2020/11/28 18:00
11月25日にビクターエンタテインメント移籍第一弾シングル『サービスエリア』をリリースした吉澤嘉代子。新天地での活動をスタートさせたのだが、それと同日に日本クラウン在籍時代5年間の集大成コンピレーションアルバム『新・魔女図鑑』が発売された。
<もう大人になったはずの彼女の中に潜む少女性、子供の存在>
このアルバムは、吉澤嘉代子がメジャーデビューしてから様々な物語を紡いできた音楽史とも言える。その1ページ1ページをめくっていくと、彼女の人間性やアーティスト像が浮かび上がってくる。そして、全18曲を聴き終えて気付かされるのは、もう大人になったはずの彼女の中に潜む少女性、もっと平たく言えば、子供の存在。メジャーデビュー前にテレビ番組でヒャダインや綾小路翔が「キュンキュン来る」と絶賛していたことを憶えているだろうか。今思えば、その印象は単純に「可愛い」ということではなくて、父と一緒に井上陽水の「白いカーネーション」を歌っていた幼年期の自分、学校に通うことを躊躇うようになってしまった少女時代の自分、ゆえに「自分が子供だった頃みたいな子供に知ってほしくって、どうしても私を。」と思うようになった今の自分が各楽曲の中に生息しており、その子供の無邪気さや儚さ、当時「ぶりっ子」とも称されていた天真爛漫な立ち振る舞いや、物事と折り合いをつけられないがゆえの孤独、寂しさが滲み出ていたからかもしれない。と、あれから5年のあいだに彼女が発表してきた『新・魔女図鑑』の収録曲たちと改めて対峙してみたら思えてきた。
<私は子供の頃に“物語”というものにすごく救われたんですよ>
ちなみに「自分が子供だった頃みたいな子供に知ってほしくって、どうしても私を。」という言葉は、今作にも収録されている「残ってる」がシングルリリースされる際のインタビューで本人から聞いたものだ。
「私は自分が子供だった頃みたいな子供に知ってほしくって、どうしても私を。その為にはたぶん自分の趣味の範囲では伝わらないから……仕事にしたいんです。」「子供っていちばん最後に情報を得るから。幼稚園で流行るものって少し前に流行っていたものだったりするじゃないですか。そこまで行きたいと思うと……「お仕事にしたい」と思いました。」
「とは言え、私も子供のときに子供向けの曲を聴いていた訳ではないので、子供向けの曲が作りたいとかじゃなくて。届くべき子供に聴いてほしいという想いがあるんですよ。例えば、学校に行けない子供とか。私はいろいろなものから逃げて、本当にいろいろなものから逃げてきて。だけど、逃げた先に……今に繋がる、制作というか曲作りがあった。逃げた先に出口があったんですね。それで世の中と繋がることが出来て。みんなこう「絶対に向かっていかなきゃいけない」っていうことがあるじゃないですか。だけど、適さない子って絶対にいるんですよね。集団とか。出来たらみんなで仲良く過ごせたらいいなと思うんですけど、もしか適さない子がいたとき……「学校に行けてない」ということがその子にとっては“非国民”みたいな状態になっていると思うんです。でもそうじゃない……ってことが伝わったらなって思っています。」
「私は子供の頃に“物語”というものにすごく救われたんですよ。ひとときのあいだ、誰かの人生にトリップする。それでバランスが取れていたというか。で、今やってる音楽も主人公がいて物語があって……っていうフィクションなんですけど、そこに聴いている人が自分を投影して疑似体験してもらえたらいちばん良い。小説の機能を持った音楽というものが出来たらと思っていて、そういうひとつの箱になっていたらいいなと。」
<吉澤嘉代子の音楽=老若男女の子供たちの心の拠り所>
