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BOOM BOOM SATELLITES 『19972007』インタビュー
音楽の聴かれ方が多様化し、合わせて生まれてくる音楽の在り方も変化。それを違和感なく受け入れられる者がいて、非常に危機感を感じている者もいて、今シーンは簡単な言葉で言ってしまえば混沌としている。そんな状況下でBOOM BOOM SATELLITESが初のベストアルバムを、全曲リミックスなりリマスタリングなりを施した実に作品性の高いモノとして完成させた。彼らは一体、音楽の今と未来をどのように見据え、このような拘り抜いた盤を作り、またこれからを歩もうとしているのか。難解な現実を打ち抜く為の姿勢、作り手と聴き手の在るべき姿をこのインタビューから感じてもらえたらと思う。
骨の太さというか、情の深さは感じます
--BOOM BOOM SATELLITESがベストアルバムをリリースするというのは意外でした。というか、その時代その時代の温度だったりアンチテーゼだったりを表現しているバンドだから、ベストとか嫌がりそうだなって。なんで今回こうしてリリースされる運びになったんでしょうか?
川島道行:お察しの通り、ベストの話は何度か拒んではいたんですが、去年『BACK ON MY FEET』を作り終えたぐらいの時期に、これまでの作品を振り返る機会が偶然あって。スタジオのPCにいろんなアーティストのCDとかをリッピングしてて、自分たちのも入れてたんですよ。それで「あ、いいな」って(笑)。--(笑)。
川島道行:その頃、シーンではポストパンクリバイバルだったりとか、フレンチエレクトロが流行ってて。嫌いじゃないですけど、ちょっとそういう薄いモノに食傷気味だったときで。その中でBOOM BOOM SATELLITESの過去の作品を聴いてみたときに、骨のある、良い楽曲が多いなって思ったんです。で、きっと中野(雅之)は、作品を作り終えたばかりで、根を詰めてやった分、ちょっと音楽を遠ざけるだろうし、自分たちの曲とかを聴く機会がないんじゃないかな、っていうのは思っていたんですよ。それで何気なく過去6枚のアルバムとかを聴いてみて。1枚1枚色の濃いアルバムたちの中からベストと言われるようなセレクトで1枚の作品を作る、っていうのがあんまり想像できなかったはずなのに、実際に音を聴くとそうでもないなっていう。そこで再度ベストの話が挙がってきたときに、まぁやるからにはその時代時代のオーディオ的な音があるので、それを1回紐解いてリマスタリングしなきゃいけないけれども、その結構な負担を覚悟した上で「良い機会なんでやろうか」っていう感じでしたね。--リミックスやリマスタリングの作業にはどの程度の時間と労力を掛けたんでしょうか?
川島道行:1,2ヶ月は掛かりましたね。まずは何を収録するかというところから入ったんだけど、僕らが他のいわゆるベスト盤を出すアーティストと違うのは、シングルを多く切るバンドではないし、おそらくはそんなに一般的ではない。今、数少ないクロスオーバー的で「こういう形があるんだ」っていうひとつのサウンドスケープを呈示しているので、今回もベストとは言え、アーティスティックな作品にしようと。なので、積極的にインタールード的な小曲も入れていて。--全収録曲、何かしらの手を加えた感じですか?
川島道行:そうですね。全部リマスターしていて、過去の音源をそのままダビングしただけではないですね。あと、当時はダンスミュージックとしての機能を果たした個性だったりとか、音があったりするんですけど、今聴くと物足りないモノもあって。それで今回この並びで聴いてもらう為に新しい音を足したり、リアレンジをした曲もあります。--あと、DISC-1とDISC2、それぞれどのようなコンセプトだったりイメージをもって構成していったんでしょうか?
