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2018/08/20

福耳、20周年アルバム発売記念ライブを開催 豪華出演者による圧巻のライブのレポートが到着

 福耳が、8月19日東京・中野サンプラザにて20周年アルバム発売記念ライブを開催した。

 1998年4月12日に行われたZepp Sapporoのこけら落としライヴをきっかけに誕生したオフィスオーガスタのスペシャルプロジェクト“福耳”。そこで披露された「星のかけらを探しに行こう」は翌年、シングル「星のかけらを探しに行こうAgain」としてリリースされ、20年の時を経て現在まで大切に歌い継がれている。

 そして1998年10月21日、シングル「天才ヴァガボンド」でデビューを果たしたCOIL。2013年にはポップアルバムの理想形ともいうべき傑作『15』を発表、後に岡本定義のソロユニットへとスタイルを変えて活動を続け、今年20周年を迎えた。プロジェクトの中核を担う岡本から杏子や元ちとせを始めとするオーガスタの福耳メンバーに向けた提供楽曲
は信頼も厚く、そのソングライターとしての存在感は誰もが知るところである。

 福耳、そしてCOIL。ともにアニバーサリーイヤーとなった2018年、福耳20周年記念作品として『ALL TIME BEST ~福耳 20th Anniversary~』と『シンガーとソングライター ~COIL 20th Anniversary~』が同時リリースされる。前者は福耳20年の歩みの集大成であり、後者は福耳メンバー10組がシンガーに、岡本がソングライター&プロデューサーに徹した(1曲は歌唱でも参加)福耳初のオリジナルアルバム。福耳とCOILの、ひいてはオフィスオーガスタ所属アーティストの在り方が窺える作品ながら、聴き手を選ぶことなく、ただシンプルに開かれた音楽であるということが、この2作の大きな醍醐味となっている。

 アルバムリリースを8月22日に、毎年恒例のAugusta Campを約1か月後に控えたこの日のライヴ。事前にアナウンスされた「声=Singers、楽曲=Songwriters」に焦点を当てたものであることは、オープニングアクトを務めたニューカマー・HaiRiの第一声から伝わった。小さな体から発せられる、繊細さと揺るぎない芯を兼ね備えた瑞々しい歌声は、観客の顔が見えるほどの薄明りの中でさえ輝く。緊張からか小さなハプニングにも見舞われたが、アクシデントさえも楽しんでしまう諸先輩のステージを見慣れた客席からは、どこか歓迎にも似た拍手が。器の大きさを感じさせるシンガーソングライターが仲間入りを果たした。HaiRiという不思議な名前を忘れることはないだろう。

 初々しくステージを後にしたHaiRiに続き、あらきゆうこ(Dr)を中央に据えた5人のバンドメンバーが後方に控える。この日の案内役である岡本のセッティングは、バンドからやや前方中央の定位置に。ステージに現れた山崎まさよしは、ハープこそ手にしたものの、ギターは持たず。歌い手としてそこに立つ「エーゲ海でお茶を(山崎まさよしとCOIL)」での圧倒的な佇まいたるや。岡本とのMCでは早速新人をイジってみせるも、亡き大杉漣を忍んだ「Forever Young」(オリジナル:竹原ピストル)では鍵盤を前に、天に届けとばかりの力強い歌を響かせた。

 「こんな素敵な曲を書いてくれました。どうもありがとね、サダくん」。そんな言葉をさりげなくかけられるのは、この人しかいない。続く杏子のステージは「女神誕生(杏子とCOIL)」で、むせかえるような夜の香りに包まれる。10周年時のCOILトリビュートを振り返り、今度はCOILとして福耳メンバーのために楽曲を書いたという、オリジナルアルバム制作の経緯を嬉しそうに語る岡本が印象的だ。各々のステージでは、福耳メンバーのオリジナル曲をカバーする構成らしく、杏子が選んだ意外な選曲「サインアップベイベー」(オリジナル:秦 基博)に客席からは驚きの声が。アコギを抱えた杏子が醸し出す邪悪な雰囲気に染まるステージ。セルフ・プロデュース力の高さは、いつ見ても群を抜いている。

 「やさしいけど、ちょっとエロイ」「湿度の程よい」。「奇麗な果実(さかいゆうとCOIL)」を、そう評したさかいゆう。艶っぽさと気だるさを醸し出すこの曲は、じんわりと熱を帯び、そして高みへ。シンガーの資質と魅力を熟知し、書かれたであろうここまでの3曲で、すでにアルバム『シンガーとソングライター ~COIL 20th Anniversary~』は、晩夏の新たな名盤を予感させた。さかいが選んだカバー曲は長澤知之の「蜘蛛の糸」。白いスポットのなか、ひとり歌うさかいの想いが歌声から溢れ出る。熱演だ。

