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2019/12/30

ネット上からポップ・カルチャーへ 新時代の潮流を決定づけた“ずっと真夜中でいいのに。”の真価とは

 日本でもストリーミングが音楽聴取メディアとして浸透、定着し、ヒットの価値観が“買われた枚数”から“聴かれた回数”へと移り変わりつつある昨今、シーンの動きとして注目したいのは、メディアでの露出はなく、ストリーミング・サービスや動画投稿サイトで作品を発表し、その純粋なクリエイティビティの高さがプロップスを集め、存在がバイラル化していく、いわゆる“ネット出身アーティスト”たちの台頭だ。あの米津玄師が2012年に本名での活動を開始するまで、ボカロP“ハチ”としてニコニコ動画を中心に活動していたことはご存知の通り。ただ、当時のネット出身アーティストの立ち位置としては、低刺激な音楽が溢れるメインストリーム・シーンに対するカウンター的な側面があった。そういう意味では、セールスやヒットといった価値観とは最も離れた存在だったといえるだろう。

 風向きが変わり始めたのはここ数年、少なくともApple Musicがローンチした2015年以降のことだ。前述の通り、ストリーミング・サービスの出現によって、音楽の聴き方はフィジカルからデジタルへ本格的な移行が進み、多種多様な作品へのアクセスが容易となった。これにより、メジャーとインディの境目が溶け合い、ネット・シーンで活躍するアーティストたちと、彼らを取り巻くコミュニティの門戸は大きく開かれ、その文化圏はかつてないほどの活況を見せ始めている。

 そういった潮目の変化を決定づけたのが、ずっと真夜中でいいのに。の躍進だ。きっかけは一つの動画だった。2018年6月にYouTubeで突如公開した「秒針を噛む」のミュージック・ビデオがバズり、1か月も経たないうちに100万回再生を突破。そして11月にリリースした1stミニアルバム『正しい偽りからの起床』は、“第11回CDショップ大賞2019”で入賞し、さらなる注目を集めた。

やがて人気はストリーミング・サービスへ飛び火。2019年早々、2月にSpotifyが公開した“今年大きな飛躍が期待される新進気鋭の国内アーティスト10組”のプレイリスト『Early Noise 2019』に選出されると、各所から本格的に熱視線が注がれるようになった。実際、2019年のブレイクスルーは目覚ましく、ネット上には“歌ってみた/弾いてみた動画”やファン・アートが溢れ、夏には【FUJI ROCK FESTIVAL '19】にも出演、そして10月にリリースした1stフルアルバム『潜潜話』が週間ダウンロード・チャート(ビルボードジャパン)で初登場2位を獲得するなど、批評的にも商業的にも大成功の1年だったと言っていいだろう。

 そんな勢いの後押しを受け、10月からスタートした【潜潜ツアー(秋の味覚編)】は、自身初の全国ツアーであったにもかかわらず、全公演ソールド・アウト。ファイナルは11月27日、本ツアー3度目となるZepp Tokyoにて迎えた。

 フロントマンのACAねがボーカルとソング・ライティングを務めていること以外、詳細は謎に包まれているが、だからこそ、ずっと真夜中でいいのに。のライブは極めて純粋なアート体験だと言える。ひとたびオンラインとなれば、瞬く間に情報が洪水のように溢れてくる現代において、時にそれらはノイズとなりうるし、音楽はもちろんのこと、セットや照明などの視覚的なスペクタクルも含めて、緻密でシネマティックに作り込まれたずっと真夜中でいいのに。の表現世界は、すでにそれ自体が非常にアイコニックであり、これ以上の付加要素はかえってリスナーの想像力を抑制する、余計なバイアスになりかねないからだ。

 この日、会場は終始ほの暗く、全容をはっきりと視認することは難しかったが、ステージ上には様々なセットが配置されていた。水道管のように張り巡らされたアルミパイプ、こたつのような物体などなど。まるで雑多なコラージュ・アートのように、たくさんのオブジェが入り乱れた壇上の雰囲気は、ずっと真夜中でいいのに。のミュージック・ビデオで描かれる、どこか退廃的な世界観を彷彿とさせるもの。アーティストの創作源たる心象風景を現実に拡げ、オーディエンスを深く没入させるステージ・プロダクションは、音楽と映像の密接な相互関係と同様、ずっと真夜中でいいのに。のアート表現には欠かせない要素なのだろう。

 ずっと真夜中でいいのに。が初のフルアルバム『潜潜話』のモチーフとして捉えたのは、現代社会における分断や孤独の空気感。それがめくるめく展開と色鮮やかな映像美で、ある意味ファンタジーとして描かれるミュージック・ビデオに対し、ライブではとにかくストイックに徹する、より真に迫ったパフォーマンスがとにかく印象的だった。ボカロPとしても活動する“ぬゆり”、映像クリエイターの“Waboku”といった外部アーティストたちとタッグを組むことで、ひたすらクールに作品のクオリティを突き詰める一方、ライブでは躍動的なパフォーマンスを披露するその在り方は、シーンを席巻する欧米のラッパーたち、あるいはビリー・アイリッシュなども引き合いに出せそうで、いかにも現代的だが、そんなライブ・パフォーマンスの熱量に導かれるように、オーディエンスも心の枷を徐々に解き放ちながら、そのメッセージ性に共振していく。そんな今回のライブは、同じく現代を生きる我々にとって、相互理解の歓びに満ちた自己対象体験であり、ネット・カルチャーからポップ・カルチャーへと飛び立つ、今のずっと真夜中でいいのに。のモードをドラスティックに映し出していたように思う。

 とはいえ、随所で表出するネット出身アーティストとしての軽やかさ、サーカスティックなユーモアも見逃せない。アルバム・タイトルを“ひそひそばなし”と読ませるのに対し、ツアー・タイトルを“もぐもぐツアー”とするネーミングの違和感、テープ・レコーダーを駆使するトリオ・ユニット、Open Reel Ensembleのアナログ演奏と、ひたすらモダナイズされたずっと真夜中でいいのに。本来のサウンドとの対比など、きっと出自であるネット・シーンに由来するのであろう、その遊び心と実験的精神もまた、ずっと真夜中でいいのに。が多くの若者に支持されている所以の一つだ。

 【フジロック】への初出演を果たし、1stフルアルバムもヒット、Zepp規模でのワンマン・ツアーも大成功に収めた2019年。そして2020年には、幕張メッセ・イベントホールでの2daysワンマンも決まり、どんどん表現の許容域を広げてきているずとまよ。世界のターニング・ポイントを越え、新たなディケードに彼女らは何を刻み付けるのか、期待したい。

Text by Takuto Ueda

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