2018/11/20
藤倉大のオペラ【ソラリス】の日本初演が、10月31日に東京芸術劇場で開催された。
本作品は、20世紀を代表するポーランドのSF作家、スタニスワフ・レムが書いた『ソラリスの陽のもとに』を題材に書かれたオペラ作品。2015年にパリで世界初演され、実に3年の時を経て日本初演が実現した。遠い未来、地球から遠く離れた宇宙空間を舞台に、惑星ソラリスの「海」が生み出した、幻想とも幻覚ともつかない、しかし見ている本人たちにとっては現実のものとしかおもえない“何か”に、地球人の感情は振り回され、振り乱され、そして最悪、死に至る。
舞台に広がる青い照明と薄暗さが醸し出す不穏な空気は、そのままドラマの行く末を表すように、観客を不気味な世界観へと誘う。コンサートホール中からこだまのように、風の余韻のようにきこえてくる、なにか。切羽詰まった叫び声は狂気めいて、静けさすらも不穏な空気をまとって感じる。何かが少しずつズレた世界の中で、理性的であったはずの科学者たち、そしてその理性に拠る仕事を求められていたはずの彼らは「正気とは、なんだ?」という問いかけを投げかけるまでに錯綜していく。
この、レム独特の不思議かつ不可思議な世界観を表現するために、パリのポンピドゥー・センター内にあるIRCAMの技術士、ジルベール・ノウノと藤倉大が共同開発したのが、オーケストラ奏者や歌手が発した音をリアルタイムで収集し、加工する仕組み、ライブ・エレクトロニクスだ。パリ・シャンゼリゼ劇場での世界初演で使用されたd&b
audiotechnik社製のスピーカーを、今回の日本初演でもコンサートホールの客席内に合計20個設置。舞台上の演奏者が発した音楽が、同時に生成されたエレクトロニクスから発せられ、そして混ざり合うという趣向が凝らされている。室内オーケストラは佐藤紀雄とアンサンブル・ノマド、歌い手には世界初演時のソリストを含めた豪華な歌手陣を国内外から招聘した。
狂気を、外から“観客”として眺めていることを、藤倉のオペラは、許してくれない。至って普通の日常を、少しずつその世界をいびつに、変化させていく。舞台の上の“彼ら”と同じように、私たちの感覚も狂わされる仕掛けを作り、その境地に誘ってくれるのがこの作品の最大の特徴ではないだろうか。このオペラを会場で見ること、聴くことは、単純に上演に立ち会ったという意味合いを超え、見えない、しかし存在する、正気と狂気の境界線を超える旅に同行できる、希有な機会であったと言えそうだ。Text:yokano Photo:Hikaru.☆
◎公演情報
東京芸術劇場コンサートオペラvol.6
【藤倉大/歌劇『ソラリス』全幕】※日本初演・演奏会形式
日本語字幕付原語(英語)上演
2018年10月31日
OPEN 18:00 START 19:00
東京芸術劇場 コンサートホール
指揮:佐藤紀雄
管弦楽:アンサンブル・ノマド
ハリー:三宅理恵
クリス・ケルヴィン:サイモン・ベイリー
スナウト:トム・ランドル
ギバリアン:森雅史
ケルヴィン(オフステージ):ロリー・マスグレイヴ
エレクトロニクス:永見竜生[Nagie]
主催:東京芸術劇場(公益財団法人 東京都歴史文化財団)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)、独立行政法人日本芸術文化振興会
機材協力:ディアンドビー・オーディオテクニック・ジャパン株式会社、ヤマハサウンドシステム株式会社、株式会社綜合舞台
協賛:キッコーマン食品株式会社
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