2019/08/21 18:00
2018年は、フィーチャリング・アーティストとして参加したカミラ・カベロの「ハバナ」が自身初の全米1位を記録し、ポップ層にもファンを拡大させたヤング・サグ。同年は、リル・ベイビー&ガンナ、ミーク・ミル、シックスナイン、トリッピー・レッド……など、人気アーティストたちのアルバムに参加“しまくる”売れっ子っぷりを発揮し、大忙しの1年だった。
2019年も、ジュース・ワールドやエド・シーランなどのヒット作に参加し、ポスト・マローンの「Goodbyes」や、今年最大のヒットを記録しているリル・ナズ・Xの「Old Town Road」(リミックス)など、フィーチャード・アーティストとしても引き続き大活躍している。
また、5月にリリースした自身のシングル「The London」が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で12位、R&B/ヒップホップ・チャート6位、ラップ・チャート5位の大ヒットとなり、リード曲としては自己最高位を更新したばかり。同曲は、J.コールとトラヴィス・スコットの2人をゲストに、プロデュースは歌詞冒頭にも登場するT・マイナスが担当している。「The London」とは、米マンハッタンにあるラグジュアリーホテルのことで、曲中で反撃する“奴”に「俺とザ・ロンドンで逢おう」と、冒頭から攻撃的な姿勢をみせる。
「The London」のヒットを受けてリリースされた、本作『ソー・マッチ・ファン』には、T・マイナスやJ.コールの他、シーンを担うヒットメイカー、人気アーティストたちが多数参加している。そのJ.コールとT・マイナスがソングライター/プロデューサーにクレジットされた「Mannequin Challenge」には、前述のジュース・ワールドがゲストとして参加した。タイトルの「マネキン・チャレンジ」は、ご存知2016年に(レイ・シュリマーで)大ブームとなったフリーズ動画のことで、その動作を用い、理不尽な(?)逮捕や裁判(官)について罵っている。
フューチャーは、「The London」と2曲目の「Sup Mate」という曲にも参加している。プロデュースは、そのフューチャーやミーゴスなどを手掛けたDYが担当。フューチャー路線の硬派なトラックに乗せて、和訳はちょっとキビしいギリギリの内容を、4分弱吐き続ける(オキシコンチンとか……)。この曲から間髪入れずにはじまる「Ecstasy」も、タイトル直結のヤバい仕上がり。ドラッグがテーマということもあり(?)トラックも超アゲアゲ。フューチャー率いるフリーバンズからは、ドー・ボーイと21サヴェージが参加した「I'm Scared」がある。
自身のレーベル<YSL Records>所属のガンナは、ホーンを起用したミッド・チューン「Hot」と、夏っぽさを醸した「Surf」の2曲に参加。同レーベルからは、「I Bought Her」と「Cartier Gucci Scarf」にリル・デュークがゲスト/プロデューサーとして参加している。いずれも、2000年代初期っぽい音の感じがするのは、世代によるものだろうか(個人的主観か?)。ピエール・ボーンが手掛けた「Light It Up」も、ひと昔前のサウスっぽいニオイがする。
ピエール・ボーンは、8曲目の「Lil Baby」もプロデュースを担当している。この曲は、前曲「Bad Bad Bad」にクレジットされたリル・ベイビーのアーティスト・ネームをそのままタイトルにしているが、内容的には本人について直接的に歌ったものではない。
<YSL Records> からは、 サウスサイドがプロデュースした「Big Tipper」に、米アトランタの新星ラッパー=リル・キードがクレジットされている。サウスサイドは、次曲「Pussy」のプロデュースも担当した。いずれもアトランタっぽいサウンド・プロダクションだが、この2曲は特に“卑猥さが際立った”歌詞が酷い。こういう曲がラジオで流れてくる文化を、日本人が受け入れられないのも致し方ないだろう……。
健全ではないが、逃亡について歌われた「Jumped Out the Window」の方がまだ受け入れやすいか。ずっしり重たいドラム・ビートと、ピアノをアクセントにしたトラップが緊張感を見事表現していて、トラックも秀逸。ザ・ウィークエンドのレーベル<XO Record>からデビューしたNAV(ナヴ)参加の「Boy Back」も、卑猥さを薄めた男気ある(?)ヒップホップ。この曲は、DJマスタードがプロデュースを担当した。
ミーゴスのクエヴォを招いた「Circle of Bosses」や、そのミーゴスやクエヴォのソロ・アルバムなどを手掛けたウィージーによるプロデュース曲「Just How It Is」、リル・ウージー・ヴァートと無邪気にはしゃぐ(?)「What's the Move」など、まさに“ソー・マッチ・ファン”なタイトルが満載の本作『ソー・マッチ・ファン』。ちょっと行き過ぎたフレーズもあるが、タイトルが示す通り「超楽しい」コンセプトに則ったアルバムといえる。「楽しめないなら聴かなくていい」と宣言していたが、まあ賛否は分かれるだろう。
ヤング・サグは、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”でTOP10入りした4作はじめ、これまでに10作以上のミックステープをリリースしているが、本作『ソー・マッチ・ファン』は、実質上のデビュー・アルバム(正式なスタジオ・アルバム)ということになる。同アルバム・チャートでは未だ頂点に達していないため、自身初の全米No.1獲得にも期待したい。
Text: 本家 一成
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