 「帰ってまいりました」と再びステージに現れたHaiRi。彼女の言葉を借りれば「吹っ切れた」らしく、岡本との「LOVE★G~愛の重力定数~(HaiRiとCOIL)」は、今の彼女だから表現できる可憐さを存分に生かしたステージとなった。いわゆる職業作家ではなく、シンガーソングライターがこぞって良質な楽曲を提供していた80年代初頭のアイドル曲を彷彿とさせる仕上がりに、岡本の引き出しの多さを見せつけられた思いだ。

 「なぜ僕のエロさを知ってたんですか?」「演じなくても滲み出てる」。こんなやりとりで始まった「あぶない部下と危険な上司(秦 基博とCOIL)」。岡本はフライングVを、秦もエレキを抱え、ダークなエロティシズムを文字どおり“滲ませる”。さて、岡本は確信犯である。秦はカバー曲に長澤の「ねえ、アリス」をチョイス。意図せずグッとくるエピソードを語った後、披露されたこの曲は、歌唱力やテクニックではどうしても表現できない独特の陰影を内包している。ところが、ともすれば…というこちらの想像をはるかに裏切った秦。誰のものでもない、秦自身の消え入りそうなほどか弱い一部分に期せずして触れることになったこの曲に、言葉を失う。

 これまでのステージを楽屋で見ていたという大橋卓弥の自分勝手な感想に腹をよじらせながら、やはりメインアクトはこの人たちしかいないと実感する。岡本による甘めのリリックに大橋独特の雄々しさが覗く「雨天決行(スキマスイッチとCOIL)」は、彼らの真骨頂であり新境地でもある。スキマスイッチは今年、デビュー15周年。「チンピラシャツ着がち」をキーワードに今夏を振り返りつつ、カバー曲にはCOILの「日蝕」を。このステージでの2曲は、大橋の歌い手としての魅力と懐の深さを感じさせるには、ユニットとしてのスケールの大きさをホールという空間で感じさせるには十分すぎた。

 岡本のエレキの音色と温かいオレンジ色の光が情景を描き出した村上紗由里の「いつか風になる日」。オリジナルを歌う元ちとせ(作詞作曲:岡本定義)とは当然異なるが、揺らぐことなく遠くまで届くその歌声は「シャンソンショーみたいだったね」という岡本の賛辞がすべてを物語っていた。ここで短いセットチェンジを挟み、岡本がソロをとる「メロディ~君のために作ったんだから~(COILと浜端ヨウヘイ、村上紗由里、松室政哉)」を村上と披露し。この日の「シンガーとソングライター」からの演目を締めくくった。

 ロックを軸足におきつつも多様なポップセンスを備え、かつ天性のソングライターぶりが発揮された新曲を、ステージで完遂したこの日の岡本。だが、そのキャラクターはどこまでもユルく、なかば適当な“引継ぎ”でステージチェンジが行われた後は、「なんとなく入ってきた」感満載で、山崎が再び登場。名コンビ「さだまさよし」が、これまでのAugustaCampを回想する。ありていなコラボではなく、まさしくゴールデンコンビと呼ぶにふさわしい2人の「BIRDS」は、何度聴いても圧巻だ。続くさかいのソロステージでは、スタイリッシュを装っていたバンドの躍動感が一気にほとばしり、秦のオリジナル曲「スミレ」は、厳粛な雰囲気を一瞬で溶かした。杏子&大橋の「目を閉じておいでよ」では、黒のサングラスでKONTA役を全うする大橋の前に、忍び足で山崎が乱入。杏子の華麗なストールプレイにダブルヴォーカルで臨む。大橋のスターぶりが全開となったところで「ガラナ」。この日初めてホールが揺れる。

 いつものように和やかな雰囲気のなか「惑星タイマー」はオールキャストで。そしてラストは「晴男」。晴れの日も、雨が落ちた日もあったAugusta Campの「晴男」に思いを馳せ、9月に行われるAugusta Campの本番に思いを繋ぎ、ライヴは終了。この素晴らしいひとときが、さらに素晴らしい1日となるよう、心から願う。


◎リリース情報
アルバム『ALL TIME BEST ~福耳 20th Anniversary~』
2018/8/22 RELEASE
UMCA-10058 3,240円(tax in.)

アルバム『シンガーとソングライター ~COIL 20th Anniversary~』
2018/8/22 RELEASE
UMCA-10059 3,240円(tax in.)

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