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「自分自身をさらけ出す―それ以上、曲を作る理由なんてない」― BANKS 初来日インタビュー
ポップ、R&B、エレクトロを自由自在に操り、時には力強く、時には物憂げなヴォーカル、そして凛とした立ち振る舞いからは新人とは思えぬ気迫とオーラを醸し出すLA出身、現在26歳のシンガーソングライター、BANKS(バンクス)。2013年にSoundcloudで公開した音源から火がつき、10月にEP『London』を発表するとメディアから大注目を浴び、BBCの【Sound of 2014】では3位に選出。
そして2014年9月、ティム・アンダーソン、SOHNやトータリー・イノーマス・エクスティンクト・ダイナソーズなどを起用して制作されたデビュー・アルバム『Goddess』が遂にリリースされる。リリースに先駆け、8月に【SUMMER SONIC '14】に出演する為に初来日を果たしたバンクスにその生い立ちやデビュー作についてじっくりと訊いた。
生きていると自ずと感じる自然な感情は
誰もが心に秘めていて、私はそれについて歌っている
――日本は初めてですよね?
バンクス:そうなの。とても気に入ったわ。
――昨晩はエリー・ゴールディングと権八に行ったそうですね。『キル・ビル』が撮影された…。
バンクス:ええ!すごく楽しかったわ。食事も最高に美味しかったし。彼女のことは以前から知っていて、一緒にいるととても楽しいの。
――日本食は元々好きなのですか?
バンクス:一番の好物よ!
――自分で料理をしたりも?
バンクス:そうね。料理をする時は、アジア料理にインスパイアされたものが多いわ。シェフという域には全然達してないけれど、野菜に味噌や豆腐を合わせたもの作ってみたり…日本のスパイスが一番好きなフレイヴァーなの。
――昨日の【SUMMER SONIC】でのパフォーマンスもとにかく素晴らしかったですが、手ごたえはいかがでしたか?
バンクス:ありがとう。日本の観客は他の国に比べ、とてもユニークだと聞いていたから、反応はまったく予測できなかった。アーティストに対しての接し方は国によって違うけれど、日本では受容されている特別な感じがした…スマホで写真を撮ったりするのではなく、音楽と向き合い、その瞬間を噛みしめている姿がとてもクールだったわ。
――まだ1年弱しかツアーしていないとは思えぬほど貫禄溢れるステージ・パフォーマンスは、どのようにして形になっていったのですか?
バンクス:今年に入り、よりライブの数を重ねているというのが大きいかしら。やり始めた頃のビデオを見てもらえればわかると思うけれど、単純に私らしくしているだけよ。パフォーマンスすることに慣れることで、これまで持ち合わせていたフレイヴァ―が、より強調されているんだと思う。
――バンド編成は、かなりミニマルで、必要最小限に抑えていますよね。
バンクス:そう。音楽、そしてライブのセットアップに、余計な要素は加えたくない。もしレイヤーがもう1つ必要だと感じたら足すけれど、今は私と2人のメンバーで満足しているの。
――そうすることは、よりバンクス自身の歌声も引き立てていますよね。
バンクス:そう言ってくれて嬉しいわ。
――キーボードでパフォーマンスする前に、「音楽を作り始めた頃の姿をみんなとシェアしたい」と観客に語りかけていましたね。
バンクス:やはり人は自分が繋がりを感じる音楽に惹かれると思うの。人間が人間なのは、感情を共有できるから。愛や…生きていると自ずと感じる自然な感情は、誰もが心に秘めていて、私はそれについて歌っている。みんなが私の音楽と繋がりを感じてくれればと思い、歌っているの。
心がひどくダークな場所にあって、
それを吐き出すはけ口が必要だった
▲ 「This is What it Feels Like」MV
――では、ティーンの頃は、どのような音楽を聴いていたのですか?
バンクス:たくさんの“正直”な音楽(笑)。ローリン・ヒル、フィオナ・アップル、トレイシー・チャップマン、オーティス・レディング、ブランディー、ミッシー・エリオット、N.E.R.D。
――生粋の90年代ガールですね(笑)。音楽を作り始めたきっかけというのは?