川島道行:まずキーになる曲はあると思って。ライブで慣れ親しんでもらってる曲だったり、テレビで多く流れていたり、映画で使われていた曲が。で、そういった曲を紡いでいくのに、僕らの音楽性には欠かせないジャズ的な要素が強い曲だったりとか、女性のコーラスを入れている曲とかを入れていく。だから、DISC-1とDISC2をテーマ毎に分けるというよりも、そういった曲たちをどう聴かせていくかを考えながら作った作品ですね。オリジナルアルバムとは違う流れで聴く曲ばかりになっているので、1曲1曲の印象は変わってると思います。--例えば『LOOKING GLASS』を置いた上で『Pill』をぶっ放す面白さとか、BOOM BOOM SATELLITESだからできるベストアルバムの構成の仕方ですよね。そういう楽しさも含め、さっきBOOM BOOM SATELLITESはベストを嫌がりそうなイメージと言いましたけど、実際それをひとつの作品に仕上げる作業は非常にエキサイティングだし、有意義なモノだったんだろうなって。
川島道行:そうですね。過去の自分たちをしっかり振り返る機会にもなりましたし。やっぱり間違っていなかった。毎回作品を作る度に「こうすればよかった、ああすればよかった」って思うことがあるはあるにしても、遠い自分を振り返ってみると、間違いないことをしてきているなと。ということは、今やってることも間違いないであろう。っていう自信に繋がったと思うし。それは次のアルバムを作っている今のメンタリティとかにも大きく影響してる作業工程だったと思います。--ちなみにこの30曲がひとつの物語だとして、川島さん的にお気に入りの流れだったりシーンっていうのは、強いてピックアップするならどこだったりしますか?
川島道行:『Let it All Come Down』と『40-FORTY-』の流れですかね。祝祭的な広がったコーラスを響かせる個性の強い楽曲の後に、ディープなところへグッとしまっていく、スーパーノヴァ的な流れがここにはあると思う。ブラックホールができる瞬間というか。--確かに。しかもその2曲は単体で聴いても、常にBOOM BOOM SATELLITESがそこに今ない次元に行こうとし続けてきたことを証明してると感じます。
川島道行:僕もそう思うし、特に中野はそう思ってると思います。今と制作環境は機材面ひとつ取っても全く違うし、自由さが違うんですよね。今はPCがあって、機材とかも比較的安くなっていて、手に入れやすい状況だけれども、当時はすべてが「どうやって買うんだ……?」っていうような状況で。で、サンプラーとレコーダーで作っていたんだけど、このクオリティが出せたのかっていう。その骨の太さというか、情の深さは感じますよね。やっぱり渦中にいると気付けないモノで、でも振り返ると音が証明してくれる。それを記録しておいてくれた、っていう感じです。その箱を開けてみる機会が今回はあったっていう。すごく良い体験でした。--BOOM BOOM SATELLITESの10年間を客観的に聴いたときに、いろんなアーティストが世にいる中で、どんなバンドだなと感じたりしますか?
川島道行:う~ん、みんなどういう状況でこの音楽を聴いてるんだろう?とは思います(笑)。この前、お気に入りの1枚を選ぶみたいなことをして、ビョークの作品を挙げたんだけど、それは結構覚悟を決めて聴くんですよ。他のことをしながらではなく「聴こう」って。大体の音楽は何かしながら聴けるモノなんだけど、何故かビョークだけはどうしても何かしながら聴けなくて。で、俺たちの音楽は結構それに近いんじゃないかなって。ヘッドフォンで聴きながら街を歩く状況は想像しやすいんですけど、それ以外に何かをしながら聴く状況があまり想像できないので、そういうアーティストなんじゃないかなと思いました。「聴こう」と思ったりとか、必要としてるときに手を伸ばす音楽かな。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
その想像力の無さを他者のせいにする人
--これは個人的な印象で、BOOM BOOM SATELLITESをそんなによく聴いたことがない人にとっては意外かもしれないんですけど、実は非常に人間くさい音楽をやってるバンドだなって感じるんです。どれもエモーションについて追求している音楽だし、『Let it All Come Down』をやれば『40-FORTY-』もやって『GIRL』もやる雑種性は人間が生きていく上でのリアルそのものだと思うんですが、自分ではどう思いますか?
