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2021/03/08

『スケアリー・アワーズ2』ドレイク(EP Review)

 ドレイクの“ピーク”はいつまで続くのか。米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で通算13週のNo.1をマークした4thアルバム『ヴューズ』(2016年)がキャリアの頂点かと思いきや、2年後の2018年には「God’s Plan」(11週)、「Nice For What」(8週)、「In My Feelings」(10週)の3曲を米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で首位に送り込み、それらを収録した5thアルバム『スコーピオン』も同アルバム・チャートで5週間1位を獲得。同年の年間チャートでは、2位にランクインする大ヒットを記録した。また、1stシングルの「God’s Plan」は自身初の年間シングル1位に輝き、「In My Feelings」も9位に2曲をTOP10入りさせている。
 
 昨2020年は、年間7位にランクインしたフューチャーとのコラボ・ソング「Life is Good」や、1位に初登場した「Toosie Slide」、リル・ダークをフィーチャーした「Laugh Now Cry Later」などのヒットも飛ばし、TOP10のランクイン数を42曲に更新してマドンナの38曲を上回る歴代トップに立った。勢いは衰えるどころか、益々意気盛んといったところだ。
 
 本作『スケアリー・アワーズ2』は、自身の楽曲としては2021年初のリリース作品で、前述の「God’s Plan」が収録されたEP『スケアリー・アワーズ』(2018年)に続くシリーズ第二弾。『スコーピオン』以来約3年ぶりの新作『サーティファイド・ラヴァー・ボーイ』からのリード・トラックとして、新曲3タイトルが収録されている。なお、前作『スコーピオン』には「Diplomatic Immunity」が未収録だったため、新作に3曲すべてが収録されるかは未定。また、昨年リリースした前述のヒット・シングルも厳選されるかは明らかになっていない。
 
 EPのリリース同日にシングル・カットされた1曲目の「What’s Next」は、昔のゲーム音を彷彿させるサイレンのようなシンセサイザーをバックに従えたトラップ。ノイズを混えたビートに、揺さぶるようなラップを乗せたお得意のスタイルで、現ラップ・シーンのトップに君臨する王者の風格や余裕、対して不安を感じさせるフレーズや、次のステップに踏み出す前向きな姿勢(What’s Next)等が綴られている。曲中には、以前ヤング・サグと制作した未発表曲「What A Time To Be A Slime」が一部使用されていて、リリース前にSNSでリークした音源も話題を呼んだ。
 
 2曲目は、昨年『マイ・ターン』を大ヒットさせた人気ラッパーのリル・ベイビーをフィーチャーした「Wants and Needs」。その『マイ・ターン』や前作『スコーピオン』にも通ずる重たく不穏なトラック、両者のマイルド&ストロングなラップ、サウンドとボーカルの微妙なズレがいずれも不安定さを感じさせる構成で、ポップな要素は皆無のドス黒さに圧倒させられる。同曲もキャリアの成功や金について歌われているが、「イージーとリンクする」、「神が必要だ」、「アーメン」など因縁の(?)カニエ・ウェストを用いたフレーズもみられ、リリックがなかなか面白い。
 
 ラストはリック・ロスとコラボレーションした「Lemon Pepper Freestyle」。本作の中でもとりわけ人気が高く、トップ・ソングとして挙げる声も多い。バックに使用されているサンプル・ネタは、デンマークのエレクトロ・デュオ=クァドロンが2009年にリリースした「Pressure」という曲だが、原曲のモータウンのようなキュートな雰囲気は取っ払い、シャープで緊張感のあるトラックに焼き直している。ローリン・ヒルの「Ex−Factor」(1998年)をサンプリングした前述の「Nice For What」などネタものも多くのヒットを輩出してきたドレイクだが、世代を問わずヒップホップ・ファンの琴線に触れる洗練されたサウンド、圧のあるリック・ロスの巧みなラップ含め、高く評価されているだけの完成度。
 
 前述にもある通り、本作は新作『サーティファイド・ラヴァー・ボーイ』に向けたプロモーションの一環であり、自身も「次作へのウォーミング・アップ」としている。正式な発売日等は告知されていないが、3曲のクオリティからもアルバムへの期待が高まる。昨年は新型コロナウイルス感染の影響もあり、制作やプロモーションが滞ったというのも理由として挙げられる(と思う)が、延期が続いているため今年こそは是非とも実現していただきたい。

Text: 本家 一成

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