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2020/07/15

ブラック・アーティストが<年間最優秀アルバム>を受賞するのはほぼ不可能なのか? 米ビルボードが考察

 米誌エンターテインメント・ウィークリーのリモート・インタビューに応じたジョン・レジェンドが、ディディが今年1月に“【グラミー賞】はブラック・ミュージックを正当に評価していない”という趣旨の発言をしたことについて意見を求められた際、自身もそう感じていると答えた。

 2020年7月号のインタビューでレジェンドは、「ブラック・アーティストが<年間最優秀アルバム>を受賞するのはほぼ不可能だ。ビヨンセが鼻であしらわれているところを何年見なければならないんだ?カニエ(・ウェスト)だって受賞したことがない。ある意味狂ってるよね」と述べ、「ひどい履歴だから、何とかしなければならない。ディディが文句を言ったことは正しい」と彼を擁護した。

 レジェンドによるこの発言には重みがある。彼はこれまで【グラミー賞】を11回受賞しているだけでなく、同賞を主宰するレコーディング・アカデミーの40名からなる評議会に今年選任されたからだ。さらに言えば彼は、【エミー賞】、【グラミー賞】、【アカデミー賞】(オスカー)、【トニー賞】全てを受賞したことがある、米ショウビズ界のグランドスラムEGOT達成者でもある。

 だが、果たして彼の主張は正しいのだろうか?黒人アーティストが【グラミー賞】で<年間最優秀アルバム>を受賞することは“ほぼ不可能”なのか?米ビルボードがデータを確認した。

 <年間最優秀アルバム>を受賞した62作品の内、12作(20%近く)が黒人アーティストによるものだ。これはリード・アーティストとしてであり、フィーチャーについては後述する。

 最も最近受賞した黒人アーティストはハービー・ハンコックで、12年前のことだ。仮に次回の【第63回 グラミー賞】(2021年1月31日)で黒人アーティストが受賞したとしても、13年間のブランクがあったことになり、これは1970年代半ばから黒人アーティストが受賞し始めてから最長のギャップだ。以下、これまでにリード・アーティストとして【グラミー賞】<年間最優秀アルバム>を受賞した全ての黒人アーティストを記載する。

◎スティーヴィー・ワンダー

 『インナーヴィジョンズ』(1973年)、『ファースト・フィナーレ/Fulfillingness’ First Finale』(74年)、『キー・オブ・ライフ/Songs in the Key of Life』(76年)で受賞。リリースしたスタジオ・アルバムが3作連続で【グラミー賞】の<年間最優秀アルバム>を受賞したアーティストは彼しかおらず、『インナーヴィジョンズ』で初受賞した時まだ23歳だった彼は、今も男性ソロ・アーティストとしての最年少記録保持者だ。彼はまた、自分一人でプロデュースしたアルバムで同部門を受賞した初のアーティストでもあり、これも3回達成している。

 1973年の主要ノミネート作には、ポール・サイモンの『ひとりごと/ There Goes Rhymin’ Simon』があり、74年はジョニ・ミッチェルの『コート・アンド・スパーク』やポール・マッカートニー&ウィングスの『バンド・オン・ザ ・ラン』、76年はジョージ・ベンソンの『ブリージン/Breezin’』やボズ・スキャッグスの『シルク・ディグリーズ』などがあった。

 ちなみに、1975年はポール・サイモンが『時の流れに/Still Crazy After All These Years』で受賞したが、スピーチの最後に、「今年アルバムを制作しなかったスティーヴィー・ワンダーに最も感謝したい」と自虐的に語って会場の笑いを誘ったことは有名だ。

◎マイケル・ジャクソン

 言わずと知れた『スリラー』で1983年に受賞。『スリラー』は世界で最も売れたアルバムであり、故マイケル・ジャクソンは当時まだ25歳だった。この年のライバルは、ポリスのラスト・アルバムとなった『シンクロニシティー』、ビリー・ジョエルの『イノセント・マン』、デヴィッド・ボウイの『レッツ・ダンス』、そして映画『フラッシュダンス』のサウンドトラックだった。

◎ライオネル・リッチー

 当時35歳だったリッチーは、『オール・ナイト・ロング/Can’t Slow Down』で1984年に受賞。この年のノミネート作は、ブルース・スプリングスティーンの『ボーン・イン・ザ ・U.S.A.』、プリンス&ザ ・レボリューションの『パープル・レイン』、ティナ・ターナーの『プライヴェート・ダンサー』、そしてシンディ・ローパーのデビュー・アルバム『シーズ・ソー・アンユージュアル』だった。

◎クインシー・ジョーンズ

 『スリラー』のプロデューサーの一人としても有名な彼は、アーティストとしては『Back on the Block』で1990年に57歳で受賞した。この年は、ヒップホップ・アルバムとして初ノミネートとなったM.C.ハマーの『Please Hammer Don’t Hurt ‘Em』を始め、前年の受賞者フィル・コリンズの『バット・シリアスリー』、そしてマライア・キャリーとウィルソン・フィリップスのデビュー・アルバムがそれぞれノミネートされていた。

