2020/11/24
2020年11月9日に、【ケイコ・リー in かわさきジャズ~デビュー25周年記念」が、ラゾーナ川崎プラザソルで行われた。
活動の原点であるジャズ・クラブ jazz inn LOVELY50周年とも重なって今年は節目の年だ。多くのコンサートがコロナで開催が延期となる中、久々に放つジャズ・ヴォーカリストのライヴに込めた静かな決意、できるだけ多くの方に届けたい。
20年来の盟友、野力奏一(Pf)、岡沢章(Bs)、渡嘉敷祐一(Dr)が演奏を始めると、豹柄のトップスにレザーを纏ったケイコ・リー登場。1曲目の「Love For Sale」ですでに体が震える。
この日は10月21日にリリースしたばかりの『LIVE at jazz inn LOVELY』からの選曲を中心に。ライヴ盤では渡辺貞夫をフィーチャーした「The Golden Rule」、“ゴキゲンだね!”の決まり文句が聞けたであろう、伸びやかなビブラートを披露。渡辺貞夫とこの日のスペシャルゲスト中牟礼貞則は同い年、ともにJ-Jazz界の先駆者であるお二人の背中を追いかけ、いつか追いつきたいと抱負を語る。
続いて野力がピアノを譲り、「Velas」の弾き語り。聞けば、独学から始めた歌伴ピアニストの過去を持つ。野力のキーボードを従え、右手と喉が奏でるユニゾンのスキャットは彼女の真骨頂。晩秋の湖畔をイメージさせる生ヴォイスに、たっぷりと酔いしれた。
休憩を挟み、2ndセットは赤いシャツにお色直し。「Time After Time」では野力がAORの世界へ誘えば、哀愁漂うケイコ節で出迎える。ため息交じりに唸るしかない。自身へのオマージュと言うべき25年を振り返る今宵。後半戦に入りいよいよ中牟礼が登場。いつまでも鳴り止まない拍手。前半のアンニュイな風景は次で一変。ケイコ・リーの人気を不動のものにした、「We Will Rock You」のスタートだ。
野力のキーボードが荘厳なイントロを奏で、少し遅れて繰り出す中牟礼のフレーズ。押し寄せるキーボードとギターの波は、重なりながら溶け合って心地いい。いままで押さえ気味の渡嘉敷がフルスロットルで炸裂すると、続く中牟礼のインプロヴィゼーションはまるでロックに対する挑戦状。手加減することなく渡嘉敷がさらに鼓舞。包囲したリズム隊がギターに“全集中”しているその様は、侍・中牟礼との真剣勝負そのものだ。赤く染まったそのステージで、ディーヴァが奏でる大人の「We Will Rock You」に観客は完全にロックオンされてしまう。
賛美歌のようなイントロで始まる「Oh, Darling」は、次第に直球ブルースに変貌し、ドラムの地響きに先導され中牟礼の「Caravan」は、敢然と砂漠を突き進む。ここに居る全員をも巻き込んで、変幻自在に翻弄してゆく鉄壁のリズム隊。4人が長く共に歩んできた理由のひとつを、今夜まざまざと魅せつけられた格好だ。
「Body And Soul」のソロギターが始まると、少女のように佇みそれに聞き入る。演奏できる喜びを少年のように全身から溢れさせ、君のためだよと言わんばかりに見つめ続ける中牟礼と、やがて極上の低音ヴォイスが絡み合うその舞台は、バレエのパ・ド・ドゥを思わせる至福のひととき。スポットライトを浴びながら、デビュー当時に思いを馳せる「Imagine」の弾き語り。
ラストは元気よく王道Fのブルース「Route 66」で終演。中牟礼と肩を組み喜び合う姿を見ているうちに、情熱を確かめ合った二人のオーラが合わさって、観客をも優しく包み込んでいくように感じた。
大先輩の背中を追いかけ、何があってもこの道を進んで行くという覚悟は、あの夜プラザソルに来ていたすべての者に伝わったと確信する。ジャズ・トランペットを嗜む娘がこの取材を熱望したのだが、その期待は想像を遥かに越えていて、生<ライヴ>の魅力を語る上での忘れられないひとつとなるに違いない。
Text:Hiromi Sakai & Nanaka Sakai(かわさきジャズ公認レポーター) Photo:Tak. Tokiwa
◎かわさきジャズ2020
【ケイコ・リー in かわさきジャズ~デビュー25周年記念】
日時:2020年11月9日(月)
会場:ラゾーナ川崎プラザソル
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