2018/08/11
米ペンシルヴェニア州ピッツバーグ出身のラッパー=マック・ミラー。2011年にリリースしたデビュー・アルバム『ブルー・スライド・パーク』がビルボード・アルバム・チャート“Billboard200”、R&B/ヒップホップ・チャート、ラップ・チャートの3冠を制しブレイク。2013年発表の2nd『ウォッチング・ムーヴィーズ・ウィズ・ザ・サウンド・オフ』では同3チャート全てで3位をマークし、同年には元彼女のアリアナ・グランデとコラボした「ザ・ウェイ」(全米9位)でシングル曲としてもTOP10入りを果たす。
2015年の3rdアルバム『GO:OD AM』も全米最高4位まで上昇し、翌2016年の4th『ザ・ディヴァイン・フェミニン』 では2位を記録、R&B/ヒップホップ・チャート、ラップ・チャートではデビュー・アルバム以来となる首位獲得となり、これまで4作連続のTOP10入りを維持している。シングル・ヒットがない分、この記録は高く評価されるべきだろう。
本作からも、3曲の先行シングルがリリースされているが、いずれも不発で、アルバムを通してもヒットしそうだと思える“売れ線”は一切ない。とはいえ、売れそうな曲=良い作品とはいえない。
美しい奏のスウィートソウル「カム・バック・トゥ・アース」から、カバー曲かと錯覚するほど忠実に再現した90年代中期のヒップホップ「ハート・フィーリング」、ガラっと変わりUKファンクを意識した「ホワッツ・ザ・ユース?」があり、生音感を活かしたネオソウル風の気だるいナンバー「パーフェクト」へと、冒頭4曲から、まったくタイプの違う曲が続く。統一感がないというよりは、バラエティに富んでるというべきか。これだけ音の幅が広いアーティストだとは思わなかった。何より、1曲1曲の完成度が高い。
その「ホワッツ・ザ・ユース?」には、ラッパーのスヌープ・ドッグと、フュージョン~ジャズ・ファンクシーンで活躍する、ベテラン・ベーシストのサンダーキャット、西海岸のブギー大使ことデイム・ファンクの3者がゲストとして参加している。その他には、抑揚をつけたスタンダードなヒップホップ・ソング「セルフ・ケア」に、英ロンドンのシンガーソングライター=デヴ・ハインズと、J.コールのレーベル<Dreamville>からデビューしたラッパーのJ.I.D.がフィーチャーされている。
ゲストの選出もシブいが、楽曲も時代の流れを一切無視した、古き良き音が並ぶ。ディアンジェロ直結のずっしり重たいR&Bトラック「ウィングス」、90年代後期のアシッド・ジャズ「ラダーズ」、ジョン・メイヤーがソングライターとして参加した、オーガニック・ヒップホップ「スモール・ワールズ」、米カリフォルニア州出身のプロデューサー/DJ=フライング・ロータスが手掛けた「カンバセーション・パート1」、ストリングスやピアノの音質を活かした、ジャム&ルイスによるプロデュース曲「2009」…と、駄作がみあたらない。ラストの民族音楽のような「ソーイット・ゴーズ」も、グレイト。また、高速ラップとボーカルを絡める難易度の高い「ジェット・フューエル」があれば、ゆっくり諭すように歌うメロウ・チューン「ダノウ」もあり、ボーカル・レベルの高さもあらためて実感させられる。
日本では、アリアナ・グランデとの破局(「私は彼のママじゃない!」って言われたり)や、トランプ大統領に中指を立て、彼がラップしているように見えるような映像を公開したりと、ゴシップ・キャラとして認識されがちだが、本作を聴いていただければ、アーティストとしていかに優秀かを実感できるだろう。
Text: 本家 一成
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