バンクス:私がそれを必要としていたから。心がひどくダークな場所にあって、それを吐き出す為のはけ口が必要だった。そこで、たまたま部屋にあった貰い物のキーボードを弾いてみたところから、すべてが始まったの。
――始めた当初は、曲はどのように形になっていったのですか?
バンクス:キーやコードからスタートすることが多かった。自分で弾き方を覚えたから、コード進行とか…曲にすごく複雑な構成とかはなかった。大体の場合は、キーボードのメロディから始まり、ヴォーカルのメロディが続いて、次に言葉が浮かび、メロディをループしていく感じね。最初の頃は自己流に曲を作っていたから、その瞬間に吐き出したかった30秒ぐらいの短いものもあれば、10分に及ぶものもあった。そこから、自分なりに曲の組み立て方を工夫していったの。
――その頃からパーソナルな曲ばかりを書いていたのですか?
バンクス:もちろんよ。
――なるほど。今話を訊いてみて、大学で心理学を専攻していたというのもすごく納得できます。
バンクス:私は、とにかくセンシティヴで、直感的で…他の人の感情に対して敏感なの。だから自分だけでなく、他の人の痛みも感じ、そうやって人と繋がりを感じるのね。幼い頃からずっとそうだった。
――因みに、一人っ子ですか?
バンクス:姉が一人いるわ。1歳半年上の。
――彼女もミュージシャンやアーティストなのですか?
バンクス:いえ、違うわ。でも私が知る人の中でも特にクリエイティヴな人物よ。絵は描いていたけれど、一般的に言う“アーティスト”ではないわ。でも普段の会話…彼女の頭から浮かび上がるアイディアには、ただただ圧倒されるわ。
――そして、大学を卒業してからは本格的にアーティストの道を進むことになりました。
バンクス:音楽はずっとやろう思っていた。音楽と出会った時から、これが私の人生だ、と思っていた。でも心理学についても学びたかった。別にセラピストになりたいとか、心理学者になりたいと思ってやっていたことではなくて、とにかく大好きだったから。学位を取りたいというのもあったの。これまで音楽のレッスンを受けたことはなかったし、音楽ビジネスについて学んだり、そうしたいともこれから多分思わない。だから学ぶと言う上では、心理学に一番興味があったの。
人間工学…思春期、幼少期の発達は特に興味深いわ。人の人生においてとても重要な時期だから。脳の発達過程で、異なる行動パターンをとるようになる理由とか…、それに関わる脳内化学物質やその生態。人間がどれだけ複雑な構造をしているか…本当に驚かされるわ。学んだら理解できることもあるけれど、何十年勉強しても答えが見つからないものもある―最終的にはその人の“ソウル”にゆだねられるの。人間の“ソウル”、なぜ自分がセンシティヴなのか、そして物事に対する自分のリアクション―それらについて本を書くのは不可能よね。
――その“ソウル”というのは、バンクスの音楽のコアにあるような気がしますね。
バンクス:そう。私の音楽はすべて“ソウル”とエモーションからできていて、意識的な部分はまったくないの。私の体内をほとばしる血のごとく。ただ溢れ出てくるの。
――そしてその集大成となる待望のデビュー・アルバム『Goddess』が、もうすぐリリースとなりますね。既にほぼ半分の曲を公開していて、1曲公開されるたびに、アルバムへの期待が高まるばかりですが、バンクス自身は現在どのような心持ちですか?
バンクス:とてもエキサイトしているわ。
――ナーヴァスには?
バンクス:そう感じる日もあるけれど…、やっぱりエキサイトしている部分が占めてる。アルバムとは平和的な関係になるわ。私らしい感じがするし、とても誇りに思っている。私という人間を作るの脳内のすべてのレイヤーが表現されている。だから、ナーヴァスではないかな。
やっと心を分かち合えることができる仲間に出会えた
――アルバムに収録されている曲は、すべてこの何年間かで書かれたものなのですか?
