2019/05/20
今年の3月にニプシー・ハッスルが射殺されたことを受け、彼がフィーチャーされたジョン・レジェンドとのコラボ曲「Higher」の全収益を、残された子供達に贈ると発表し、話題をさらったたDJキャレド。事件があった数日前に、この曲のビデオ撮影をしていたというから、人生何があるか分からない。
青空の元、鮮やかなブルーのサテンシャツで登場するニプシー。彼を称えるかのよう天を仰ぎ、弾き語りで歌うジョン・レジェンド。ストリート・カルチャー、打ち付けるメッセージ。歌詞、音楽、映像すべてが遺作に相応しい“より高いレベル”で振動する名曲だ。ジョン・レジェンドはこれで5回目の共演となるが、ニプシー・ハッスルにとっては最初で最後のコラボレーションになってしまった。ソングライターには、ケリー・ヒルソンやジャスティン・ビーバー、ドレイクの作品にも携わっている、シンガーソングライターのケヴィン・カッサムの名前もクレジットされている。
アルバムのプロモーションに繋げたリード・トラック「Higher」に加え、シングル曲は2曲輩出された。
1曲目は、ジェイ・Z&ビヨンセ夫妻と、人気ラッパーのフューチャーの3者が参加した「Top Off」。1年前の2018年3月にリリースされ、米ラップ・チャートでは11位まで上昇するスマッシュ・ヒットを記録した。ジェイ・Zとフューチャーは2016年の9thアルバム『メジャー・キー』で、ビヨンセは翌2017年の「Shining」で夫ジェイ・Zとそれぞれコラボレーションした経緯がある。制作・プロデュースは4人による共作で、記憶に残るようなキャッチーな曲ではないが、硬派なヒップホップ・トラックに仕上がっている。ボーカルとラップを交えた、ビヨンセの見事なフロウが存在感抜群。
一方、同年7月に発表した2ndシングル「No Brainer」は、本作の中でも最もキャッチーなナンバーといえる。前年に全米1位を獲得した大ヒット曲「I'm the One」に続き、ジャスティン・ビーバーがメイン・ボーカルを担当し、ミーゴスのクエイヴォとチャンス・ザ・ラッパーが脇を固める。そのジャスティンやニック・ジョナス、ショーン・メンデスなど、人気ポップ・シンガーを多数手掛けるサー・ノーランが、プロデュースを担当。「I'm the One」ほどの爆発力はなかったものの、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高5位をマークするヒットとなった。クリス・ブラウンが柔軟なボーカルで主張する「Jealous」も、「No Brainer」に匹敵する“売れ線”のポップ・チューン。「I'm the One」にも参加したリル・ウェインと、ビッグ・ショーンがラップを担当した。
アルバムは、ジャマイカのレゲエ・シンガー=ブジュ・バントンと、日本でも高い人気を誇るシズラ、ダンスホールの代表格・マバド、米ニュージャージー出身のシンガー/ラッパー= 070シェイクの4人を招いた、ラスタカラーの色濃い「Holy Mountain」で幕を開ける。本作のラストを締めくくる「Holy Ground」も、ブジュ・バントンがボーカルを務めるレゲエ曲で、タイトル、リリック、サウンドの共通項から、ストーリーの繋がりも見受けられる。 「Holy Mountain」には、レゲエ界のレジェンド=ビリー・ボヨによる「One Spliff a Day」が、「Holy Ground」にはローリン・ヒルによる「To Zion」(1998年)がそれぞれサンプリングされていて、後者はギターフレーズが靡くアコースティック・メロウと、ゴスペル隊によるコーラスが掛け合い、感動を誘う。
サンプリング曲では、ジョデシィの「Freek'n You」(1995年)を使用した「Freak n You」と、アウトキャストの「Ms. Jackson」(2000年)使いの「Just Us」も傑作。前者は、「Jealous」に続き参加したリル・ウェインと若手ラッパーのガンナによるコラボ曲で、ボーカルを早回しするカニエ風味のヒップホップ・トラックに仕上がっている。後者は、大ブレイク中の女性R&Bシンガー、シザ(SZA)のハスキーなボーカルが映えるどこかレトロなナンバーで、原曲ビートに思わず身を委ねてしまう。
DJキャレドの作品といえば、前述のジェイ・Z&ビヨンセ夫妻はじめ、豪華アーティストたちによる共演が醍醐味といっても過言ではない。中でも、 前月に先行で公開された「You Stay」は、哀愁漂うボーカル・パートで曲を印象付けるジェレマイ、巧みなラップを披露するミーク・ミル、コロンビア出身のレゲトンシンガー=J.バルヴィンとリル・ベイビーという新旧入り混じった豪華なコラボレーションで、曲も面子負けしないくらいのクオリティを誇っている。
その他、ブロックボーイ・JBの「Look Alive」(2018年)で注目された、テイ・キースがプロデュースを手掛けた「Wish Wish」にはカーディ・Bと21サヴェージが、フランク・デュークス&ルイス・ベルという人気プロデューサーを制作陣に迎えた「Celebrate」にはポスト・マローンとトラヴィス・スコットが、米マイアミのプロデューサー・チーム=クール&ドレ―がエグゼクティヴ・プロデュースを務めた「Big Boy Talk」にはヤング・ジージーとリック・ロスが、それぞれ参加した。
本作『ファーザー・オブ・アサド』は、2作目の全米アルバム・チャート“Billboard 200”でNo.1獲得を果たした前作『グレイトフル』(2017年)から2年振りのリリースとなる、通算11枚目のスタジオ・アルバム。2006年のデビュー作『Listennn... the Album』から、ほぼ1年に1枚のペースでアルバムを発表してきたキャレドだが、本作のコンセプトは「原点回帰」だそうで、久々に1年のブランクをあけたのには、キャリアを見つめなおす時間が必要だったからだろう。
Text:本家一成
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