2019/08/09
遺伝子レベルからすれば、メイベルが凡人であるハズがない。父親は、マッシヴ・アタックのプロデューサーとして活躍したキャメロン・マクヴェイ、母親は、そのマッシヴ・アタック関連の作品でも知られるスウェーデンの女性シンガー=ネナ・チェリーなんだから。音楽の才能のみならず、母親の美しい顔立ちもしっかり受け継いでいる、正真正銘のサラブレッド。
メイベルは、2015年頃からSoundcloudに曲をアップし始め、メジャー・レーベル契約に繋げた。親のネーム・バリューもあったと思うが、実力が乏しいアーティストを天下のポリドール・レコードが承諾するハズもないだろう。翌2016年に発表したシングル「シンキング・オブ・ユー」も大きな反響を呼び、コジョ・ハンズとデュエットした次曲「フィンガーズ・キーパーズ」で、UKチャート初のTOP10入り(8位)を果たした。
2017年にリリースしたミックステープ『アイビー・トゥ・ローゼズ』からは、その「フィンガーズ・キーパーズ」や、UKチャート11位まで上昇した「ファイン・ライン」などが次々ヒット。中でも、同チャートで最高3位をマークした「ドント・コール・ミー・アップ」は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で初のランクイン(66位)を果たし、アイルランド(3位)やオランダ(2位)でもTOP3入りする自身最大のヒットを記録した。
正式なスタジオ・アルバムとしては1枚目にあたる本作『ハイ・エクスペクテーションズ』には、前述のタイトルの他、『アイビー・トゥ・ローゼズ』の楽曲もいくつか収録されている。デビューからこれまでのキャリアを総まとめした、ベスト盤に近い内容といえなくもない。
アルバムの核となる「ドント・コール・ミー・アップ」は、英サリー州出身の音楽プロデューサー=スティーブ・マックが手掛けたトロピカル・ハウス調のダンス・トラック。サウンド・プロダクションもさることながら、未練タラタラの男を吹っ切る、女子の“あるある”を描いた歌詞も多くのリスナーに評価されている。女友達が集結して元カレを“追い払う”ミュージック・ビデオも好評を博し、視聴回数は1億回を突破した……が、デュア・リパの二番煎じ感が強く、(個人的には)もうちょっとオリジナリティがあった方が良かった。母親があれだけ個性的なんだから、ねぇ……。
スティーブ・マックは、6月にリリースした2ndシングル「マッド・ラヴ」のプロデュースも担当している。この曲も、「ドント・コール・ミー・アップ」路線の南国風エレクトロ・ポップで、メイベルのエキゾチックな声色とサウンドが、絶妙にマッチしている。同ミュージック・ビデオでは軽快なダンスも披露し、歌詞に基づいた色気たっぷりの表情も魅せている……が、こちらも黒のボブヘアがどうにもデュア・リパを狙った感否めない。「マッド・ラヴ」は、UKチャートで8位を記録し、2曲連続のTOP10入りを果たしている。
アルバムは、ファルセットとミドル・ボイスを巧みに使い分けた、アカペラに近いイントロ「ハイ・エクスペクテーションズ」 ではじまり、清涼感溢れるダンスホール・トラック「バッド・ビヘイヴィアー」へと繋ぐ。「ドント・コール・ミー・アップ」もそうだが、このテのダンス・トラックは、ブリティッシュ特融のクールネスが、アメリカ出身の歌手との違いを明確化させている。「バッド・ビヘイヴィアー」は、ドレイクやパーティネクストドアといった人気ラッパーを手掛ける、ドレー・スカルがプロデュースを担当。
プロダクションチーム=ポップ&オークのウォーレン“オーク”フェルダーが、ソングライター/プロデューサーとして参加した「FML」や、デュア・リパやアン・マリーなどを手掛ける女性シンガーソングライター=カミルがフィーチャーされた「セルフィッシュ・ラヴ」、レゲトンにインスパイアされたシンセ・ポップ「プット・ユア・ネーム・オン・イット」など、シングル曲以外のダンス・トラックも充実している。
一方、ロンドンの音楽プロデューサー=アル・シャックス(カリード、ケンドリック・ラマー等)が制作した、浮遊感漂う「ウィ・ドント・セイ…」や、オートチューニングされたボーカルを上手く馴染ませた「トラブル」、ヘイリー・スタインフェルドとの「カラー」(2018年)で知名度を高めた、英ロンドンのシンガー・ソングライター=MNEKプロデュースによる「OK(アングザエティ・アンセム)」など、ミディアムも柔軟に熟すメイベル。シンガーとしての実力は折り紙付きだ。
「ラッキー」や、「ストックホルム・シンドローム」といったインタールードを挟みながらの展開も、抑揚があり聴きやすい。ここ最近は、90年代リバイバルでインタールードを起用するアーティストが増えつつある。
「アイ・ビロング・トゥ・ミー」は、90'sR&Bを彷彿させるアーバン・メロウ。マイルドさを兼ね備えたメイベルのボーカルが絶妙で、本編のエンディング曲として配置されたのも納得の出来栄え。ヒットしたカリビアン・テイストなダンサーも無論良いが、この路線(スロウ)がもう少しあっても良かった気がする。イントロの続編となる「ハイ・エクスペクテーションズ」のアウトロも、23歳とは思えない落ち着きを放った傑作。
ボーナス・トラックとして、「マイ・ラヴァー」やジャックス・ジョーンズとのコラボ曲 「リング・リングfeat.リッチ・ザ・キッド」、 ライ&ステッフロン・ドンとのコラボレーション「シガレット」も収録され、前述にもあるようにまさにベスト盤的な内容に仕上がった、メイベルのデビュー・アルバム『ハイ・エクスペクテーションズ』。国内盤は、2019年9月4日発売予定。日本盤ボーナス・トラックには、「ドント・コール・ミー・アップ」のR3HABリミックスや、「ワン・ショット」も収録される。
Text: 本家 一成
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