2019/10/21 17:00
その笑顔には一点の曇りもなく。艶やかないでたち。カラッとした声。ひたすら前向きなエネルギー。それは“日本ラテン化計画”(名誉会長:タモリ/爆笑!)を推し進め、体現するアイコンであることの矜持でもあり。享楽、官能、親密、幸福――サルサの美意識が凝縮されたステージ。全身全霊を傾けて、今宵NORAが歌って踊った!
満を持してリリースした10年ぶりの新作『Gracias Salseros』を引っ提げてのライヴ。35周年アニヴァーサリーの今年、彼女を中心とする11人が世界グレードのサルセーロ(サルサ・プレイヤー)として、理屈抜きで楽しい音楽を発信しているオルケスタ・デ・ラ・ルス。新作に収録された全9曲は、少し前に上梓されたNORAの半生記『人生、60歳まではリハーサル』にも記されているダイナミックなキャリアを総括するようなストレート・サルサあり、抒情的なボレーロあり、センチメンタルなカヴァーあり、オマーラ・ポルトゥオンドやセリア・クルーズといった先達へのオマージュありの濃密なコンテンツ。そのスピリッツとエッセンスがステージで炸裂する!
颯爽とステージ横の階段を降りてきた10人の男たちを従えて、シームレスに演奏されたセリアの4曲で初っ端からNORAが弾けまくる! そして、そのオーラに包まれた会場が次第に上気していく。
4管、3打楽器、ベース、ピアノ、そして色気あるファルセットを絡ませるJINのハーモニー・ヴォーカル。完璧なステップで全員が一体となりながら繰り出してくる強烈なリズムとピチピチの音粒は、まさに非の打ちどころがないほど。グッとレンジを広げて活動初期のナンバーも飛び出してくる演奏は、35年のキャリアとヒストリーを感じさせると同時に、現在進行形のサルサ・バンドとしての頼もしさも感じさせてくれて。
もはや、腰が砕けて倒れるまで踊るしかないクラーヴェに煽情されて、週末を控えたフロアは興奮の坩堝と化す。これぞ筋金入りのサルサ。とことん楽しくて、身体の芯まで痺れてしまう煌びやかな演奏とエモーショナルな歌声。“光の楽団”が紡ぐメロディやリズムは、曇の隙間から射し込む一筋の光にも似ていて。彼らの人気曲の一節にもなっているその光景――地上を照らすレンブラント光線を彷彿させる希望に満ちた歌と演奏は、僕らの心も身体も軽くしてくれるだけでなく、悪戦苦闘する日々と、そこで湧き上がる喜怒哀楽をポジティヴに捉える生命力を与えてくれる。
1984年に結成されたオルケスタ・デ・ラ・ルスは日本最高峰の、否、もはや世界グレードのサルサ・バンド。89年にリリースしたデビュー・アルバムが米国ビルボード誌のラテン・チャートで11週間1位を独走し、ニューヨークでのブレイクはもちろん、いきなりワールドワイドな人気を獲得した、まるで奇跡のようなグループだ。97年に1度解散したが、2001年の9.11をきっかけに再結成し、ハッピーでスタイリッシュなダンス・ミュージックを発信し続けている。サルサという音楽を通じて、日本を明るく、そして美しく照らし続ける「光の楽団」――それがデ・ラ・ルスだ。
麗しいハーモニーと腰を直撃するリズムが会場に溢れていく。それは、オーディエンス1人ひとりのハッピー・フィーリングとパーフェクトにシンクロしていて。まさに、楽しさ満載のパフォーマンスに、まるで“幸せの連鎖”が見えるように、踊り出す人が増えていく。
中盤には2人のゲストがステージに――陽気に鍵盤を叩く元メンバーの塩谷 哲。ほんの束の間、ロマンティックな時間を演出してくれた山崎まさよし。彼らもデ・ラ・ルスの演奏にナチュラルに溶け込んで、ハッピーな週末のダンス・パーティに解放感たっぷりの花を添えてくれる。まるで水飛沫のように弾ける音に身を任せていると、NORAがブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのコンパイ・セグンドから教えてもらったという「人生、60歳まではリハーサル」の意味がじんわりと伝わってくるように感じられる。だから、失敗したって、カッコ悪くたってノー・プロブレム! そんなメッセージが伝わってくるようで、身体の芯から元気になれるのだ。
後半はキレッキレのマンボで加速し、締めには久々にデビュー曲が披露されて――。彼らが去ったステージを見つめ、身体に染み込んだクラーヴェを反芻しながら、アンコールを心待ちにする数分間。そのワクワクした気持ちと言ったら! そんな心地好い後味と幸福感に満ちた100分のライヴに、僕は心から酔いしれた。
ありきたりの日常をカラッと陽気にしてくれる35周年アニヴァーサリーのオルケスタ・デ・ラ・ルス。彼らのステージは、NORAの誕生日である28日(月)は大阪で弾ける。ダンサブルなサウンドと、最高にハッピーな歌声に身体を預けて、踊りまくるもよし、セクシーな気分に浸るもよし。しばし現を抜かして、日本ラテン化計画に参加してみて! きっと、心地好い疲労感に包まれながら、ふつふつと明日へのやる気が沸いてくるはず。
◎公演情報
【オルケスタ・デ・ラ・ルス 35th Anniversary "Gracias Salseros"】
ビルボードライブ東京
2019年10月18日(金) special guests 塩谷哲,山崎まさよし ※終了
2019年10月19日(土) special guest 大黒摩季 ※終了
【オルケスタ・デ・ラ・ルス 35th Anniversary "Gracias Salseros" NORA's Birthday Special Night!!!】
ビルボードライブ大阪
2019年10月28日(月)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
詳細:http://www.billboard-live.com/
Photo:Masanori Naruse
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。佳境を迎えたラグビーW杯。日曜は南アフリカと対戦する我らがブレイブ・ブロッサムズですが、南アは今、ワインも注目の国。赤も白も、豊かな陽射しと涼やかな風が織り成す独特のテロワールに育まれたふくよかさが特徴。まずは、コースタル・リージョン周辺で造られたピノタージュ種の赤とシュナンブラン種の白をお試しあれ。イキイキしていながら口の中で広がるコクのある味わいは、まさにW杯級。
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