2018/11/20
2000年代以降、最も成功したジャズ・シンガーを挙げるならマイケル・ブーブレだろう。2003年の3rdアルバム『マイケル・ブーブレ』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で最高47位どまりだったものの、ロング・ヒットを記録して累計100万枚を突破。2005年にリリースした『イッツ・タイム』は全米最高7位をマークし、ワールド・セールスは500万枚を記録した。
その後、『コール・ミー・イレスポンシブル』(2007年)、『クレイジー・ラヴ』(2009年)、『クリスマス』(2011年)、『トゥー・ビー・ラヴド』(2013年)が4作連続で全米/カナダ・チャートで1位を獲得し、全作ミリオン以上を記録。ツアー・チケットが売り出されれば即ソールドアウトし、若者から年配層まで幅広い層のファンを獲得する、まさにジャズ界のスーパースターとして君臨している。
本作『ラヴ』は、惜しくも5作連続の1位獲得を逃した、2016年の前作『ノーバディ・バット・ミー』(全米2位)から2年ぶりにリリースされた、通算10作目となるスタジオ・アルバム。ブレイク作『マイケル・ブーブレ』から15周年を記念するにふさわしい、マイケル・ブーブレ“らしさ”が詰まったアルバムで、構成~選曲トータルでみると、ポップとジャズ・スタンダードが入り混じった『コール・ミー・イレスポンシブル』に近い内容。悪くいえば“同じような”だが、ファンの期待を絶対に裏切らないという安心感みたいなものはある。そもそも、ジャズ・シンガーが冒険する必要もない、というか求められていないワケだし……。
中でも、チャーリー・プースがソングライターとして参加した 「ラヴ・ユー・エニモア」と、専属ディレクターであるアラン・チャンが手掛けた「フォーエヴァー・ナウ」の2曲はすばらしいのひとこと。「エリシング」(2007年)やCMソングとしても話題になった「素顔のきみに」(2009年)など、マイケル・ブーブレの人気や魅力は、カバー曲よりも“オリジナル・ソング”にこそあると思う。本作でも、1stシングルとして選ばれたドリス・デイのカバー「ホエン・アイ・フォール・イン・ラヴ」より、前述の2曲の方がインパクトが強いように感じる。
カバー曲のクオリティについては、今さらどうこう言う必要もないだろう。スリリングな展開をみせる「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」や、自身が敬愛するナット・キング・コールを映し出したような「アンフォゲッタブル」、ルイ・アームストロングのスタイル(バージョン)に近い「ホエン・ユーアー・スマイリング」、近年ではロッド・スチュワートもカバーしたジャズ・スタンダード「アイ・オンリー・ハブ・アイズ・フォー・ユー」など、選曲・歌唱ともにパーフェクト。それでいてオリジナル曲もいいっていうんだから、最も成功したシンガーというのも納得できる。
参加ゲストは2人。1人目は、2016年に『フォー・ワン・トゥ・ラヴ』で【グラミー賞】の<最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバム>を受賞した女性シンガー=セシル・マクロリン・サルヴァントで、曲は大ヒット中の映画『アリー/スター誕生』でレディー・ガガもカバーした定番曲、エディット・ピアフの「ラ・ヴィ・アン・ローズ」。もう1人は、こちらも今年大ヒットした映画『グレイテスト・ショーマン』で、レベッカ・ファーガソンが披露した「ネバー・イナフ」の原曲を歌う、米ペンシルベニア州ピッツバーグ出身の女性シンガー、ローレン・オルレッド。カントリー・バラードの名曲「ヘルプ・ミー・メイク・イット・スルー・ザ・ナイト」をハモる両者の息もぴったりで、思わず聴き入ってしまう。コーラスでは参加しているみたいだが、「ラヴ・ユー・エニモア」でチャーリー・プースとデュエットしてほしかった、というのが個人的な感想。
本作は、2016年秋に活動休止を発表した後、復帰後初のリリースとなるアルバム。その理由が長男の癌治療だったということもあり、心配していたファンも多かったと思われるが、その不安や心配を一掃するような、カラっと突き抜けるボーカルに安堵の色が現われた。
マイケル・ブーブレは、2015年に東京・日本武道館で初来日公演を行ったが、以来、日本での公演は行われていない。本作を引っ提げて、2度目のツアーが開催されること……と、前作のリベンジとなる通算5作目の全米首位獲得にも期待したい。
Text:本家一成
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