2018/10/04 18:00
1982年9月27日生まれ 、米ルイジアナ州ニューオーリンズ出身。1997年にヒップホップ・グループ=ホットボーイズとしてデビューし、1999年に『ザ・ブロック・イズ・ホット』でソロ・デビューを果たす。本作は、全米アルバム・チャート“Billboard200”で最高3位、R&Bチャート首位をマークし、処女作ながらミリオンセラーの大ヒットを記録した。
その後、ラップ・シーンのみならず、ポップにもクロスオーバーし、リル・ウェインがいかに大きな功績を残したかは、説明不要だろう。ピークは2008年の6thアルバム『カーターIII』。本作からの1stシングル「ロリポップ」が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”、R&B、ラップの3チャートを制し、同年最大のダウンロード数(500万)を記録。ローリング・ストーン誌が選ぶ“ベスト・ソング100”の5位にランクインする売上・評価ともにモンスター・ヒットとなった。
2011年発売の9thアルバム『カーターIV』も、同3チャート1位に輝き、本作からはドレイクをフィーチャーした「シー・ウィル」など計3曲がTOP10入り、年間チャートでは6位にランクインするヒットを記録した。翌2012年には、所属レーベル<キャッシュ・マネー・レコード>との裁判沙汰があり、思うような制作ができない状況が続いていたが、今年6月、弁護士から和解が成立したとの発表があり、ついに本作『カーターV』のリリースが実現したワケである。
本作は、2015年7月にリリースした『ザ・フリー・ウィージー・アルバム』以来3年ぶり、通算12枚目のスタジオ・アルバム。先日、36歳のバースデーを迎えたばかりのリル・ウェインだが、誕生日に合わせ(翌日の)9月28日に発売日を設定し、カバー・アートには幼少期に母親と撮った写真を起用した。“カーター・シリーズ”ならではの演出だ。本作は、発売から1週間で4億回以上の再生回数を記録していて、最新の米ビルボード・アルバム・チャート(2018年10月13日付)では、初登場1位にデビューすると報じられている。
見事な復活劇を果たした、リル・ウェイン。ファンが待ち望んだ新作は、オープニングから凄い。母親がすすり泣きながら、息子(リル・ウェイン)が達成した偉業を称え、心の底から愛していると語りかけているのだから。彼女の言葉に耳を傾けていると、2曲目の「ドント・クライ」が突然はじまる。この曲は、今年6月強盗により銃殺されたエクスエクスエクステンタシオンの、生前録音したボーカルがフィーチャーされている。冒頭2曲でお腹いっぱいになるくらいの、絶大なインパクト。
3曲目の「デディケイト」は、2チェインズの「デディケーション」(2016年)をサンプリングした、ラテンっぽいタイトル。本人もフィーチャリング・アーティストとして参加していて、曲の最後には「みんながリル・ウェインみたいになれと言っているわけではない」と、オバマ前大統領が2009年にスピーチした内容の一部が使われている。オバマ大統領は、以前“フェバリット・アーティスト”にリル・ウェインの名前を挙げていた。
2チェインズの他には、「レット・イット・フライ」に『アストロワールド』が大ヒット中のトラヴィス・スコット、「ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン」には新作『クイーン』でひと騒動起こした女王ニッキー・ミナージュ、そして「モナ・リザ」には【FUJI ROCK FESTIVAL'18】で圧倒的存在感をみせつけたケンドリック・ラマーが、ゲストとして参加している。リル・ウェインと親交の深いメンバーのみならず、スヌープ・ドッグやアシャンティ、「ドント・メス・ウィズ・マイ・メン」(2001年)のヒットで知られるニベアなど、懐かしい面々もクレジットされていて、年代を超えて楽しめる内容になっている。
ソーサマンが参加した「ホワット・アバウト・ミー」や「オープン・レター」などのオルタナティブR&Bっぽいメロウもすばらしいし、ジー・デップ&ディディの「スペシャル・デリバリー」(2001年)をサンプリングした、スウィズ・ビーツによるプロデュース曲「アップロアー」や、奇才ゼイトーヴェン作のトラップ「プロブレムズ」といったアップも優秀。哀愁漂うピアノベースの「トゥック・ヒズ・タイム」 ~ジャジーな「パーフェクト・ストレンジャーズ」などの歌モノもあれば、ハードにシャウトする「ユーズド2」、クール&ドレーが手掛けたオールディーズ調の「デーモン」など、曲のタイプもそれぞれで、23曲・87分超えという大作ながらも、マンネリ化しない。
自身の復帰を「タイガー・ウッズみたいな気分」と例え、とにかくファンがいたから頑張れた、ファンのための作品だと呈した、リル・ウェイン。カーター・シリーズとしては7年ぶりとなる新作だが、“出す出す詐欺”で肩透かしを食らったファンも、納得できる内容に仕上がったのではないだろうか。しかし、この入れ代わりの激しいアメリカの音楽シーンで、(エミネムなんかもそうだが)いまだ1位を獲れるってうんだから、たいしたもんだ。実力もさることながら、(話題作りの)プロモーションも上手いんだろうなぁ……。
Text: 本家 一成
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