2018/09/01
アリ・シャヒード・ムハマドとエイドリアン・ヤングのふたりによる、ザ・ミッドナイト・アワー。その初めての来日公演を聴いて家に戻ったところなのだが、まだちょっと興奮が収まっていない。とんでもなく新しいものを目の当たりにしてしまった、いま抱くのはそんな気持ちだろうか。
先に出されたアルバム『The Midnight Hour』で聴かれるように、このふたりが鳴らしているのは70年代のブラック・シネマのサントラを思わせる音楽だ。アイザック・ヘイズ。カーティス・メイフィールド。ダニー・ハサウェイ。今聴いても素晴らしいと思える70年代のブラック・シネマのサントラの感覚を、アリとエイドリアンは現在に甦らせようとしている。
だから厳密には、彼らの音楽は“新しい”ものではないのだが。しかし、少なくとも僕は、そういう音楽をライヴで体験したことがない。ヒップホップでもなければ、R&Bでもない、シネマティックなブラック・ミュージック。今夜のアリとエイドリアンは、そんな音楽をたっぷりと聴かせてくれたのだ。
アリがエレクトリック・ベースを手にし、エイドリアンはエレクトリック・ピアノの前に座って、コンサートは幕を開ける。他のメンバーは、ギター、ドラムス、さらに日本人のミュージシャンが4人。その日本のミュージシャンは、ヴァイオリン2名に、トランペット、アルト・サックス、の編成で、アルバムで聴かれたオーケストレイションの役割を存分に果たす。ステージの最初の30分は、すべてこの8人によるインストゥルメンタル・ナンバーで固められたのだった。
アリもエイドリアンも、人が演奏する生楽器の音響にこだわった活動を聴かせてきた人だ。アルバム『The Midnight Hour』の前には、テレビ・ドラマ『Luke Cage』のサントラをふ たりで手掛けている。そのコンビネーションがすでに成熟の域に達していることを、今回のステージの最初の30分は十分に物語っていく。ア・トライブ・コールド・クウェストの来日公演は何度も見ているが、それとはまったく違う音楽が鳴らされていく。
男女2名のシンガーを加えた後半の50分になると、もう圧倒的だ。アルバムでは曲がわりと淡々と進んでいくと感じていたのだが、ステージでのそれは、もう血沸き肉躍るといった様子。特にドラマーの活躍がヴィンテージなソウルの雰囲気をグンと増していく。
男性のシンガーは、ローレン・W・オデン。女性のシンガーは、カロリナ。ふたりとも『The Midnight Hour』のアルバムで歌っていたメンバーで、あの世界により具体的 な色を付けるようなヴォーカルを聴かせる。アルバムでは1曲ごとに著名なシンガーが登場するので、ある種のショウケースのようなニュアンスも感じていたのだが、今回のステージは違う。シンガーがビシッと定まったおかげで、『The Midnight Hour』のコンセプトがよりはっきりと伝わるステージになっていたのだ。シンガーの顔ぶれの豪華さではなく、ブラック・シネマのサントラっぽい音楽をライヴで聴かせるという、これは前代未聞のことではないだろうか?と思えるステージが進められていったわけだ。
「ソー・アメイジング」など何曲かでは、アリとエイドリアンが楽器を代わり、ふたりのマルチ・プレイヤーぶりを窺わせたり。後半にもインストの曲を組み込んで、ただのソウル・ショウではないことを再度、訴えていったり。それはもう、目も耳も釘付けにされるステージだった。
今回のステージを聴いて、ふたりの作曲力の高さにもあらためて目を見張らされる思いがしている。グループのコンセプトを実現するためには、それがどうしても必要なのだろう。今この瞬間から、この先アルバムを聴き進んでいくのがまた楽しみでならない。僕はそんな風にも思っているところだ。
Photo:Masanori Naruse
Text:宮子和眞
◎公演概要
【アリ・シャヒード・ムハマド & エイドリアン・ヤング The Midnight Hour】
ビルボードライブ東京:2018/8/31(金) ※終了
1st Stage Open 17:30 Start 19:00 / 2nd Stage Open 20:45 Start 21:30
Local Green Festival:2018/9/1(土)・9/2(日)
※Ali Shaheed Muhammad & Adrian Younge's The Midnight Hourは9/2(日)に出演
>>公演詳細
ビルボードライブ大阪:2018/9/4(火)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細
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