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【#BJMA】2014年ビルボードジャパン・チャート解析/勅使河原元

【BJMA】特集


金融ビジネスの視点にたったチャート活用の方向性


 チャートの行く末にヤキモキしているのはファンも音楽関係者もみな同じです。多大なプロモーション費用をかけた一曲がもし売れなかったら、と思うと夜も眠れないに違いありません。そんなリスクをヘッジ(起こりうる様々なリスクの程度を予測して、その大きさを軽減したり回避したりして、リスクに対応できるよう備えること)してくれる仕組みの一つと成り得るのがデリバティブ(金融派生商品)です。

 例えば「天候デリバティブ」は、事前に一定の契約料を支払うことにより、冷夏や暖冬などの異常気象による損害を補償する商品です。損害保険に似ていますが、気温や降水量等の指標があらかじめ設定された条件を満たせば、実際の損害に関係なく決められた金額が支払われることが特徴です。そのため、気候変動に左右されず収益の安定化が図れるという点で大きなメリットがあります。

 では、音楽業界での活用の仕方を考えてみましょう。

  プロモーションに1,000万円をかけたあるアーティストの楽曲を想定します。ビルボードジャパン・チャートで10位以内に入ることができれば、経験上、その費用を回収して利益が出ることがわかっているとしましょう。一方、 30位以下ならば大幅な赤字となり、会社の屋台骨を揺るがしかねない事態となる可能性があります。つまり、30位以内に入れなかった場合のリスクに備えることが必要です。そこで金融機関等を相手にあらかじめ一定額のお金を払い、「30位以内に入れなかった場合、1,000万円もらえる」といった契約を結ぶことで、不幸な結果となった場合の損失を補填します。もちろん10位以内に入った場合、契約時に支払ったお金は無駄になりますが、その時には楽曲がヒットして期待通りの収益が得られているので、トータルでは収支がプラスになるはずです。これがデリバティブを用いたリスクヘッジの考え方です。

 こうした取引が金融商品として認められるためには、いくつかの課題があります。その一つが、経済状態からみて合理的な判断ができるということです。これには、デリバティブの売り手、買い手の双方ともに客観的なデータが公平に入手可能であり、評価値の恣意的な操作などの不正を防ぐ仕組みがあることが重要です。新たな指標が加わり、より客観性を増したビルボードジャパン・チャートは、このような「音楽デリバティブ」の実現に向けた第一歩として、無くてはならない存在なのではないかと思うのです。

BJMA2014


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勅使河原元 株式会社野村総合研究所 総合企画センター 新事業企画室 上級コンサルタント。官公庁、業界団体及び民間企業からの委託を受け、主に情報通信政策分野の調査研究・コンサルティング業務に従事。社会システムに関わる政策立案や事業化の支援、実証実験の企画及び実行支援等を担当。次世代を展望した制度設計や革新的なビジネスモデルの構築を通じて、多様化する社会的課題の解決と新たな価値の創出を目指す。

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