2020/12/11
ビリー・アイリッシュを筆頭に、奇抜なスタイルと個性溢れる音楽で人気を博す若手が続出しているが、このヤングブラッドもまたその一人で、若者を中心に世界規模で多くのファンを獲得している。
1997年生まれ、イングランドはサウス・ヨークシャー出身。本名をドミニク・リチャード・ハリソンといい、ヤングブラッドは彼のソロ・プロジェクトとなる。元ミュージシャンの祖父、楽器店を営む父と音楽一家に育ち、幼少期からギターの演奏や曲作りに没頭していたという。ビートルズからデヴィッド・ボウイ、オアシス、エミネム~レディー・ガガと、60~2010年代まで幅広い世代の奇才に影響を受け、自身もその一部に加わるべく2018年にEP『ヤングブラッド』でデビュー。同年には、1stアルバム『21stセンチュリー・ライアビリティ』も発表し、彼等の後釜となるキッカケを掴んだ。
翌2019年には、元恋人でポップ・シンガーのホールジー、blink-182のトラヴィス・バーカーとコラボレーションしたシングル「イレヴン・ミニッツ」が、米ビルボード・ロック・ソング・チャートで5位、オルタナティブ・エアプレイ・チャートで18位、本国UKシングル・チャートでは59位に初ランクインするヒットを記録した。その半年後には、トラヴィス・バーカーと共にゲスト参加したマシンガン・ケリーの「アイ・シンク・アイム・オーケイ」が、同ロック・チャートで4位、 オルタナティブ・エアプレイ・チャートで18位に2曲連続でチャート・イン。さらには、マシュメロ&ブラックベアとのコラボ曲「タン・タイド」で、ロック・チャート最高位の3位にTOP3入りし、知名度・人気をさらに高めた。
これらのヒットを受け、2019年秋にリリースした3作目のEP『ジ・アンダーレイテッド・ユース』が米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で187位に初めてランクインし、UKアルバム・チャートでは6位に初のTOP10入りを果たした。本作のヒットを経て、期待の新人を発表する<サウンド・オブ・2020>の候補10組にエントリーされ、見事3位にランクインする快挙を達成。前月に開催された【MTVヨーロッパ・ミュージック・アワード2020】では、<最優秀“MTV PUSH”賞>も受賞した。
本作『ウィアード!』は、それらの輝かしい功績を経てリリースされた前作『21stセンチュリー・ライアビリティ』から約2年半ぶり、2枚目のスタジオ・アルバム。その間には新型コロナウイルスによる影響で世界が打撃を受け、ライブ活動やメディアの露出を制限されたわけだが、そういった経験を経て感じたことと、人生においての障害や失態、後悔等による「人の成長」を重ね合わせ、アルバムのコンセプトとしている。タイトルである「変」は、おかしなことになった世の中や、それぞれのユニークな生き方を前向きに「変だ」ととらえたもの。それを貫くヤングブラッドだからこそ説得力がある。
ロックダウン中にリリースされたタイトル曲「ウィアード!」には、「今がおかしいだけ。さあ手をとって!」というコロナ禍を受けてのメッセージが綴られている。母親の事故に触れたフレーズや、鬱に陥った心境も赤裸々に、スピード感あるシンセ・ポップに乗せてポジティブ・シンキングに切り替える。こんなご時世だからこそ響く歌もあれば、「好きな人に向けた曲だ!」とダイレクトに叫び、「こんな僕だけど許してね」と甘え上手もアピールした(?)古き良きパンク・ロックの「ストロベリー・リップスティック」もある。後者は、真っ赤な80'sコアパンク・ヘアーに、ユニオン・フラッグをそのまま纏ったファンキーなMVも強烈で、本作の中でも1、2位を争うインパクトを残した。これが、どちらもヤングブラッド“らしい”から面白い。
ジュリア・マイケルズ&ジャスティン・トランターが手掛けた「コットン・キャンディー」のミュージック・ビデオも凄かった。ミニスカートの白いタイト・ワンピースに、後部には堕天使の羽をつけて、女子のみならず男性ともキス&ハグをする。男性がスカートを履くことや、同性間でキス?という疑問を抱くことは、もはや時代遅れという、そんなメッセージも込められているのだろう。セックスについての赤裸々な歌詞も、あまりにダイレクトで恥ずかしさは皆無。こういう表現を包み隠さないといけない常識も、時代錯誤なのかもしれない。対照に、The 1975風味のインディー・ロックは古臭さがいい塩梅。
同じような趣旨では、トランスジェンダーの女性をテーマにした「マーズ」という歌もある。実体験を基に書いた曲だそうで、2年前のツアーで出会った彼女と、理解してくれない彼女の両親、彼女を受け入れてくれる人たちのストーリーが画かれた。なお、同曲では「男性になってほしい」という両親の苦言が綴られているが、彼らを自身のライブに招待して和解に繋げたというエピソードの続きがあり、ちょっとグっときた。曲調は、愛聴していたオアシスやアークティック・モンキーズをソックリ真似たような仕上がりで、これはこれでグっとくる。
オアシスといえば、彼等そっくりのイントロからポップ・パンクに移行する「チャリティー」、シャウトを交えたラップを披露する、ビースティあたりを彷彿させるミクスチャー・ロック「スーパーデッドフレンズ」、「アイ・シンク・アイム・オーケイ」の続編ともいえる、マシンガン・ケリーと再びタッグを組んだパンク・ロック「アクティング・ライク・ザット」など、男子受け必須の秀逸なアップもあれば、幼少期から引きずっていた家族の問題を彼女が払拭してくれたという、ドラマチックな「ラヴ・ソング」や、スターになったが故の苦悩とファンへの愛を歌ったアコースティック・メロウ「イッツ・クワイエット・イン・ビバリーヒルズ」もあり、音楽性においても型を破りまくっている。クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」を参考にしたという、一貫性のない「ザ・フリーク・ショウ」も凄い構成だし。
斬新なサウンドに、鬱から家族のこと~セクシャリティなど、ほぼ丸裸状態の歌詞、シングルのMVや七人七様のカバー・アートと、何れにおいてもまさに「パンデミックを忘れさせてくれる」作品を作り上げたヤングブラッド。ヒップホップ・シーンでもパンクやロックがブームになっているし、ビジュアルが最先端であることは言うまでもないし、SNSの投稿も(いろんな意味で)面白いし。メンタルヘルスっぽい要素も今風というか、時代に適している。ブレイクする要素は満載で、どのタイミングで“来る”のかも気になるが、なかなかキャラが濃い人で、そういった意味も含め今後も目が離せない。
Text: 本家 一成
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