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2020/03/02

<ライブレポート>フレデリックは変わり続ける 驚きと歓喜に満ちた初の横浜アリーナ公演

 フレデリックが、全国ツアー【FREDERHYTHEM TOUR 2019-2020】のファイナル公演を、2月24日神奈川・横浜アリーナにて開催した。

 ワンマンやフェスなど多くのステージをこなす中で、試行錯誤を繰り返しながら、自らのライブをアップデートし続けてきたフレデリック。【FREDERHYTHM ARENA 2020~終わらないMUSIC~】と題されたこの日のライブは、変わり続けることを恐れない彼らの、音楽への愛と探究心に改めて打ちのめされるような一日だった。

 フレデリックがアリーナ公演を行うのは、2018年4月の神戸ワールド記念ホール以来、約2年ぶり。オープニング・ナンバー「飄々とエモーション」は、その神戸公演のフィナーレで初めて披露された楽曲だった。あの日、初見のオーディエンスに投げかけたコール&レスポンスは、2年をかけてアリーナを埋め尽くすほどの大歓声へとパワーアップした。

 「今日は色々仕掛けてあるから楽しみにしてください」と三原健司(Vo./Gt.)が煽る通り、この日のライブはいつにも増して、演出やライブアレンジが盛りだくさんだった。フレデリックのライブでは、イントロやアウトロが追加されたり、シームレスに曲が繋がれたり、ある楽器のメロディを別の楽器が演奏するなど、意外性に富んだアレンジが度々登場する。今回の公演でも、披露された全20曲のうち、半分以上の楽曲に音源とは異なるアプローチが施されていた。

 たとえば「シンクロック」は、大サビ→アウトロで曲が終わるところを、もう一度イントロに戻り、歌い出しのフレーズで締めくくる。〈たった2時間ちょっとのワンマンのことを 僕はずっと思い描いてるんだよ〉と、今の心境とリンクするような一節を追加することで、聴き手はより鮮明に、楽曲に込められた思いを感じることができるのだ。

 また「真っ赤なCAR」は、音源のクールな印象はそのままに、イントロと間奏に大仰なキメを加えることで、アリーナらしい開放感溢れるダンスナンバーに進化していた。こうした細やかなギミックが、セットリストの至る所に散りばめているからこそ、フレデリックのライブは音源以上の体験として、観る人の心と体に染み込んでいくのだろう。

 この日彼らが仕組んだ“仕掛け”のうち、特に出色だったのが「峠の幽霊」だ。会場内の照明は、淡く光る緑色のライトのみ。真っ暗闇のステージとフロアに、バンドの演奏だけが響き渡る。深めのリバーブがかかった三原健司と三原康司(Ba./Vo.)の奇怪な歌声に、ここがアリーナであることを忘れてしまいそうになる。

 さらに、大サビを迎えると、フロア中央の花道に明かりが灯り、その中心に白いドレスを纏った女性が出現。緑色の玉を上下に揺らしながら、フロア後方のサブステージへゆっくりと歩いていく。アンビエント・ミュージックのような残響音が2分以上鳴り響くなか、女性がサブステージに到着すると、会場は完全に暗転。しばらくして、「対価」の印象的な歌い出しとともに照明が一斉に明るくなると、さっきまでメインステージで歌っていたはずの健司がサブステージに登場し、客席からは大きな歓声が上がった。

 続いて、高橋武(Dr.)の威勢の良い掛け声から「逃避行」が始まると、会場はギアを一つ上げたような盛り上がりを見せる。そのまま、ライブでは定番のキラーチューン「KITAKU BEATS」、緩急を大胆に行き来し聴き手を錯乱させる「バジルの宴」、そして「オドループ」と一気に駆け抜け、本編ラストソング「イマジネーション」へ突入する。

