながら、自身のアイデンティティを確立してきた高野寛ならではの面白さも、きっとこのステージでは披露してくれることだろう。日々進化し続ける彼の足跡のひとつとして、この目で確かめておきたいライヴなのだ。
公演情報
高野寛×畠山美由紀×おおはた雄一
ビルボードライブ東京:2016年2月5日(金)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2016年2月8日(月)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
BAND MEMBERS
高野寛 / Hiroshi Takano (Vocal, Guitar)
畠山美由紀 / Miyuki Hatakeyama (Vocal, Guitar)
おおはた雄一 / Yuichi Ohata (Vocal, Guitar)
関連リンク
Text: 栗本斉
TIMELESS PIECE BEST OF HIROSHI TAKANO
2016/10/05 RELEASE
UPCY-9407 ¥ 1,528(税込)
Disc01
- 01.ベステンダンク
- 02.虹の都へ
- 03.カレンダー
- 04.国境の旅人 [New Version]
- 05.夜の海を走って月を見た [New Version]
- 06.島
- 07.Another Proteus~幻
- 08.いつのまにか晴れ [New Version]
- 09.RING [New Version]
- 10.SEE YOU AGAIN [New Version]
- 11.エーテルダンス
- 12.衛星から愛をこめて
- 13.目覚めの三月 [New Version]
- 14.BLUE PERIOD [New Version]
- 15.2000 [Todd Rundgren Version]
- 16.ドゥリフター
- 17.Winter’s Tale~冬物語~ [Hiroshi Takano Version] (Bonus Track)
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