2018/08/10
前作『バーズ・イン・ザ・トラップ・シング・マクナイト』から2年振り、通算3作目のスタジオ・アルバムとなるトラヴィス・スコットの新作『アストロワールド』が、リリース前から話題をさらった。
発売直前には、カバーアートにも使われたトラヴィスの頭像が米LAに設置され、ライブ時に着用していたパーカーやTシャツなどのコレクションを入れ代わり形式でリリース。映画の予告編のようなトレイラー映像も 大きな反響を呼び 、発売前日にはシカゴで開催された音楽フェス【ロラパルーザ】のヘッドライナーとして出演し、パフォーマンスが絶賛されたのも記憶に新しい。さらには、物議を醸したジャケット用の写真だ。
実際に採用されたものは、正面に子供2人が映っているものだが、もう1つの提案であった“ナイト・バージョン”のカバー写真について、トランスジェンダーのモデルが削除されたことにLGBTフォロワーから批判が殺到。アートを手掛けたフォトグラファーのデヴィッド・ラシャペルは、「彼女が注目され過ぎてしまうから」としたが、騒動はさらに広がった。当のモデル=アマンダ・レポレが擁護し、トラヴィス本人もツイッター、で「LGBTを排除するようなつもりはなかった」と謝罪したことで事は収まったが、良い意味合いではなくとも、ある意味プロモーションに繋がったのではないだろうか。ちなみに、アルバムにはLGBTに対する差別的・批判的な内容(リリック)は含まれていない。
リリース3日後に公開された「ストップ・トライング・トゥ・ビー・ゴッド」のビデオもまた、メディアで大きく取り上げられている。本編には、交際中のモデル/女優のカイリー・ジェンナーが出演していて、彼女が金の女神に扮し、炎に包まれたトラヴィスを抱きかかえるシーンが「美しすぎる」と話題をよんでいる。同曲には、ラッパーのキッド・カディ、ロンドンのシンガーソングライター=ジェイムス・ブレイク、ゴスペル・シンガーのフィリップ・ベイリーと、ジャンル・年代も様々なアーティストたちがコラボしていて、曲間に流れるスティーヴィー・ワンダーによるハーモニカ演奏も、良いアクセントになっている。
本作からは、昨年5月にリリースされた「バタフライ・エフェクト」(R&B/ヒップホップ・チャート17位、ラップ・チャート12位)が先行シングルとしてヒットした。同曲は、米ブルックリン出身の新人ラッパー=シックスナインの新曲「FeFe」にゲストとしてもフィーチャーされているマーダ・ビーツによるプロデュース曲で、その他にもマイク・ディーンや30Roc、フランク・デュークス、TM88、ヒットボーイ、サンダーキャット など、ヒットメイカーが多数参加。ゲストも、 ミーゴズのクエヴォとテイクオフ、21サヴェージ、スワエ・リーなど、人気アーティストたちがクレジットされている。
その中でも、ジョン・メイヤーの起用は意外だった。彼が手掛けた「アストロサンダー」は、“らしい”メロウ感覚のオルタナティブR&B。本作には、その他にも「ヨセミテ」や「ウェイク・アップ」、ファレル&ザ・ウィークエンド参加の「スケルトンズ」など、ボーカル・パートがメインとされる曲の割合が高い。大ブレイク中の新人ラッパー=ジュース・ワールドが存在感をみせる「ノー・バイスタンダーズ」やジャジー・ヒップホップ風の「コーヒー・ビーン」、「カルーセル」など、ラップ曲も当然充実。
その「カルーセル」には、ビースティ・ボーイズのクラシック・ナンバー「ザ・ニュー・スタイル」(1986年)がサンプリングされている。前述の「バイスタンダーズ」にはスリー・6・マフィアの「ティアー・ダ・クラブ・アップ」(1995年)、ドレイクがボーカルを担当した「シッコ・モード」には、故ノトーリアス・B.I.G.の「ギミ・ザ・ルート」(1994年)が、「5% TINT」にはグッディー・モブの「セル・セラピー」(1995年)がネタ使いされていたりと、90年代アーティストのタイトルが多数起用され、中年層が聴いても楽しめる内容に。DJ DMDの「25ライターズ」(1998年)をサンプリングした「キャント・セイ」もシブい。
なお、全米最高16位をマークした最新シングル「ウォッチfeat.リル・ウージー・ヴァート&カニエ・ウェスト」は、コンセプトの違いか収録を見送られた。
デビュー作『ロデオ』(2015年)が、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で最高3位、R&B/ヒップホップ・チャートで2位をマークし、2ndアルバム『バーズ・イン・ザ・トラップ・シング・マクナイト』は、両チャート自身初のNo.1を獲得。ラップ・チャートでは、2作連続の首位に輝いた、トラヴィス・スコット。本作のストリーミングも好調で、アルバム収録曲が、ストリーミング・サービス<Spotify>で上位に続々ランクインしている。最新のアルバム・チャート(2018年8月11日付)では、ドレイクの『スコーピオン』が5週目の首位を独走しているが、本作がその記録を打ち破る可能性も高い。
Text: 本家 一成
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像