 ここまでほぼMCなしでライブを進めてきた彼らが、この日初めてエモーショナルな言葉を吐き出したのが「イマジネーション」だった。粘り腰かつダイナミックなアンサンブルがステージで繰り広げられるなか、健司は客席に降り、アリーナを一周回りながら、熱い思いをオーディエンスにぶつける。その熱意を受け止めたオーディエンスもまた、大きなシンガロングでバンドを鼓舞する。どれだけ会場のキャパシティが大きくなろうとも、ライブの肝は演者とオーディエンス一人一人のコミュニケーションであることを実感する、圧巻の一幕だった。

 アンコールでは、メンバー全員でアコースティックのバンドセットが用意されたサブステージへ移動。MCでは、それぞれが今回の公演に対する素直な気持ちを語った。康司は、「ここ数日、自分で思い描いているより、誰かと作るものが一番好きなんやなって感じてて。それを一緒に作ってくれて、ほんまありがとうございます」とオーディエンスに感謝の言葉を告げ、赤頭隆児(Gt.)は、「一瞬やったな。それくらい楽しかった」とこの日のライブを振り返る。バンド内で唯一、横浜出身である高橋は、「前回の神戸ワールド記念ホールが終わった後、次どこを目指すかってなった時に、いろいろ選択肢がある中で、フレデリックで横浜アリーナを目指せたことがとても嬉しく思います」と感慨深げに語りつつ、「でも、今日は来てくれているみんなのためのライブだと思うので、最後までみんなのためにドラム叩かせてください!」と宣言した。最後に健司は、「ここからまた、もっと大きいところに進んでいけるのが本当に嬉しくって。これからも良い音楽作って、良い音楽鳴らして、遊びきって、人生過ごしたいなと思っています。よろしくお願いします!」と力強く締めくくった。

 モータウン・ビートが心地よい「CLIMAX NUMBER」をアコースティック編成(FAB!!)で披露し、ライブはついにクライマックスへ。ラストナンバーは、本公演のタイトルにもある「終わらないMUSIC」。音楽愛に満ちたこの日のステージのフィナーレにぴったりなナンバーだ。バック・スクリーンには、今回のツアーに関わったスタッフの名前が流れ、まるで映画のエンドロールのような心地で、2時間に及ぶライブは幕を閉じた。

 2年前の神戸公演では、後にリリースされる「飄々とエモーション」がラストに披露され、次のステージが明確に提示されていた。今回は「終わらないMUSIC」という既存曲で締めくくられたが、この選曲には、『いつまでも音楽を続けたい』『そしてその音楽の主役があなた(オーディエンス)であってほしい』という、彼らの今一番の思いが込められているのではないだろうか。音楽に限らず、“何かを続けること”は全く簡単なことではない。しかし、今日のような日を作り上げられた彼らならきっと、観る人聴く人の想像を超える景色を見せ続けてくれるだろう。

 終演後、モニターに【FREDERHYTHM ARENA 2021】【2021.2.23日本武道館】の文字がスクリーンに現れると、驚きと喜びが入り混じった大歓声が巻き起こった。バンド結成から10年、日本のロックシーンの中ではそろそろ中堅と言ってもいいポジションだが、まだまだフレデリックの音楽が届くべき場所はたくさんあるはず。彼らの次なるステージがどんなものになるのか、楽しみに待ち続けたい。


Photo:ハタサトシ/佐藤広理/渡邉一生
Text:Mika Fuchii


◎公演情報
【FREDERHYTHM ARENA 2020~終わらないMUSIC~】
2020年2月24日(月・祝)
神奈川・横浜アリーナ
〈セットリスト〉
1. 飄々とエモーション
2. シンセンス
3. VISION
4. オンリーワンダー
5. 夜にロックを聴いてしまったら
6. スキライズム
7. シンクロック
8. 真っ赤なCAR
9. LIGHT
10. NEON PICNIC
11. 峠の幽霊
12. 対価
13. 逃避行
14. TOGENKYO
15. KITAKU BEATS
16. バジルの宴
17. オドループ
18. イマジネーション
EN1. CLIMAX NUMBER(FAB!!)
EN2. 終わらないMUSIC

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