◎ナタリー・コール

 父である故ナット・キング・コールへのトリビュート・アルバム『アンフォゲッタブル』で1992年に受賞。ナットは1960年と61年にノミネートされたことはあったが受賞には至らなかった。42歳だったナタリーは、リード・アーティストとして<年間最優秀アルバム>を受賞した初の黒人女性アーティストとなった。この年のライバルは、ボニー・レイットの『ラック・オブ・ザ ・ドロウ/Luck of the Draw』、ポール・サイモンの『リズム・オブ・ザ ・セインツ』、R.E.M.の『アウト・オブ・タイム』、エイミー・グラントの『ハート・イン・モーション』だった。

◎ホイットニー・ヒューストン

 2度のノミネートを経て、1993年に映画『ボディガード』のサウンドトラックでようやく受賞。当時30歳だった。ちなみに、故ホイットニー・ヒューストンのデビュー・アルバムは1985年にフィル・コリンズの『フィル・コリンズIII/No Jacket Required』に敗れ、2ndアルバムは1987年にU2の『ヨシュア・トゥリー』に敗れている。1993年の他のノミネート作は、ビリー・ジョエルの最後のポップ・ロック・スタジオ・アルバムとなった『リヴァー・オブ・ドリームズ』、スティングの『テン・サマナーズ・テイルズ』、R.E.M.の『オートマチック・フォー・ザ・ピープル』、そしてドナルド・フェイゲンの『カマキリアド』だった。

◎ローリン・ヒル

 デビュー・アルバム『ミスエデュケーション』で1998年に受賞。当時23歳だったヒルは、初受賞当時のスティーヴィー・ワンダーより19日若かったため、<年間最優秀アルバム>を受賞した最も若い黒人アーティストの記録保持者だ。また、自分一人でプロデュースしたアルバムで同賞を受賞した唯一の女性アーティストでもある。フージーズのメンバーとしては、この2年前に『ザ・スコア』でノミネートされたが、この時はセリーヌ・ディオンの『フォーリング・イントゥ・ユー』に敗れている。1998年はほとんど女性アーティストばかりがノミネートされていた前例のない年で、マドンナの『レイ・オブ・ライト』、シャナイア・トゥエインの『カム・オン・オーヴァー』、シェリル・クロウの『グローブ・セッションズ』、そしてガービッジの『Version 2.0』(男性メンバーもいるがヴォーカリストが女性)が選出されていた。

◎アウトキャスト

 2003年に『Speakerboxxx/The Love Below』で受賞。黒人デュオまたはグループがリード・アーティストとして<年間最優秀アルバム>を受賞したのは現在までアウトキャストが唯一となっている。前作『Stankonia』もノミネートされていたが、映画『オー、ブラザー!』のサウンドトラックに敗れていた。『Speakerboxxx/The Love Below』は、スティーヴィー・ワンダーの『キー・オブ・ライフ』に続き、黒人アーティストによるダブル・ディスク・アルバムとして史上2作目の受賞となった。この年は、ミッシー・エリオットの『アンダー・コンストラクション』、ジャスティン・ティンバーレイクの1stソロ・アルバム『Justified』、エヴァネッセンスのデビュー作『フォールン/Fallen』、ザ・ホワイト・ストライプスの『エレファント』がノミネートされた。ヒップホップ・アルバムが2作ノミネートされて片方が受賞したのもこの年が初だった。

◎レイ・チャールズ

 故レイ・チャールズは、生前2回、1961年と62年に<年間最優秀アルバム>にノミネートされていたが受賞には至らず、受賞は死後の2004年となった。この年、チャールズの『Genius Loves Company』は、勢いのあった若い黒人アーティストを抑えての受賞となった:この年最も売れたアッシャーの『Confessions』、カニエ・ウェストのデビュー・アルバム『The College Dropout』、そしてアリシア・キーズの『ダイアリー・オブ・アリシア・キーズ』だ。この年はグリーン・デイのロック・オペラ・アルバム『アメリカン・イディオット』もノミネートされていた。

◎ハービー・ハンコック

 『リヴァー~ジョニ・ミッチェルへのオマージュ』で受賞。当時67歳。この年はエイミー・ワインハウスの『バック・トゥ・ブラック』、カニエ・ウェストの『Graduation』、フー・ファイターズの『エコーズ、サイレンス、ペイシェンス・アンド・グレイス』、ヴィンス・ギルの4枚組大作『These Days』がノミネートされていた。

 ちなみに、これまで3回以上<年間最優秀アルバム>にリード・アーティストとしてノミネートされながら、一度も受賞に至っていないアーティストが10人いる。ジョン・レジェンドが名前を挙げたビヨンセとカニエの他、レディー・ガガ、エミネム、レディオヘッド、マライア・キャリー、スティング(ポリスを1作含む)、ドン・ヘンリー(イーグルスを2作含む)、エルトン・ジョン、そしてケンドリック・ラマーだ。この10人の内、3人が黒人、マライアはミックス、そして6人が白人だ。この部門においては、主要な白人アーティストたちも繰り返し受賞が見送られていることも知っておくべきだろう。

 最後にフィーチャー・アーティストだが、リード・アーティストとしてでなく<年間最優秀アルバム>を受賞した初の黒人アーティストは故ビリー・プレストンだった。ジョージ・ハリスン&フレンズの『バングラデシュ・コンサート/The Concert for Bangla Desh』で1972年に受賞した。現在まで他9名の黒人アーティストがフィーチャー・アーティストとして同部門で受賞している。

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