音楽の販売方法が多岐にわたっているのは周知の事実で、そんな中CD売上枚数だけで物事を判断するのは愚行です。このビルボードジャパンチャートではあらゆる側面から楽曲を評価していて興味深いです。僕はそれぞれのソートの順位を見た所感を述べたいと思います。

　まず「S+D順」。劇場限定販売の複数買いを除いた結果とはいえAKB48の強さが目立ちます。続いて嵐を筆頭にジャニーズ勢。あとポコポコとタイアップものが食い込んでいます。AKB48、ジャニーズがほぼ独占している理由は握手会以外にもコレクターズアイテムとしてのCD購入ではないでしょうか。アナ雪やドラ泣きなどのタイアップものはダウンロードが中心のようです（別資料によると）。すなわちお金を出して音楽を買う人は、特典もしくはコレクターズアイテムとして、または映画やテレビで流れていて気になった「流行歌」をポチるレイトマジョリティ、ラガード層ではないでしょうか。と言うのも、「S+D順」上位に若者に人気のSEKAI NO OWARIが出てこないのです。

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　10代、20代に圧倒的支持を得るSEKAI NO OWARI。そんな彼らが「S+D順」に出てこない、ということは若年層はどのように彼らの音楽を取り入れているのか。そこでPCにCDを取り込む「LU順」でソートしてみました。

　すると、SEKAI NO OWARIが嵐に続いて４，５，９位にいます。「LU順」という指標に関してよくわからなかったのですが、大変興味深い。１，２，３位は嵐。そしてセカオワ。西野カナ、三代目と続きます。スマッシュヒットのRihwaやONE OK ROCKもいます。この指標、１０代に人気のアーティストに偏っているのです。何故かと考えました。ニコ動ブームもそうでしたが、１０代は可処分所得が少ないので無料のメディアに飛びつきがちです。そうなると、レンタルCD、そして友達同士のCDの貸し借り。購入には至らず、少し手間がかかっても安価で済ませる方法を選択するのでしょう。このLU順からは、若年層の音楽購入離れ、そして明らかにはなっていませんが動画からのリッピングや違法ダウンロードで済ませる現状も透けてきます。

▲ 「スノーマジックファンタジー」 / SEKAI NO OWARI （クリックして拡大）

　SEKAI NO OWARI「スノーマジックファンタジー」の「S+D順」と「LU順」比較です。CDの売上が下がっているのにPCへの読み込みが止まっていません。

　TW順とエア順のズレも興味深いところです。TW順は、ビルボードジャパンチャートに入れようとする組織票以外はS+D順やLU順と似通った部分が多いです。しかしエア順は独特です。上位の洋楽はラジオの特性として除外すると、邦楽は家入レオ、サザンオールスターズ、USAGI、と、ズレのあるチャートとなっています。世論の一部でもあるTW順とここまでズレる理由は、ラジオプロモーションに大枚をつっこむレコード会社と、トレンドセッターとしての意地が空回りしているラジオ局にあると考えられます。特に後者、イノベーター、アーリーアダプターになりたいラジオ局が色々提案してみるものの一般に浸透していない様子がうかがえます。

▲ 「イマジン」 / USAGI （クリックして拡大）

　USAGIのイマジンという楽曲のチャートです。ラジオによるパワープレイによりエア順は３位にまで昇ります。しかしそれによるTW順は３２位。S+Dも伸びずTWが急降下した後もエアは上位にいます。ラジオ局と世間のズレを表したチャートではないでしょうか。

　今回は一部だけを取り上げてご紹介しましたが、楽曲同士の比較などチャートアクションを多面的に見ることによって、今現在の音楽シーン、音楽文化を新たな視点から見ることができるのではないでしょうか。今後は動画サイトの再生数や、いわゆる「取り放題」ストリーミング再生数なども指標に入れていただければより立体的に見ることができるのではないでしょうか。

ヒャダイン　音楽クリエイター。本名 前山田健一。3歳でピアノを始め音楽キャリアをスタート。京都大学卒業後、作家活動を開始。匿名のヒャダインとして動画サイトへの投稿が話題になる。一方、本名での作家活動でも提供曲が2作連続でチャート1位を獲得。2010年にヒャダイン＝前山田健一である事を公表。アイドル、J-POPからアニメソング、ゲーム音楽など多方面への楽曲提供を精力的に行い、自身もアーティスト、タレントとして活動中。