2019/01/21
米ビルボード・チャートの長い歴史で、異なる2枚のアルバムを2週連続で首位に送り込んだのは、フューチャーただ一人。本作『The Wizrd』は、その快挙を達成した2017年2月リリースの5th『Future』、そして6th『Hndrxx』に続く、2年ぶり、通算7作目のスタジオ・アルバム。正式には『Future Hndrxx Presents: The Wizrd』というタイトルで、前作に題されたフューチャーの“オルター・エゴ”としての名義になる模様。
オリジナルとしては2年ぶりだが、ミックステープを含めると、ジュース・ワールドとのコラボ・アルバム『Wrld on Drugs』(2018年10月)からわずか3か月でのリリース。2018年はゼイトーヴェンとのコラボ・ミックステープ『Beast Mode 2』(7月)も発売されていて、前者が2位、後者が3位をマークした(米ビルボード・アルバム・チャート)。
アルバムからの先行シングル(1月4日リリース)は、5曲目に収録されている「Crushed Up」。ヤング・サグやミーゴスなど人気アーティスト等を多数手掛けるウィージーが主導をとったナンバーで、硬派なヒップホップ・トラックに仕上がっている。同日に公開された季節感満載・ど迫力のミュージック・ビデオも秀逸。
その5日後には、米アトランタの売れっ子プロデューサー=サウスサイド(グッチ・メイン、トラヴィス・スコット、21サヴェージ等)が手掛けた2ndシングル「Jumpin on a Jet」をリリース。こちらのビデオは、シングル曲最大のヒット「Mask Off」(2017年/全米5位)を手掛けたディレクター=コリン・ティリーが監督を努めていて、近未来的なハイジャック・シーンがインパクト絶大の大作に仕上がった。
サウスサイドは「Jumpin on a Jet」 の曲の他、南部トラップ「F&N」や薬物依存について歌ったショート・トラック「Overdose」、米シカゴ出身の若手プロデューサー=DYとの共作「Servin Killa Kam」、808・マフィアも参加した「Baptiize」のプロデュースも担当している。「Baptiize」では、自身のタイトル「Slave Master」(2015年)を一部サンプリングするという珍しい形式をとっていて、コア・ファンはニンマリしたはず(?)。
サウスサイド以外にも、昨年、ブロックボーイ・JBとドレイクによるコラボ・チューン「Look Alive」で注目されたテイ・キース(Temptation)や、「Call the Coroner」でコラボした、ドイツのプロダクション・デュオ=キュービーツとTM88(808マフィアのプロデューサー)、ドレイク、リアーナ、ニッキー・ミナージュなどのトップ・アーティストを多数手がけるナインティーン・エイティファイヴ(Tricks on Me)など、昨今のヒップホップ・シーンには欠かせないプロデューサー陣が参加している。
フィーチャリング・アーティストは、ポップ・シーンでも大活躍中のヤング・サグと、リル・ベイビーとのコラボ『ドリップ・ハーダー』がロングヒットを記録しているガンナ、そして「First Off」にクレジットされたトラヴィス・スコットの3人のみ。ここ最近は、メジャーなアーティストをあえてフィーチャーしないアーティストも多くなっているが、フューチャーの場合、前2作もメンバーは豪華ながら参加しているゲストは少なかった。
マイナー調の哀愁漂うメロウ・チューン「Never Stop」、巧みなラップ&ボーカル・パートを織り交ぜた「Rocket Ship」、アトランタっぽさを強調した「Goin Dummi」、メロディックなオルタナティブR&B「Krazy But True」、良い意味での“らしからぬ”トラック「Faceshot」など、ゲスト不在のナンバーでも聴き手をマンネリにさせない。
フューチャーは、2015年の3rdアルバム『DS2』から『Hndrxx』までの4作が、総合(Hot 100)、R&B/ヒップホップ・チャート、ラップ・チャートの3冠を制覇しているが、おそらく本作で5作目の記録を更新するだろう。昨年は、ドレイクやトラヴィス・スコットが初動ストリーミングの歴代記録を続々と塗り替えたが、本作もそれらに続く高い数字が期待できる。
Text: 本家 一成
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