Billboard JAPAN


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【#BJMA】2014年ビルボードジャパン・チャート解析/佐々木俊尚

【BJMA】特集


総合順位よりも、チャートの100以下の動きを知りたい


 ラジオのオンエア回数では順位トップを奪っている、ファレル・ウィリアムズの「ハッピー」。チャート詳細を開いてみると、とても興味深い。まずラジオで盛りあがり、その後もあまり順位を落とすことなく、10週目になるころが最もオンエア回数が多くなるという右肩上がりの勢いだ。しかしシングルやダウンロードのセールスは中盤まであまり上がらない。「ハッピー」はさまざまなレスペクト動画が世界各地で制作されシェアされ続けていくという前代未聞の展開をたどった。だから、おそらくは元曲も動画共有サイトのYouTubeでだけ聴かれているケースが多かったのかもと思わされる。

 一方で松たか子の「レット・イット・ゴー~ありのままで~」は、発売当初からシングルやダウンロードのセールスは絶好調だったのに、ラジオではあまり放送されず、ツイッターでも当初はそれほど盛りあがらなかった。4週目からラジオで火がつき、さらに5週目を超えるころからようやくツイッターで火がついたのがわかる。

MV
▲ 「Royals」MV / Lorde

 総合順位を見ると、嵐やAKB48が並んでいて、ああいつもの日本の音楽チャートだなあという感想になる。ところがラジオのオンエア回数で並べ替えてみると、まったく違うランキングになってしまうのが何とも面白い。嵐やAKB48などCDセールスの多い音楽をあまり聴かない、私のような「音楽好き」にとっては(とここでカギカッコ付きになってしまうのが微妙なのだけど)、ラジオのオンエア回数ランキングのほうがずっと納得感がある。先ほどの「ハッピー」を始め、ワン・ダイレクション、ロード、マルーン5などの洋楽もけっこう入ってきているのも好感度が高い。

 とはいえ、総合順位とラジオ順位がほとんどシンクロしていないということは、ラジオで曲がかかってもまったくマスセールスにつながっていないという現実を証明してしまっている。これはラジオ業界の人にとっては衝撃的だろうし、そもそもメディアの役割って何?ということを考え直すきっかけにもなるだろう。

 そもそも音楽チャートの上位は、特殊な世界だ。今のように音楽ジャンルが細分化し、好みも多様化し、ファンがクラスターに分離していく状況の中では、みんなが好きなミュージシャンがチャート上位に入ってくるということのほうが「異常」と言ってしまってもいいんじゃないかとさえ思う。だからラジオを聴いて「ロードの『ロイヤルズ』って良い曲だなあ」としみじみ感じてる人は少なからずいるだろうし、「ロイヤルズ」のようなとびきりの名曲が総合順位でわずか92位であっても、落胆することではないのかもしれない。

 重要なのは良い曲がマスのチャート上位に入ることではなく、ちゃんと聴きたい人に聴かれ、そしてミュージシャンのマネタイズが成り立つような仕組みができあがり、みんながハッピーになれることなんじゃないかと思う。

 だからわたしは、このチャート解析は新しい音楽とつながり新しいミュージシャンを知る良いきっかけになると思うし、マスではない世界の音楽を知るための動線になってくれるんじゃないかと思う。そういう意味で、総合順位100位よりも下のほうのチャートをもっと知りたいなと思った。

BJMA2014


プロフィール写真

佐々木俊尚 作家・ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。早稲田大政経学部政治学科中退。毎日新聞社、月刊アスキー編集部を経て2003年に独立し、IT・メディア分野を中心に取材・執筆している。「レイヤー化する世界」(NHK出版新書)「『当事者』の時代」(光文社新書)「キュレーションの時代」(ちくま新書)「電子書籍の衝撃」(ディスカヴァー21)など著書多数。総務省情報通信白書編集委員。

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