川島道行:僕らの音楽を機械で出来ているモノと捉えている人がもしかしたら居るのかもしれない。機械がありさえすればそういう音楽ができるって多くの人が思うのかもしれないけど、実はそうじゃなくて。その機械は人が鳴らすモノであって、そこにどれだけの念とか情とか、愛を託せるかっていうことに音楽のクオリティは掛かってくるんじゃないかなと最近思っていて。例えば、僕がいろんな音源が入っているソフトウェアを持っていたとして、中野も同じソフトウェアを持っている。でも生まれてくるモノは全く違いますから。やっぱり人柄がこういう楽曲には色濃く滲み出てないと魅力的ではないし、僕は他のアーティストの作品を聴いてもそういったモノにしか興味が持てない。感動しない。それは普通のパンクバンドであろうと、何であろうと、音楽にはそういう風であってほしいなって思います。--すごく抽象的な質問をしたいんですが、そうした音楽を目指して創作活動を続けてきた中で、BOOM BOOM SATELLITESが最も大きく変化を遂げた部分ってどんなところだと思いますか?
川島道行:これだけ長くやっていたり、楽曲も多種多様になってくると、リスナーとの関わり方っていうモノも、まぁ端的には言えないけれども、いろいろ変化してきている。やっぱり今僕らにフェスのイメージを持たれているとしたら、その辺も当初よりかは全然違ってきているし、バンドとしての引き受け方、お客さんに楽しんでもらう形とか伝え方っていうことがどんどん変わってきてると思う。ただ、変わらない部分はしっかりと持ち合わせたまま。例えば、初期の頃の12インチの印象を持っている人が「なんだ、今は普通のバンドじゃねーか」って言う話もちらほら目にしたり、耳にしたりとかするけれども、僕たちは全然そんなことお構いなしで。そんな小さいところに拘ってはいない。そうじゃないと、こうして過去を振り返って、自分たちで聴いても「変わらない良さがある」って思うモノを残すことはできなかったんじゃないかな。--あと、分かり易い変化という部分では、リリックに関してもかなり変わりましたよね。『40-FORTY-』とか『DRESS LIKE AN ANGEL』の頃のリリックってやっぱり今見ても病的な匂いがするし(笑)。
川島道行:確かに病気ですよ、これは(笑)。ただ、世の中が今よりも平和……ではなかったかもしれないけど、表層的にはこんなに狂ってはいなかった、見えてくる部分は穏やかであったから書いたリリックですね。ある時点からどんどんおかしくなってきて『40-FORTY-』などで書こうとしていた世界が普通になって、ニュースとかでみんなが普通に目にするようになった。『40-FORTY-』とか『DRESS LIKE AN ANGEL』を書いているときはそこを突いていこうと思っていて、人の業の深さだったり、社会と自分との関わり方だったりとか、存在の仕方だったりとか、真理を突いたストーリーっていうのを考えていたんだけど、こうまで現実が病んでくると、それはもうただの描写でしかなくなってきてしまった。だからリリック、詩、言葉っていうモノはその時代時代においてあるべき、語られるべきモノであると思っているから、そこで変化はしていく。社会に対しての自分のクロスフェードとか、距離の取り方だったりとか、ステートメントの仕方だったりとか。 あと、先程「病的」って仰られたけど、確かにそうなんだけど、ただの暴力は僕はすごく嫌いで。今の世の中にはそれが多い。マンガにしろ、音楽にしろ、ただ禁忌で、痛みのないファッションとして暴力を使うモノが多いと思うんですよね。そういうモノには腹が立つし、それに対してのアンチを書いたりもしてます。また、人が想像力を働かせて完成形に及ぶモノがアートだと思うし、音楽にしろ、映画にしろ、そういうモノであってほしいと思っているんだけど、でも世の中は「全部分かり易く与えてもらおう」っていうのが今は蔓延している。それに応えているのかどうなのか、日本語の歌でもそういうモノが多い。僕らは常にそうやっていろんなモノを見ながら、自分たちの存在意義だったり、存在評価だったりを考えて表現してる。--『INTERGALACTIC』や『SHUT UP AND EXPLODE』といった近年のリリックに優しさがあったり、中に向かって爆発するんじゃなくて、外に向かって突き抜けようとしてる感じがあるのも、時代を意識してのもの?
