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2019/11/12

『マグダレン』FKAツイッグス(Album Review)

 1988年生まれ、英グロスターシャー出身。ジャマイカとスペインの血筋を継ぐエキゾチックな容姿と、秩序破壊を恐れない感性を活かし、モデル~ファッション・アイコンとしても活躍する女性シンガー・ソングライター=FKAツイッグス。2013年に英ロンドンのレーベル<ヤング・タークス>と契約を交わし、翌2014年8月にデビュー・アルバム『LP1』をリリース。本作が【BBC Sound of 2014】や<ブリット・アワード>にノミネートされる等、 多くのメディアから絶賛され、米ビルボード・アルバム・チャートで30位、本国UKアルバム・チャートでは最高16位をマークするヒットを記録した。

 翌2015年は、1月に東京・恵比寿リキッドルーム、7月に<FUJI ROCK FESTIVAL '15>と2度の来日を果たし、独特な世界観に魅了された多くの日本ファンを獲得。翌8月には3作目となるEP『M3LL155X』をリリースし、米ビルボードのインディー・チャートで5位、ダンス/エレクトロニック・アルバム・チャートでは2位まで上昇する快挙を達成した。本作『MAGDALENE』(マグダレン)は、同EPから4年、前作『LP1』からは約5年ぶり、通算2作目となるスタジオ・アルバムで、その間あった様々な経験や思想が詰まった、彼女の本質を曝露したとも言える傑作録音。

 4月にリリースした2年ぶりの復帰シングル「cellophane」は、フランク・オーシャンやジョルジャ・スミス等同系アーティスト等を手掛けるジェフ・クラインマンと、米LAの音楽プロデューサー=マイケル・ウゾウルとの共作曲。ピアノとコーラスで構成する独創的なアート・ポップで、中国系アメリカ人のディレクター、アンドリュー・トーマス・フアンが手掛けたミュージック・ビデオも、見事な肉体で纏わりつくポールダンスが美しい、音とリンクした傑作に仕上がった。同ビデオは、2019年の【2019 MTV VMA】で3部門にノミネートされ、【UK Music Video Awards】では<最優秀オルタナティブ・ビデオ賞>等4部門を制している。

 2曲目のシングル「holy terrain」は、ラッパーのフューチャーをゲストに迎えた意欲作。制作は、ロック・バンド=fun.(ファン)のメンバーで音楽プロデューサーのジャック・アントノフと、ヒップホップ系アーティストを多数手掛けるサウンウェーヴが、プロデュースをケニー・ビーツ(エド・シーラン、グッチ・メイン等)が担当している。ヒップホップを基としたトラックに軽やかで透き通ったハイトーンが舞う、揺らめきが心地よいミディアムで、民族舞踊のようなダンスを取り入れたビデオ・パフォーマンスもすばらしい出来栄えだった。

 前月にリリースされた先行シングル「home with you」は、ラップのように言葉を繋ぐ不気味なヴァースから、ファルセットを響かせる甘美でクラシカルなフックへ移行する、斬新な構成の快作。初聴なかなか理解し難いが、これぞFKAツイッグスの世界観ともいえる一曲で、ヴォーギングのようなポーズや、白いドレスで森林を駆け抜ける衝撃のミュージック・ビデオも彼女ならではのアイデアといえる。なお、同曲のビデオは自身が監督を務めたとのこと。ソングライター/プロデューサーには、Ethan P. Flynnという英ロンドン出身のアーティストが参加している。

 ベニー・ブランコ、カシミア・キャット、スクリレックスという豪華な面々が出揃った「sad day」は、彼等のお得意とするエレクトロニカの音色を、物悲しい雨のように響かせるタイトル直結のナーヴァスな曲。憂鬱さを独自の解釈で表現したボーカル・ワークも見事で、この短いキャリアで培ったとは信じがたい感性に圧倒させられる。心身共に辛い時期を経て完成させたという本作の中でも、最もその感傷的な部分が露わになった曲だと公言している。バラードではなく、あえてリズミカルなトラックに仕立てるところが彼女らしい。

 ベニー・ブランコとカシミア・キャットが手掛けた「mary magdalene」も、エレクトロと宗教音楽を掛け合わせたような斬新なトラックに、辛い体験を綴った歌詞を乗せた「sad day」路線の曲。この曲は、子宮の腫瘍を取り除く手術を受けた時期に制作したそうで、イエス・キリストとマグダラのマリアの関係性を用い、女性の価値がいかに誇り高いか、権利と尊厳を声を高らかにして歌っている。

 冒頭の「thousand eyes」は、米NYを拠点に活動するエレクトロ・ミュージシャン/プロデューサーのニコラス・ジャーが参加した、清らかなバラード。浮遊感というよりは祈りに近いボーカルが、古典的なクラシック音楽やクリスチャン・ソングを彷彿させる。繊細さと力強さを兼ね備えた「fallen alien」、微熱感覚のディープなグルーヴに宙を舞うようなコーラスの「mirrored heart」、米ブルックリンを拠点とするソングライター=ダニエル・ロパティン(OPN)作の壮大なバラード「daybed」と、その他のタイトルも妥協なしのFKAワールドが堪能できる。


Text: 本家 一成

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