吉澤嘉代子の音楽スタイルを既存のカテゴリー名で称すると、女性シンガーソングライターになる。が、世間一般的に「女性シンガーソングライター」と聞くと、ギターを抱えて自分自身の感情をダイレクトに歌詞に乗せて届けていくイメージかもしれないが、吉澤嘉代子のスタイルはそれとは異なる。彼女は自分自身をエゴイスティックに表現し、自分自身を世に売っていくことにはさほど興味がない。かつて自分を救ってくれた“物語”を音楽という手法で紡いでいき、それを子供たちに届ける為に女性シンガーソングライターという道を歩み続けている。ただ、彼女が発表してきた『新・魔女図鑑』の収録曲たちを改めて聴きながら気づいたのは、その子供たちとは、今、少年少女として生きている世代に限らず、大人の中に生き続けている子供たちも対象となっていたこと。結果論かもしれないが、吉澤嘉代子の紡ぐ音楽=物語は老若男女の子供たちの心の拠り所としての機能を果たしてきた。
「わたしが電話に出たら受話器ごしにきいてくれる?(らりるれりん )」「夢で逢えたってしょうがないでしょう(未成年の主張)」「恋がしたい 恋がしたい 美少女になれたら(美少女)」「あの夜の私を思い出して 一生綺麗だって思ってくれるのなら(綺麗)」「いかないで いかないで いかないで いかないで(残ってる)」「子供のふりして 貴方にしたたかな手を伸ばした(がらんどう)」「誰にでも変わらず 優しい顔するなら ねえ お願い 私だけにいじわるしてよ(よるの向日葵)」「だけど伝えなくちゃ何も変わらないから ほら いま歌うよ(泣き虫ジュゴン)」「夢みる必要のない夢の国へつれだしてよ(ストッキング)」「あなたの言葉が あなたの言葉だけが 本物だという気がした(えらばれし子供たちの密話)」などなど。
今作『新・魔女図鑑』に収められた物語の欠片を並べてみただけでも、吉澤嘉代子の音楽には子供がたくさん。甘えん坊で、寂しがりやで、ないものねだりで、一途で、地団駄も踏んで、健気で、ひとり占めしたくて、純粋で、じっとしていられなくて、誰かを信じたくて、どうしようもなく不安定な子供たちがのたうちまわっている。それは、大人になった僕らの中にも生き続けている子供たちそのもの。ゆえに吉澤嘉代子の音楽はこんなにも愛おしいのだだろう。
取材&テキスト:平賀哲雄
◎吉澤嘉代子『新・魔女図鑑』ライブDVDトレーラー
https://youtu.be/Ca7agmHDjZk
◎吉澤嘉代子『新・魔女図鑑』トレーラー(MV集)
https://youtu.be/JQ_5hBBwAkQ
◎吉澤嘉代子 オフィシャルHP
http://yoshizawakayoko.com
◎リリース情報
吉澤嘉代子
コンピレーションアルバム『新・魔女図鑑』
2020/11/25 RELEASE
初回限定盤(CD+DVD)CRCP-40614 5,000円+税
通常盤(CD)CRCP-40615 2,727円+税
CD収録曲:※初回盤・通常盤共通
01.らりるれりん
02.未成年の主張
03.美少女
04.月曜日戦争
05.化粧落とし
06.ケケケ
07.恥ずかしい
08.綺麗
09.よるの向日葵
10.残ってる
11.がらんどう
12.東京絶景
13.泣き虫ジュゴン
14.ストッキング
15.movie
16.えらばれし子供たちの密話
17.地獄タクシー
18.ぶらんこ乗り
DVD収録曲:※初回限定盤のみ
女優ツアー2019
2019年3月17日 昭和女子大学 人見記念講堂
◆魔法の鏡
・鏡
◆物語の主人公
・怪盗メタモルフォーゼ
・屋根裏
・えらばれし子供たちの密話
・月曜日戦争
◆恋する主人公
・キスはあせらず
・アボカド
・洋梨 feat.弓木英梨乃
・恥ずかしい
・よるの向日葵
・残ってる
・真珠
◆美しい主人公
・必殺サイボーグ
・シーラカンス通り
・ちょっとちょうだい
・地獄タクシー
◆魔法の鏡の正体
・女優
・最終回
・美少女
・洋梨 feat.たなかみさき
・雪
・ミューズ
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