2020/03/02 18:00
2018年に発表した1stアルバム『ハーダー・ザン・エヴァー』 以降、勢い衰えることなくシーンで活躍を続ける米アトランタの新鋭ラッパー=リル・ベイビー。ヤング・サグの「Bad Bad Bad」や、ダベイビーの「Toes」など、この1年でヒットしたヒップホップ・アルバムにもゲストとして多数参加し、その名を轟かせている。
『ハーダー・ザン・エヴァー』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で最高3位、ドレイクをフィーチャーした先行シングル「Yes Indeed」がソング・チャート“Hot 100”で6位をそれぞれマークし、同年に発表したガンナとのジョイント作『ドリップ・ハーダー』(4位)、ミックステープ『ストリート・ゴシップ』(2位)の2作も同アルバム・チャートでTOP10入りするという、男版シンデレラ・ストーリー的な功績を残した。
本作『マイ・ターン』は、それらに続く2作目のオリジナル・アルバム。昨年11月にリリースした1stシングル「Woah」と、前月に発表した2ndシングル「Sum 2 Prove」がそれぞれ全米TOP20入りを果たし、来たる新作の期待値を上げた。アルバム・タイトルは、ツイッターで発信した「何もかもダメだった2019年から、2020年は一転させる」という意図から付けられた模様。2019年、アーティスト活動は順風満帆だったようにも思えるが……(?)。
「Woah」は、若手ラッパーらしい重量級のトラップ。リリックも成功したてのラッパーが書きがちなボースト満載で、プチ・ブレイクに繋いだダンス・チャレンジや、歌詞にも登場するシボレー・コルベットをフカしたMVなど、諸々“今っぽさ”が充満している。「Sum 2 Prove」も、サウンド、リリック共に同様のテイスト。成功までのプロセスを描いたドキュメンタリー・タッチのビデオは、前者とは対照にシブい仕上がりだった。
先行シングル2曲はじめ、ツアー後の憂鬱や繊細さが伺える、ATL・ジェイコブがプロデュースしたオープニング・チューン「Get Ugly」や、マーダー・ビーツによる南部トラップ「How」、米デトロイト出身のラッパー=42ドゥグが参加した「Grace」、貧しかった幼少期を恨み節に、感傷的に歌った「Emotionally Scarred」など、本作は成功を収めるまでの経緯や、富を得た現状~心境をリアルに綴ったナンバーが中心となっている。マーダー・ビーツは、『ストリート・ゴシップ』収録の「No Friends」でも共演した、ライロ・ロドリゲスとの再タッグ曲「Forget That」も手掛けている。
弦楽器の音が不気味に響く「Heatin Up」は、相性の良さを再確認したガンナとのコラボレーション。サンプリング・ソースとして、そのガンナとトラヴィス・スコットがゲスト参加したヤング・サグの「Hot」が一部使われている。ヤング・サグは、ミーゴスのヒット曲等を担当したウィージー作の「We Should」にゲストとして参加。その他にも、昨今のラップシーンを彩る面々が集結している。
トリップしそうな中毒性を持つ「Live Off My Closet」は、フューチャーとのコラボレーション。フューチャーとリル・ベイビーは、現在大ヒットしているドレイクとの新曲「Life is Good」のリミックスで共演している。そのドレイクとブロックボーイ・JBのコラボ曲「Look Alive」(2018年)で注目された、テイ・キースによる夏っぽいフレイバーの「Same Thing」もいい曲。テイ・キースは、リル・ウージー・ヴァートをフィーチャーした「Commercial」と、低音をループさせるマネーバッグ・ヨーとの合作「No Sucker」の計3曲を担当。昨年5月に一部を公開した、リル・ウェイン主導の「Forever」も収録されている。
DJポールがプロデュースした「Gang Signs」は、スリー・6・マフィアの「Throw Yo Sets in Da Air」(2007年)をネタ使いしたタイトルまんまのハードコア。こういったトラップやベースループの曲が主となる一方、哀愁メロウ「Catch the Sun」のような曲もあり、歌詞の方も攻撃的な馬頭やドラッギーなものに限らない。「Catch the Sun」は、昨年11月に公開された映画『クイーン&スリム』のサウンドトラックに提供したナンバーで、当初から評判も上々だった。
前述にもあるように、全米チャートで上位にランクインしたタイトルは多数あるが、未だNo.1獲得はシングル、アルバム共に果たしていない。本作で初の快挙を達成するか、チャート・アクションも気になるところではあるが、内容から察するに“ヒット狙い”というよりは、自己追及に根差すことが骨格になっているのではないか、と解釈した。昨年末に25歳のバースデーを迎えたリル・ベイビー。いわゆる“アラサー”になった今思い更ける、迷いや悟りみたいなニュアンスが本作の魅力でもある。
Text: 本家 一成
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