川島道行:そうですね。この閉塞感に対してのモノでもあるし。あとは、全部噛み砕いて最後まで結論を与えてもらわないと「分からない」という人がいて、その想像力の無さを他者のせいにする人がいて。それに合わせてテレビが、人が病気で死ぬことを分かり易いドラマだとする、その軽々しさだったりには「No」だなと思っていて。その中でまた最近書くモノに関しては多少変化があると思う。--では、曲に対してリリックのアプローチは考えられると思うんですが、それでも川島さんが時代時代それぞれにメッセージとして放っておきたい言葉だったり姿勢みたいなモノは常にあって、それを何かしらの形で出し続けてきた自負はありますか?
川島道行:あまり自覚はもっていなかったんだけれども、こうやって振り返って、日本語訳も全部自分でやり直してみたときに「へぇ~」って。僕はスタジオで中野とずっと居る訳ですけど、いろんな話をしたり、いろんな問答みたいなことを繰り返してきて、彼の思考だったり思想だったりっていうのが、自分の中に多く移植されていたりして。で、彼は言葉を書かないから、ある意味僕には潮来的な(笑)部分も含まれていて、だから僕が書いてるコアな部分に中野は十分関わっていて、それがバンドとしての、ある種の表面としてリリックに落とし込まれている。そういう意味では、こうして30曲分振り返ってみると、自分たちの意とするモノを書けてきたと思います。--そこを感じながらBOOM BOOM SATELLITESの10年間をこうした形で聴くと、実は泣けたりもするっていう。さっきの人間くささの話にもリンクするんですけど、結局は生命の在り方をBOOM BOOM SATELLITESはリリックではもちろんですが、その音楽のすべてで表現してる気がするんです。
川島道行:そうですね。まぁでも自虐的なことを言うようですけど、実際聴いてる人は歌詞なんて読んでないと思うんですよ(笑)。もちろんそこに気付いてもらえたら、僕はそこに神経を注いでいるので、もし伝わったり興味を持ってくれたりしたら物凄く嬉しいけれども、おそらく僕らの音楽の楽しみ方の中にそれはあまり含まれていないんであろう、っていう感じはしますね。でもこれは人のアンテナの引っ掛かるポイントがどこかってことだと思うんですよ。俺はたまたま言葉ってモノに対してすごく美味しさを感じてしまった人というか、知ってしまった感じはあるし。それは人それぞれだと思うし。すごく大事なことだけれども、そこだけを取り立てて押しつける気は全くなくて。それってもうドラムの音色一個に出てる話だから。……なんでしたっけ?質問は(笑)。--BOOM BOOM SATELLITESは泣けるという話です(笑)。
川島道行:いや、泣いて頂けたら嬉しいですよ。僕、泣きながら書いてるんで。いろんな意味で。--一発聴いたときの衝撃がBOOM BOOM SATELLITESにはあって、でもそこで終わらない奥深さを兼ね揃えてる表現だから、どこまでも追求していける面白さがあると思うんです。だからこそ今回、この作品にこれだけのアーティストたちが絶賛のコメント(『19972007』初回盤に封入)を寄せてるんじゃないかなって。
川島道行:だとしたら嬉しいですけどね。このコメントは僕らが取ってきてくれと頼んだものではないんですけど、こうしてコメントをもらえること自体にはすごく感謝をしています。ただ、僕らがこの人たちに影響を与えたとはあまり思っていなくて。実際関わったことのある人で言えば、宮地昌幸(アニメ『亡念のザムド』監督)さん、曽利文彦(映画『APPLESEED』プロデューサー)さん、一緒にライブをしたことがあるアーティストで言えば、アンダーワールド、Dragon Ash、the HIATUSといった人たちとは、お互い様だと思ってるんですよ。全員そうですけど、同じ時代に音楽という時間や場所を創ろうとしてきている人たち。映画監督で言えば、作品というモノで時代を共に過ごしている人たち。そういうことが大事に思えるコメントでしたね。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