バンクス:すべて現在の私を表している。または、ここ2、3年間に私が感じてきたことを。今の私を表しているけれど、起源は私が生まれた頃からというのかしら…。なぜかというと今の私があるのは、これまでの人生があったから。たとえば、15歳の頃や6年前に書かれたものは収録されていない、その時期の自分とはもう繋がりを感じることはできないから。
――これまで1人で自己流に曲を書いてきたと思うのですが、初めて出会った人々と一緒に曲作りをするのには抵抗がなかったですか?
バンクス:いいえ、素晴らしい体験で、とてもジューシーだった(笑)。生々しさ、ピュアさ、もろさ…自分が持つ極限の感情を他人に曝け出す心の準備が整うまで、10年間辛抱強く待ってた。自分を象徴することに関して沈黙を守ること…、それは自分の一番大切な部分を隠してるのと同じよね。でもそれを初めて公にした途端に、これまで出会ったことがない、自分と似た考えを持つ人々に囲まれていたの。自分と同じようにコミュニケーションを図り、音楽を感じる人々。それは今までずっと沈黙を守っていた私が経験したことがないことだった。だから本当に素晴らしい、素晴らしい1年半だったわ。やっと心を分かち合えることができる仲間に出会えた気がするから。
――SOHN、TEED、ジェイミー・ウーンなど共に曲作りを行ったアーティストたちは、ソングライターであるとともにプロデューサーでもありますよね。彼らがバンクスのサウンドにもたらしたものは?
バンクス:サウンドもずっと自分の中に秘めていた―自分が好きなものや惹かれるものはわかっているから。だから私がインスパイアされるようなフレイヴァーを持つ人々と曲作りを行ったという印象ね。お互いをインスパイアしあいながら、一緒に作り上げた作品。どちらかが欠けていたらこのアルバムは作れなかった。そうでなければ、コラボをする意味もないから。一緒に音楽を作る人には、インスピレーションをもらうの。
――アルバムの中では、様々な感情が音楽を通じて表現されていますが、その個々の感情に合うような独特なヴォーカルの取り方も印象的でした。
バンクス:人間に様々なレイヤーがあるように、私もハスキーだったり、アグレッシヴだったり、もろかったり、鋼鉄のように感じたり…それは人間であることの一部なの。それをすべてアルバムの中で表現できたと思ってるし、そうしたかった。私を作るすべてのレイヤーをさらけだすことができた時に、初めてアルバムが完成したと感じたの。
――特にアルバムの後半の「Someone New」や「Under The Table」では、これまでのバンクスの曲にはなかった新たな姿が見えたような気がしました。
バンクス:その2曲は、極限にもろい私の姿を映し出している曲だから…。
――では、アルバムを完成させる上で、最大のチャレンジだったのは?
バンクス:どの曲をアルバムに収録するか選ばなければならなかったことね。沢山曲がありすぎて…。私にとって音楽は言語だから、これからも曲が足りない、ということはないと思う。音楽を作り始めてから、10年間1人でやってきたから、まったくプレッシャーはなかった。私にとって、音楽は自分と対話する方法で、自分がそれを欲していれば自然と生まれるものなの。私の曲すべてには作られた理由と意味がある…。
――そして1曲、1曲に自分が惜しみなく投影されている。
バンクス:その通りなの。だから余計ハードだった。でも収録されている曲には満足している。完結している気がするし、その他の曲にも自由な居場所があるから。まるで小鳥みたいに(笑)。曲はもちろん、曲順にも満足しているわ。
――では最後に、ミュージシャン、ソングライター、ヴォーカリストとして活動を続けていくにあたっての志を教えてください。
バンクス:これまでやってきたのと同じ理由で曲作りを続けていくことね。自分自身をさらけ出す。それ以上、曲を作る理由なんてない。私が音楽を作るのは必然。そして聴き手が曲と繋がりを感じて欲しいと思う。それは私がコントロールできないことだけれど、そうであって欲しいと願っているの。
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