2019/06/17
It’s Happy Hour !――もちろん、これは彼らの地元にあるパブのサービス・タイムのことではなくて。ライブを間近で体験する時間、それこそが“幸福なひと時”なのだと、今宵の僕は心底実感してしまった。
クリスタルのように硬質に響く、透明感溢れる音――誰もが耳にしたことのある「Night Birds」のお洒落でノーブルなメロディ。これらのリフに象徴される、夜のハイウェイをクルーズしていくような端正なビート感。カー・エンジンの振動とシンクロする、そのグルーヴに身体を揺らしている観客たちの幸せそうな表情と言ったら! 湖面に浮かぶ水鳥のように、重力から解放された心地好さをメンバーと共有する瞬間。前日の雨が止み、つかの間の晴れ間が広がった六本木。梅雨の鬱陶しさを振り払うのにうってつけのナンバーを引っ提げて、シャカタクが『ビルボードライブ東京』のステージに上がった。
1980年に結成されたシャカタクは、アルバム『Night Birds』(82年)と『Invitations』(83年)のヒットでブレイクした英国のジャズ・ファンク/スムース・ジャズの人気バンド。80年代の半ばからは女性コーラスと軽快なリズムをフィーチャーしてダンス・ポップの色彩を強め、メジャーへの階段を順調に登ってきた。メンバーは全員、文句なしの辣腕だが、そのテクニックを一般的なジャズのようなアドリブ表現に向けず、あくまでもメロディとアレンジを重視したアンサンブルの構築に傾け、誰の耳にも心地好く響くサウンドを織り上げてきた。リスナーの日常にスムースに溶け込む輪郭のクッキリした音粒たちは、だから都市のサウンドトラックと言って差し支えない。
特に日本では、リリカルな旋律と透明感のある音色が受け入れられ、独自のライブ盤やベスト盤が編まれるほどの人気。またテレビ番組やCMで頻繁に流されていたこともあり、彼らのサウンドは無意識のうちに僕らの耳に届いている。
満員の会場。上気したムードの中、グリーンのライトに照らされたステージフロアに、観客の手拍子に押し出されるようにしてメンバーが登場する。すぐにジョージ・アンダーソン(b)が強烈なバネを宿したうねりを弾き出す。その音に導かれてアラン・ウォーマルド(g)がファンキーにリズムを刻み、ジル・セイワード(per,vo)とロジャー・オデル(dr)が叩き出すビートが腰を浮かせる。さらには、ビル・シャープ(key)が奏でる旋律は繊細なエモーションを放ち、ジャッキー・フィックス(flu,sax)が艶やかな表情を付け加えていく。初っ端から展開されていく完璧なコンビネイション!
それにしても、人懐っこくて、元気で、ハッピーなフィーリングに溢れていて…。ライブでの音の躍動感は、アルバムからは感じ取れない“サプライズ”に満ちていると言ってもいいほど。イキイキしたリズムは、演奏者のキャラクターがストレイトに反映されているかのように親密な空気を膨らませながら聴き手を包み込んでいく。そのキラキラした音の瑞々しさは、ときには辛いことに出くわすこともある僕らの背中を押してくれるポジティヴなエネルギーに溢れていて。
冒頭からハッピー・オーラ全開のステージは、ちょっとしたカルナヴァルのような雰囲気に。また、鍵盤の響きをフィーチャーしたナンバーでは、しっとりした表情を覗かせる。さらには、どのチューンにも聴ける品のあるキャッチーな旋律。身体に心地好い刺激を与えてくれる“キメ”と“キレ”の鮮やかな演奏は、聴き手の気分を理屈抜きに盛り上げてくれる。それは、まるで地球上に存在している“ハッピー・サウンド”を真空パックにして集めてきたかのようなフレッシュさに満ちていて。明日から、僕にとっても日々のサウンドトラックになってくれそうな予感が膨らんでいく。
メンバーは演奏中も笑顔を絶やさず、音を通して観客とのコミュニケイションを心から楽しんでいることが伝わってくる。そこには彼らの“人情味”も感じられて、今回の来日が46回目(!)と言うのも頷けるような、日本のファンとの特別な結びつきが透けて見えてくるよう。
また、中盤には「沖縄の美しさをイメージしながら制作した」という新作『In The Blue Zone』からのナンバーが矢継ぎ早に繰り出されてくる。ステージで披露するのは初めてという、それらを演奏する彼らの表情には、日本のファンに対する信頼感と親近感が滲んでいて。来年は結成40周年を迎えるシャカタク。踊るように弾むリズムが楽しい。
終盤に向けて演奏が進んでいくにしたがい、会場にはリラックスした風が吹き抜けていく。そんな空間に放たれるサウンドは見事なほどポップな肌ざわりに仕立て上げられているが、その音楽ファクターは想像以上に豊潤だ。なぜなら、ベースになっているジャズはもちろん、ファンクやR&B、ラテンやブラジルといった、さまざまな地域のリズムや響きが抜群のセンスでミックスされた、ハイブリッドなサウンドを奏でているから。そのバランスにはUKならではの繊細さも感じられて。だから、単なる“ムード音楽”と侮ることなかれ。きちんと向き合えば彼らの魅力と、音楽の魔力が満喫できる。生の演奏を聴いたのは初めてだったが、その予想以上の充実ぶりに、シャカタクに対する僕の認識は大きく更新された。
ライブならではのワクワク感を発散しながらも、どこまでも洗練されているシャカタク・サウンド。それは、ときに“バブル時代の象徴”と言われることもあるけど、メンバー全員が磨き上げてきたテクニックを背景にした都会的な感性が隅々まで染み渡っていて、ラグジュアリーな心地好さが漂っている。決して重くなり過ぎることのない彼らの音楽が多くの人に愛されていることが、しっかり伝わってきた。
そしてハイライトは、もちろん“あの曲”。7つの音によって耳に馴染んだリフが紡がれると、観客は総立ちに。コーラスの軽やかなフレイズをメンバーと共に口ずさむと、会場は完全に1つになった。
思う存分、リフレッシュさせてくれた80分の演奏。気分を沸き立たせ、軽やかにしてくれるシャカタクのステージは、東京で今日(17日)と明日(18日)、大阪では20日と21日に体験できる。透明感溢れるメロディと歌声。まるでミントの葉を浮かべたフローズン・マルガリータのような爽やかさを味わいながら、明日への元気をチャージしてみるのもいいのでは。
◎公演情報
【シャカタク】
2019年6月16日(日)※終了
2019年6月17日(月)- 18日(火)
ビルボードライブ東京
1st ステージ 開場17:30 開演18:30
2nd ステージ 開場20:30 開演21:30
2019年6月20(木)- 21日(金)
ビルボードライブ大阪
1st ステージ 開場17:30 開演18:30
2nd ステージ 開場20:30 開演21:30
詳細:http://www.billboard-live.com/
Photo:Masanori Naruse
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。今年もやってきた鬱陶しい季節。蒸し蒸しする暑さが感じられる日もある梅雨にお勧めしたいのが、爽やかなフレイヴァーが楽しめるホワイト・ヴェルモット。さまざまなハーブやスパイスを漬け込んだ白ワインは、気分をスッキリさせてくれるアロマが素晴らしい。例えば、ニガヨモギの香りが心地好いイタリア・フリウラーノの『Santon』をワイングラスに注いで、氷を浮かべながらでゆっくり楽しむのも粋。本格的な夏の前に、雨音に耳を傾けながら味わうのもオツなのでは。
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