憂いている暇はなくて、だからこそ手を抜かない
--あと、日本のシーンにもエレクトロとロックの融合を根差した音楽をやっている人は増えましたが、BOOM BOOM SATELLITESっぽいバンドって一切出てこないですよね。そこがこのバンドのアイデンティティを全て物語っているような気がするんですが。
川島道行:そうですね。孤高の存在を目指していた訳ではないんですけど、目の前にある音楽への妥協がなく、それを続けていたらこうなっていた。っていう感覚ですね。みんなと一緒は嫌だから変わったことをしたりとか「ほら、俺たちしかいないじゃん」っていう立場を守ろうとしていたら、ここまでは続いてこなかったと思うし。そんなことには一切興味がないので。より多くの人に伝えて楽しんでもらいたい、その状況に行きたいっていうのが、常に音楽を作っている上での無意識の中の意識。--また、これはどのバンドやアーティストにもあると思うんですが、こうしてベストアルバムを発表すると、否応なしに世間に“ここまでで一括り”という印象を与えます。で、その先にある新作に過剰な期待をされがちだと思うんですが、その期待に応えられるだけの、もしくは良い意味で裏切れる楽曲たちは着々と生まれているんでしょうか?
川島道行:そうですね。お釣りが出るぐらい。--おぉ~!
川島道行:(笑)。あと、今回のアルバムも過去を振り返るようなモノではないし、時間の流れを区切ったり止めたりとか、後ろに戻したりとか、そういうモノではなくて、普通に押し並べてオリジナルアルバムの中にポンと置ける、ひとつの作品になってるなぁって思ってるので。まぁ確かに世間から見たらベスト盤というモノはそういった存在になるのかもしれないけど「じゃあ、それはさておいて」っていうことにもできるし、これがあった上で行ける次のステップ、次のアルバムがあるので。それは僕らだけしか知らないけれども、そう感じさせる楽曲たちがあるんですよ。その辺の期待感に関しては、もう素直に「聴いてほしいな」っていう気持ちです。--今後、BOOM BOOM SATELLITESという音楽媒介を通してこんなことをやってのけたい、的な野心めいたモノは何かあったりしますか?
川島道行:野心はずっと「良い作品をより多くの人と共有したい」ということで、その為には、僕らは妥協もするつもりはないし、常に「その先へ」っていう感覚でもってやっていくし。もちろん聴いてもらう人たちの想像力の手助けも必要。どこまでやっても僕らのところで100%完成することはないので。そういうリスナーに恵まれてどんどんとまたこの先も作品を作り続けることができるのが希望だし、ライブに関しても、その音楽や時間を楽しむことだったり、感じることで、ひとつの生活の支えにしてほしいな。というのが極めてシンプルで……在り来たりな答えだと思うんだけど(笑)でも本当「音楽がそういうモノであってほしい」と思っている人のところに、僕らの音楽が届いていってほしい。それが希望であり、野心です。--そういうバンドだからこそ、投げかけてみたい質問があるんですが、今現在の日本の音楽シーンという土壌についてはどんなことを感じたりしますか?というか、どんな風に映ってますか?
川島道行:良いバンドって多いと思うんですよ。僕らは日本の音楽も海外の音楽も、良い音楽は良い音楽として捉えているし、あんまり穿った目では見てないんですね。だから作り手に対して思うことよりも、音楽を発表していく上での状況に対して思うことがたくさんある。リスナーには“全部与えてもらえるモノ”だとは思ってほしくないし、そういうモノを欲しがられて「これでいいんでしょ?」って音楽を発表していってしまうのも良くない。--例えば、携帯電話で楽曲のサビ部分だけを購入する音楽の楽しみ方とか、アルバムを聴いて旅をする音楽の楽しみ方をしてきた世代からすると違和感を覚える形が生まれてきています。それについてはどう思います?
