2018/08/29
現在進行系のジャズ・シーンを牽引しながら、ヒップホップやR&Bの世界にも多大な影響を与える存在であるロバート・グラスパーが、彼自身が認めるトップクラスのミュージシャンたちを集めて新たに結成したスーパーグループ、R+R=NOW。そんな彼らの日本では初お披露目となった、8月28日、ビルボードライブ東京での1stステージは、結論から先に言ってしまえば、こちらの期待を大きく上回る最高のショウであった。
90sヒップホップを中心としたBGMが流れる中、ワクワクとした気持ちで席に着く。そして、開演時間から少し遅れたタイミングでスラム・ヴィレッジ「Players」を合図にメンバー6名が揃ってステージに登場した。昨年、開催された【SXSW】での“ロバート・グラスパー&フレンズ”名義で行なわれたショウをきっかけに結成され、その勢いのまま今年6月には『Collagically Speaking』という素晴らしいアルバムを発表したばかり、というタイミングもあり、今回は、このデビューアルバムを下地にしたショウケース的なライブになるのかとも薄っすらと思っていたが、そんな予想はライブの幕開けから軽く吹き飛び、インプロビゼーション全開のステージが展開していく。
例えば、『Collagically Speaking』の収録曲である「Needed You Still」では、テラス・マーティンによるヴォコーダーを使ったボーカルが起点となり、その裏でそれぞれロバート・グラスパー・エクスペリメントのメンバーでもあるドラムのジャスティン・タイソンと、元メンバーのベースのデリック・ホッジの二人がタイトにリズムを刻んでグルーヴを作り、その上でロバート・グラスパーがローズやシンセサイザーを巧みに使い分けながら旋律を生み出して、解体と再構築を繰り返しながら、曲がまるで全く別のものとして生まれ変わる。そして、同時に個々のプレイヤーがソロとしての高い技術を要所要所で見せつけながらも、それぞれが絶妙なバランス感覚で見事なアンサンブルが聞かせ、そんな彼らの音の波に自然と身も心も包まれていく。
実質的にロバート・グラスパーがリーダーを務めるR+R=NOWではあるが、しかし、これまで観てきた彼のライブとは完全に異なる雰囲気が今回のステージには漂っており、ある程度の張り詰めた緊張感はありながらも、その一方で自由でリラックスした空気感も漂う。ステージではロバート・グラスパーと対面するようなポジションにいたテラス・マーティンこそ、間違いなくこのバンドのキーとなる存在であり、このリラックスした雰囲気を作り出している張本人であろう。キーボード、ヴォコーダー、そしてもちろんサックスも手にしながら、八面六臂の活躍でこのバンドのサウンドを作り上げていく。決して前に出すぎることはないのだが、その存在感は絶対であり、トランペットのクリスチャン・スコットとステージ中央に並んでサックスを奏でた瞬間は、個人的にも一つのピークであった。そして、そのクリスチャン・スコットの存在もまた、彼らのステージを特別なものにしている。中域から低域の音域で構成されるグルーヴの中に、彼のトランペットの染み入るような音色が差し込まれることで、これが最高のスパイスとして機能し、サウンドをよりカラフルなものに変化させていく。
ステージの上で一人、影のような謎めいた存在感を放っていたのがテイラー・マクファーリンであるが、ロバート・グラスパー、テラス・マーティンに次ぐ第3のキーボード奏者のような立ち位置でいながら、時おりボーカルも披露。そして、誰もが驚いたのが中盤に設けられた彼のソロタイムだろう。ヒューマン・ビートボックス(ボイスパ・ーカッション)を突如スタートしたかと思えば、その上にAbletonのコントローラーを使って上ネタを被せ、マルチプレヤーである彼の多彩な才能を実にクールにプレゼンテーションしていた。一瞬ではあったが、こんな遊び心溢れる演出がサラリと出来てしまうのも、このバンドの雰囲気の良さを表わしている。また、テイラー・マクファーリン以外も各メンバーそれぞれに見せ場となるソロタイムがしっかりと用意されており、なかでも終盤にあったデリック・ホッジのベース・ソロは最も強く印象に残ったものの一つだ。高度なテクニックを見せつけながらも、実に豊かな表現力による緩急つけたプレイによって、オーディエンスの心をしっかりと鷲掴みにしていた。
このベース・ソロに続いて、ラストを飾ったのは、『Collagically Speaking』収録曲の中でも強烈な印象を放っていた「Resting Warrior」だ。ベース、ドラム、そして打楽器的に奏でられたロバート・グラスパーのキーボードが渾然一体となって曲がスタートし、さらにサックスとトランペットが有機的に絡み合い、それぞれのソロも十分に堪能する時間も与えられながらも、フィナーレへと大胆に進んでいく様(さま)はまさに圧巻。気が付けば、おそらくこの曲だけでも20分以上に亘って演奏していたよう思うが、そんな時間の感覚すらも忘れてしまうほどに、彼らの見事なグルーヴが会場全体を完全に支配していた。
本編だけでもショウは満足過ぎるほどの内容であったが、なんと2ndステージではテラス・マーティンも携わっているケンドリック・ラマーの「How Much A Dollar Cost」や、(観客席にアリ・シャヒードがいたということで)ア・トライブ・コールド・クエストの「Electric Relaxation」も披露されたという。おそらくこれから続く、ビルボードライブ大阪での二日間に亘る公演や【東京JAZZフェスティバル】のステージでも、それぞれ異なるセットリストを展開していくのであろう。その全てを目撃したいと思ってしまうほどの、忘れがたい一夜となった。
Text:大前至
Photo:Masanori Naruse
◎公演概要
【R+R=NOW】
ロバート・グラスパー, テラス・マーティン, クリスチャン・スコット,
デリック・ホッジ, テイラー・マクファーリン, ジャスティン・タイソン
ビルボードライブ東京
2018年8月28日(火)※終了
ビルボードライブ大阪
2018年8月29日(水)・30日(木)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
詳細:https://bit.ly/2MS5LR1
【第17回 東京JAZZフェスティバル】
2018年9月1日(土) 共演:コーネリアス
the HALL daytime SOUNDSCAPE
Open 11:30 Start 12:30
http://www.tokyo-jazz.com/
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