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2021/02/10

『デジャ・ヴ』CNCO(Album Review)

 近年は、BTSをはじめ韓国のボーイズ・グループが米国やヨーロッパでも人気を博しているが、非アジア系以外のグループはジョナス・ブラザーズ、ワン・ダイレクション以降大ブレイクには至っておらず、K-POPの独占状態が続いている。
 
 90年代後期~2000年代初頭は、日本でもブレイクしたバックストリート・ボーイズやイン・シンク、ウエストライフ、ブルーなどボーイズ・グループの豊作時期があった。その中に「ギヴ・ミー・ジャスト・ワン・ナイト」(2000年)などのヒットを飛ばしたナインティーエイト・ディグリーズという異色の4人組がいたが、ワイルドな風貌やラテンやヒップホップを取り入れたサウンド・プロダクションなど、今のCNCOと通ずるものを感じる。
 
 CNCOは、プエルトリコ出身のサブディエル・デ・へスース、エクアドル出身のクリストファー・ベレス、ドミニカ共和国出身のリチャード・カマチョ、キューバ出身のエリック・ブライアン・コロン、そして米カリフォルニア州出身のメキシコ系アメリカ人=ジョエル・ピメンテルの5人によるボーイズ・グループ。それぞれ異なる出身国ということや、ボーイズ・グループの概念を覆すエキゾチックなビジュアル、ラテンやレゲトンを主とした音楽性など、ある意味唯一無二の存在感を放っている。
 
 デビュー・アルバム『プリメラ・シータ』(2016年)は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard200”で39位、2ndアルバム『CNCO』が同チャート33位を記録し、米ラテン・アルバム・チャートでは2作連続の首位を獲得した。米ラテン・ソング・チャートで6位を記録した「恋のレゲトン・レント」をはじめ、これまでリリースした楽曲の総再生回数は30億回、動画再生回数は65億回を突破。2016年の【ラテン・アメリカン・ミュージック・アワード】では<年間新人賞>を含む2部門を、翌2017年の同アワードでは<アルバム・オブ・ザ・イヤー>を含む4部門受賞するなど、数々の記録を残している。

 本作『デジャ・ヴ』は、前2作に続く3枚目のスタジオ・アルバムで、メンバーがインスパイアされたという1980年代から2000年代にかけてヒットした楽曲のカバーが全13曲収録されている。フロアで映えるダンスホールからモダンなラテン・メロウまで、彼等のルーツに則ったナンバーをCNCOらしく焼き直した。
 
 オープニング曲「タン・エナモラドス」は、アルゼンチンのシンガー・ソングライター=リカルド・モンタネールのカバーで、甘い囁きのようなハーモニーが舞う、CNCO流のポップ・バラードとなっている。同曲のミュージック・ビデオは、ボーイズ・グループの大御所ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックに敬意を表して、彼らの「ユー・ゴット・イット(ライト・スタッフ)」(1988年)をオマージュした内容に。モノクロ、フェンス、バンダナ……何れの要素も懐かしく、当時彼らにハマった層もたのしめる作りになった。
 
 チチ・ペラルタの「アモール・ナルコティコ」(1997年)は、原曲をよりポップに仕上げたフロア向けのナンバーで、プエルトリコ出身のイケメン・シンガー=チャヤンの「デハリア・トド」(1998年)は、90年代の典型的なサルサをそのままに、シン・バンデーラの「エントラ・エン・ミ・ヴィダ」(2002年)は、美しいメロディー・ラインとハーモニーを引き継いだ甘美なメロウに、それぞれCNCOの良さを添えて調和させた。
 
 本作の目玉ともいえるのが、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で3位、米ラテン・ソング・チャートで1位を記録した、エンリケ・イグレシアスの「ヒーロー」(2001年) 。先達に学び原曲をほとんど崩すことなく、グループならではのハーモニーがたのしめるよう繊細に仕上げている。「タン・エナモラドス」に続き、同曲ではバックストリート・ボーイズの「ショウ・ミー・ザ・ミーニング・オブ・ビーイング・ロンリー」(1999年)のミュージック・ビデオを引用したMVが話題に。楽曲、ビデオとも原盤とのリメイク・バランスも絶妙で、当時を懐かしみ想い出と浸ることができる。
 
 6曲目の「イマジナメ・シン・ティ」は、ダディー・ヤンキーとのコラボレーション「デスパシートfeat.ジャスティン・ビーバー」(2017年)の大ヒットで知られるルイス・フォンシの2000年録音曲。 夏の終わりを感じさせる哀愁漂うミディアム・メロウを、色気と重厚あるコーラス・ワークでアレンジしている。次曲アヴェントゥーラの「ウン・ベソ」(2005年)も、原曲の柔らかいテノールをCNCOのシルキーなエコーでグルーヴィーにカバーした。
 
 プエルトリコのレゲエ・シンガー=ビッグ・ボーイの「ミス・オホス・ジョラン・ポル・ティ」(1996年)は、ロマンチックなアコースティック・メロウからラップをフィーチャーしたレゲトン移行する意欲作。MVでは白いシャツで爽やかに歌う、ボーイズ・グループらしい一面もみせた。情熱的なバラのネオンをバックに、ステージで横並びで歌うミュージック・ビデオも好評の「ソロ・インポルタス・トゥ」(1986年)は、中南米で高い人気を誇るフランコ・デ・ビタのカバー。サビのハーモニーとファルセットが本作一美しいメロウに、女性陣がうっとり聴き入ってしまうのも無理はない。
 
 11曲目の「エル・アモール・デ・ミ・ヴィダ」(1992年)は、CNCOのデビューに繋げたオーディションTV番組『ラ・バンダ』のプロデューサーでもあるリッキー・マーティンの初期のヒットで、米ラテン・ソング・チャートでは8位にランクインした隠れた名曲。CNCOのカバーでは、南部の空気が充満したノスタルジックなサルサに、兄貴分への敬意を払った控えめなボーカルを乗せた。ナイーブなボーカルが最も映えるクリスティアン・カストロの「ポル・アマルテ・アシ」(2000年)、民族音楽を取り入れたプロジェクト・ウノの「25オラス」(1999年)と、最終曲までアイドルではなくコーラス・グループとしての意地をみせた佳曲が揃う。
 
 本来、どのアーティストの作品においてもオリジナルが求められるのは当然だが、本作についてはボーイズ・グループという概念を覆すという意味でも、他のボーイズ・グループとは違った側面をもつというアプローチにも、実に重要な試みだったのではないかと思う。また、幅広い世代の楽曲をカバーすることで、より多くのファンを獲得できたのではないだろうか。ラテン・ミュージックは流行や世代にも左右されないという強みがあり、本作『デジャ・ヴ』を経て、彼らの活躍はまた違ったカタチで進化していくかもしれない、という期待が膨らんだ。

Text: 本家 一成

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