2020/07/08
イギリスのロック史を語る上では欠かせないレジェンド・バンド=ザ・ジャムのフロントマンとして、1977年にアルバム『イン・ザ・シティ』でデビューしてから、43年という長いキャリアを築いてきたポール・ウェラー。ソロ・デビュー作『ポール・ウェラー』(1992年)のリリースからは間もなく30周年を迎えるわけで、還暦を過ぎた今もなお、精力的に活動する姿勢には感服する。
前作『トゥルー・ミーニングス』(2018年)から約2年ぶりにリリースされた新作『オン・サンセット』は、ザ・ジャム解散後に結成した新バンド=スタイル・カウンシルが所属していた<ポリドール・レコード>移籍後初、15作目のスタジオ・アルバム。なお、ザ・ジャムとスタイル・カウンシルの作品を含めると通算26作目のアルバムで、UKアルバム・チャートではザ・ジャムが4作、スタイル・カウンシルが3作、ソロ・アルバムは14枚全てのアルバムがTOP10入りを果たしている(うち6作が1位)。
共同プロデューサーには、12thアルバム『サターンズ・パターン』(2015年)以来の参加となるジャン・“スタン”・カイバートを迎え、参加ミュージシャンには、元ザ・ストライプスのジョシュ・マクローリーや、スタイル・カウンシルののメンバーでもあるミック・タルボット、確執も囁かれた元スレイドのジム・リー、フランスのロック・バンド、ル・シュペールオマールのジュリー・グロ等、自身の音楽ルーツに基づいたアーティストたちがクレジットされている。
アーティストとしての更なる向上と挑戦は、冒頭の「ミラーボール」からひしひしと感じる。7分強の大作は、静かなイントロからファンク・ロック、シンセ・ポップへと移行し、アコースティック・メロウ、Gファンク~ピアノ・バラードとテクスチャーを重ねてゆく、まさに変幻自在のミラーボール。取っ散らかった感じもなく、培ってきたキャリアを集積したひとつの作品にまとめ上げているあたり、ベテランの意地と余裕を感じる。
次曲「バプティスト」は、ポジティブに“年相応”のミディアム・ロック。カントリーの白さとファンクの黒さ、両面を持ち合わせているあたりは流石の業。この曲もそうだが、次の「オールド・ファーザー・タイム」も、62歳という年齢を迎えて思う、余生や老化みたいな思いが綴られていて、なかなか生々しい。「オールド・ファーザー・タイム」は、哀愁漂わすマイナー・メロのサイケデリック・ロックで、衰えぬサウンド・センスとシャウトを炸裂させ、現役っぷりをアプローチした。柔らかいハモンド・オルガンの音色が優しいフォーク・バラード「ヴィレッジ」も、老いたからこその説得力がある。
フランスのシンセ・ポップ・ユニット=ル・シュペール・オマールのジュリー・グロをフューチャーした「モア」は、ジャジーな旋律と生音の質感を活かした意欲作。2分強あるアウトロでは、弦や笛、ホーンにギターとそれぞれの楽器が主張した、70'sファンク~ネオソウルっぽい雰囲気を醸す。この曲でもまた、老いて感じる時間の経過や残数みたいなことが綴られている。波の音から始まるタイトル曲「オン・サンセット」は、サーフ・ロックとファンクを織り交ぜた、風通しの良いナンバー。米ロサンゼルスのサンセット・ブールバードについて、懐かしさと変貌を遂げてしまったことの失意を、感傷的に歌っている。公開されたばかりのミュージック・ビデオも、オープンカーで米カリフォルニアの海岸線を通りを駆け抜ける、夏らしい仕上がりに。
前述のジム・リーによるヴァイオリンをフィーチャーした、古典的なダーク・メルヘン「イークワニミティ」や、馴染みやすい旋律と和声進行を持つブリティッシュ・ロック「ウォーキン」、近未来的なエレクトロ・ファンク「アース・ビート」もあり、バラエティに富んでいる。3月に先行シングルとして発表した「アース・ビート」には、米LAを拠点とするロンドン出身の若手R&Bシンガー=コールトレーンがボーカルとして参加しているが、彼の起用は実娘から紹介されたのがキッカケだったのだそう。サウンド・センスのみならず、アーティストとの絡みも若さは失われていない。エレクトロニカを主張したナンバーでは、デラックス盤に収録されたインストゥルメンタル「4thディメンション」も、ジャンルをクロスオーバーした傑作。
最終曲「ロケッツ」は、70年代初期のデヴィッド・ボウイを彷彿させるアコースティック・バラード。人生をロケットに例え、その儚さをアート・タッチにまとめられたのは、今のポール・ウェラーだからこそ成し得たもの。その他の曲もそうだが、サウンド面では探究する一方、歌詞は“歳を重ねたから”こその成熟した内容で統一されている。デラックス盤に収録されたクラシカルなポップ・ソング「プロウマン」と、落ち着いた柔らかい声で包み込むアコースティック・バラード「アイル・シンク・オブ・サムシング」も、ボーナス・トラックとしては勿体ない、クオリティの高い逸品。
当初は前月の6月19日にリリースされる予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、約半月の延長を経てリリースされた本作『オン・サンセット』。2000年代以降の作品は、ファンや評論家の間で賛否が分かれ、あまり高く評価されなかったアルバムもあったが、それでも外野に流され保守的になることはなく、新しいエッセンスを取り入れて最高のコンディションで完成させたことに、ポール・ウェラーの拘りと誇りを感じた。
Text: 本家 一成
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