川島道行:先程話したような理想はもちろんあるんですけど、悪い言い方をすれば「しょうがない」というか。もうそういうデバイスやシステムが組み上がった状況の中で、それを普通に受け入れている人たちが波のように押し寄せてきている訳だから。そこを憂いている暇はなくて、だからこそひとつひとつのパッケージを取っても手を抜かないというか、丁寧に作っていくことが逆に大事な感じがしていて。なので今作『19972007』の初回盤のブックレットとかもみんなで凄く詰めて考えたモノだし「手に取ってほしい」ということだけは諦めずに進めている。今の状況に対して「そうじゃないんじゃないか」ということは形で示す。アティチュードで示す。幸運にも理解のあるスタッフに恵まれてそれを実現できているんであれば、自分たちはそこへの労力を惜しまない。本当、憂いていても仕方ないですからね。もちろんアンチではありますけど。--これからも音楽の聴かれ方はどんどん多様化していくし、それは世代だけじゃなく、ジャンル別に使用するメディアが異なっていくような印象すら僕にはあるんですが。
川島道行:実際、僕もそうですね。勉強の為に日本のヒットチャートを賑わしているグループの曲とか聴きますけど、それを僕はCDで買おうとは思わないし(笑)。あと、残念ながら、もうダウンロードでしか手に入れられなくなってしまってる音源もあったりしますからね。--そこの変化に対して何かBOOM BOOM SATELLITESの表現が変わっていく可能性はあると思いますか?
川島道行:携帯配信用の曲作りとか?--もしくはそこに触れないとか。
川島道行:あ~、それはないですね。こういう状況になる以前から「この音楽を手にしてくれる人はどういう状況で聴くんだろうか?」っていう話はスタジオでよくしていたし、全くそこを無視することはしたことがないし、これからもそれは変わらないと思うんだけれども、かと言って「携帯とかPCで聴かれるんなら、この辺でやめておこうか」とか「これでいいんじゃないか」っていうことは絶対にない。作り方とか目指すところっていうのは、変わることはないと思う。--「どんな聴かれ方をしようと!」っていう。
川島道行:そうですね。「このデバイスになったらどう響くんだろう」とか、そういう検証はしたりすると思うけど、100%それに合わせるってことはない。--では、今回のベストアルバム以降、2010年代におけるBOOM BOOM SATELLITESの音楽はどうなっていくと思いますか?
川島道行:今作っているモノが、今の時代の中では寄るべくところがないというか、似ているモノがあまりない、作品性の高いモノになっていて。その先はちょっと分からないけど、今作っている作品がこの状況の中でどのように受け止めてもらえるのか、聴いてもらえるのかがカギだとは思ってます。それは常にそうなんですけど。6枚もアルバムを作っておきながら、そのときそのときのモノのことで精一杯なんで。だから「今後はこうなっていく」っていうのはもっと先にならないと分からない。--では、当面は次なるオリジナルアルバムの完成に向けて……という感じですか?
川島道行:もう2年近く制作してきたモノが終わりに近付いてきているので、ここからが加速しなきゃいけないところなんですけど。目下それに集中しているところですね。なのでしばらくは『19972007』を聴きながら、その次のアルバムを楽しみに待っててもらいたいです。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
19972007.
2010/01/27 RELEASE
SRCP-417/9 ¥ 3,981(税込)
Disc01
- 01.KICK IT OUT
- 02.WHAT GOES ROUND COMES AROUND
- 03.LOOKING GLASS
- 04.PILL
- 05.MORNING AFTER
- 06.LIGHT MY FIRE
- 07.LET IT ALL COME DOWN
- 08.40-FORTY-
- 09.GIRL
- 10.MOMENT I COUNT
- 11.ON THE PAINTED DESERT
- 12.INTERGALACTIC
- 13.SOLILOQUY
- 14.PANACEA
- 15.STRIDE
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