2019/06/15 12:00
ビルボードジャパンの2019年上半期ランキングが発表された。総合ソング・チャート1位は米津玄師の「Lemon」、総合アルバム・チャート1位は星野源の「POP VIRUS」、アーティスト・ランキング1位はあいみょん。主要3部門は、見事にソロ・アーティストが上位を占めた。
2010年代初頭の音楽シーンを振り返ると、AKB48や嵐などを筆頭としたグループが、年間シングルチャートで上位を占めていた。この傾向は最近まで続き、昨年のシングル・セールストップ10の顔ぶれを見ても、AKB48が3曲、乃木坂46が3曲、欅坂46が2曲、King & Princeと嵐が各1曲と、全てグループだった。
実は、J-MELOに寄せられていた世界中のファンからのリアクションも、グループへのものが多かった。年間リクエスト数で首位に輝いたのはL’Arc-en-Ciel、the GazettE、SCANDAL、BABYMETALの4組だけだったのだ。
かつて日本では、ソロ・アーティストがチャートの上位に輝くことは珍しいことではなかった。御三家、三人娘など、ソロの歌手をくくって捉えることも、しばしば見受けられた。1980年代には、松田聖子、中森明菜をはじめとするスーパー・アイドルが次々と誕生し、大ヒットを立て続けに記録した。
東アジア全体の音楽シーンに目を転じてみよう。1997年の香港返還の前後には、映画俳優としても、歌手としても一世を風靡した香港四天王(レオン・ライ、アンディ・ラウ、アーロン・クオック、ジャッキー・チュン)が、中華圏のみならず、日本をはじめとする多くの国々で大きな人気を得た。21世紀になると、ソロ歌手から、K-Popをはじめとするグループへと「人気者」の主役が交代した。日本でもこの傾向が強まり、2010年代を迎える頃には上述の通り、「集団の時代」が訪れることとなったのだ。
「個の時代」をアーティスト側にもたらしたのは、ヒットの変容だ。多くの専門家が指摘しているが、フィジカルからデジタルへと音楽マーケットの主戦場が遷移するに従い、瞬間最大風速的な「Y軸的ヒット」から、持続・持久型の「X軸的ヒット」が目立つようになっている。現代のヒットは「どれだけフィジカルが売れたか」ではなく「どれだけ楽曲が聴かれているか」によって決定付けられるからだ。テクノロジーの進化は、どこにいても、個の才能を見つけ出し、大きく輝かせることを可能にした。リスナーは、地球のどの都市に居住していても、卓越した才能をキャッチすることが出来る。音楽を作り出す「個」と、世界中のマーケットは、ダイレクトに繋がるようになった。
もしかしたら、2020年代に、日本のアーティストが世界的な支持を得るヒントも「個」にあるのかもしれない。「集団」というカテゴリーでは、卓越したダンス・パフォーマンスや歌唱力を持つK-Pop勢に、現状のままではかなわないだろう。心に届く歌声を持つことや、唯一無二の個性があることは、世界のメインストリームで活動するには、当然ながら、必要条件だ。私は、これまで見たことも、聴いたこともないようなアーティストが出現し、「個の時代」の萌芽が大きく育つことを、ワクワクしながら祈念している。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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