2018/07/31 11:30
メンフィス・ソウル/ブルースの宴、とでも言いたくなるステージだった。スタックスを代表する女性シンガーだったカーラ・トーマスが、ハイ・サウンドの中核であったチャールズ・ホッジズ(オルガン/キーボード)とリロイ・ホッジズ(ベース)、およびブッカー・T&ザ・MGズの後任ドラマーとしてお馴染みのスティーブ・ポッツらの名手たちと行った、一般ヴェニューでは初めてとなる単独来日公演。2菅のホーンや2名のバック・ヴォーカルも従えて、2日前にフジロックフェスティバル’18で苗場の山中にメンフィスのファンキー&ブルージーなフィーリングを運び込んだ彼女らが、ビルボードライブ東京の初日でも快演を繰り広げてくれた。
リオン・ハフの「I Ain't Jivin' I'm Jammin'」を思わせる挨拶代わりのジャイヴなインストでバンドの力量を見せつけてスタートしたショウは、近年カーラのステージにサポート・ゲストとして同行している妹のヴァニース・トーマスが先行で歌い始めた。カーラより10歳近く年下のヴァニースは、かつてルーサー・ヴァンドロスなどのバックで歌い、87年にはアーバンなR&Bアルバムを出していた人だが、現在はブルース畑で活動しており、今回のステージでも「Sweet Talk Me」を筆頭に近年のブルース・アルバムに収めた曲を披露していく。父ルーファス・トーマスのカヴァー「Can’t Ever Let You G」もそんな中の一曲だが、そのキャリアを裏付けるような力強く安定感のあるヴォーカルで、ディープに、軽快に、そして楽しげに歌うヴァニースの表情には、こちらの気持ちまでもが晴れやかになる。グレッグ・オールマンのバンドで活躍していたギタリスト、スコット・シャラルドが放つコクのある快音もブルース・マナー全開で素晴らしい。
客席もすっかり心はメンフィスへ…といったところで、MCの呼び込みで登場したのが、今回の主役カーラ・トーマスだ。頭にアフリカンな布を巻き、ジャケットからスパンコールが光るその出で立ちからして“クイーン”を印象づける。今やおばあちゃんの年齢だが、そのヴォーカル同様、泥臭くもチャーミングな所作がなんとも愛おしい。歌ったのは、「Gee Whiz」に代表される10代の乙女心を歌った初々しい曲ではなく、レコードよりテンポを落としながらもバックのファンキーなリズムと一体になった「Something Good (Is Going To Happen To You)」をはじめ、60年代中~後期のヒットが中心。スティーヴ・クロッパーとスタックスの広報役だったディーニー・パーカーの共作となるバラード「I've Got No Time To Lose」でのブルージィネスは、歳を重ねた今だからこそ出せる味わいだと言ってしまいたい。もちろんソロ最大のヒット「B-A-B-Y」も歌った。映画『ベイビー・ドライバー』の劇中歌として使用されて再び注目を集める中での同曲の披露は今回のライヴのハイライトのひとつだっただろう。一方でコアなファンを歓喜させたのが、ハウリン・ウルフやサム・クック、ローリング・ストーンズなどでお馴染みのブルース名曲「Little Red Rooster(原題は「The Red Rooster」)」だ。カーラも吹き込んでいた曲だが、ここではステージ全編を通して大活躍だったチャールズ・ホッジズのハモンドB-3オルガンがうねるように音を鳴らし、ジュークジョイントのような雰囲気へと誘い込む。
カーラとヴァニースの姉妹共演となった終盤も大いに盛り上がった。特に亡き父ルーファスのダンス・ナンバー「Walking The Dog」と「The Memphis Train」で原曲のファンキネスをバンドとともに体現した姉妹は、“世界で最も年をとったティーンネイジャー”を謳った父よろしく10代の女の子のようなはしゃぎぶり。あの親にしてこの娘たちあり、といったところか。天国にいるルーファスも誇らしい気持ちだろう。ライヴ序盤にヴァニースが「ソウル、ブルース&ファンク!」と言って歌い始めたように、メンフィス黒人音楽のグルーヴを原液で味わい、その懐の深さを改めて実感させられたステージ。2018年にあのカーラ・トーマスを見られたというだけで胸がいっぱいになった。
Photo:Masanori Naruse
Text:林 剛
◎公演情報
【カーラ・トーマス & "The Memphis All Star Review"
Featuring The Hodges Brothers (Hi Rhythm Section) and Vaneese Thomas】
ビルボードライブ東京
2018年7月30日(月)~31日(火)
1st 開場17:30/開演19:00
2nd 開場20:45/開演21:30
ビルボードライブ大阪
2018年8月2日(木)
1st 開場17:30/開演19:00
2nd 開場20:45/開演21:30
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