2019/06/11
今年1月にリリースした7thアルバム『The WIZRD』で、通算6作目の全米1位獲得を果たしたフューチャー。2017年には、5thアルバム『Future』と6thアルバム『Hndrxx』を2週連続で首位に送り込み、エド・シーランやマルーン5といったポップ・アーティストとのコラボ曲も次々ヒットさせる等、その活躍は目覚ましいものがある。
本作は、その『The WIZRD』に続く2019年第二弾アルバム。といっても、8作目のスタジオ・アルバムではなく、全7曲のEP盤で、次作に繋がるプロダクションでもなければ、目玉となる先行シングルを発表しているワケでもない。ある意味、トップスターの余裕綽々といったところか。EP盤のリリースは、グッチ・メインとのコラボレーション『Free Bricks 2K16』(2016年)以来、約2年半ぶりとなる。
オープニング曲「XanaX Damage」では、タイトルにもあるように、全米で問題視されているドラッグのXanaX(ザナックス)について取り上げている。きちんと読解すれば、薬物による悪影響を訴えていることが分かるが、肯定的なニュアンスも含んでいるところが、フューチャーらしいといえばらしい。所要1分44秒、インタールード程度の尺ながら、不気味にうねるボーカルと不安定でまばらなビートが頭にこびりつく、まさに“中毒性”を音にしたようなナンバーだ。
プロデューサー・チーム=808・マフィアが制作/プロデュースを担当した「St. Lucia」も、不気味な音を響かせるトラップで、若干のマンネリ感は否めないが、独特なリズムの刻み方や特徴的なボーカル等、リスナーが瞬時にフューチャーの曲だと分別できるのは、独自のサウンドを確立してる、ともいえる。タイトルの“セントルシア”とはご存知カリブ海の島国のことだが、舞台がセントルシアであるということ以外、南国っぽい要素は一切なく、歌っている内容は極めて卑猥。前曲ではドラッグを否定していたが、同曲では享楽的なニュアンスをニオわせている。
フルートの響きとシンセの音を融合した「Please Tell Me」では、リッチな男(自分?)に群がる女性への皮肉を歌っていて、男性目線からすると納得できる要素もチラホラ……みられる(ような?)。続く「Shotgun」は、ラップ・パートを含まないオルタナティブR&Bソング。本作の中では最も再生時間が長く、(歌詞を無視すれば)聴き心地の良いムーディーな仕上がりになっている。後者は、リル・ウェインの「How to Love」(2011年5位)や、ビヨンセの「Drunk in Love」(2013年2位)をヒットさせた、ノエル“ディーテイル”フィッシャーが制作/プロデュースに参加した。
氷のようなバック・サウンドに乗せて歌う「Government Official」では、ドラッグや金のみならず、政治的な要素もリリックに取り込んでいる。<Enfants Riches Déprimés>というブランドの創始者であるアンリ・アレクサンダー・レヴィが、この曲をリリース前にプロモーションし、アルバムの発売が近いことをニオわせていた。彼は、ファッション業界でも高い注目を集めるアーティストの1人で、本作のカバー・アートも担当している。なお、フューチャーはアルバムの発売直前に、インスタグラムのコンテンツを全て削除し、プロジェクトを順に発表するというプロモーションを行った。
昨年発売された、アンバー・オリヴィエという女性シンガーの「One Unread」をサンプリングした「Extra」~フューチャーの過去の作品や、ドレイク、ミーゴス、グッチ・メインなどトップ・アーティストを多数手がける、ドレー・ムーンによるプロデュース曲「Love Thy Enemies」と、ラスト2曲は滑らかなメロウ・チューンが配置された。後者はアコースティック調の美メロで、いつまでも浸っていたくなる浮遊感がたまらない。
再生時間は約20分。1曲それぞれのインパクトもさほど強いとはいえず、サウンドも相も変わらずといった感じだが、リリックについては若干過度な表現が剥ぎ取られてきたように思える。若干、ではあるが……。
Text:本家一成
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