2018/08/11 12:00
日本文化フェスティバルの華。それは、コスプレだ。
初めてパリのジャパンエキスポを訪れたのは、2010年。そこには、フランスのみならず、全欧州からコスプレイヤーが集結。「スーパーマリオ」「ドラゴンボール」「NARUTO」「ONE PIECE」などの人気キャラクターで、会場は埋め尽くされていた。彼らは、1年かけて渡航費や衣装製作費を捻出し、今回はどんなコスプレをしようかと考え続けているという。それが喜びであり、生きがいなのだ。参加者にとって、ここは、リオのカーニバルのような夢舞台なのではないか。私にはそのように思えた。
世界中で開催されている、日本のポップカルチャーイベントに足を運ぶにつれ、その思いは確信に変わっていった。ロシアでは、モスクワ郊外の団地にお母さんと暮らす一人娘が、ビジュアル系バンドthe GazettEのコスプレをしていた。決して裕福ではない印象を受けた。マイナス20℃近い冬の日に、お母さんと、拙いロシア語で語り合った。最愛の娘がやりたいのだからと、背中を押しているのだ。彼女が所属するコスプレ愛好者グループには、政府の諜報機関で働く女性もいた。
the GazettEファンの女の子は、UAE(アラブ首長国連邦)を構成する首長国の一つ、シャールジャにもいた。50℃近い酷暑の日に、彼女の家を訪問した。厳格なイスラム教徒のご家庭だったが、エジプト出身のお母さんは、娘が「好きなもの」をすることに応援していた。「ネットで知り合った人たちから、ポスターやビデオを送ってもらうの」と、彼女は自分の部屋で、笑顔で答えてくれた。
2人は一度も会ったことはないが、同じバンドのコスプレを、対照的な国で行っていたのだ。
アメリカでは、「響け!ユーフォニアム」のコスプレをした見ず知らずの2人(若い女性と、髭を生やした男性)が、会場で出会い、意気投合していた。フィリピンでは、コスプレ好きが高じて、衣装の製作を請け負うようになった起業家もいた。世界中から注文が殺到しているという。よく「国によってコスプレの傾向などはあるのですか?」と聞かれることがある。基本的には、どこに行ってもあまり変わらない。シンガポールのような常夏の国でも、フルスペックのコスプレをまとう。全員が主役。カメラを向ければポーズを取る。誰もがスターになるのが、コスプレのモチベーションなのだ。
ただ一点だけ、気になることがある。流行が変化するスピードが、年を追うごとに加速しているのだ。憧れの存在に、姿だけではなく、気持ちまでなりきることがコスプレの醍醐味。体感するためには、魅力的なキャラクターが続々と生まれることが不可欠だ。「キャラの切れ目が、縁の切れ目」、そうなってしまわないように祈るのみだ。
ロサンゼルスの【アニメエキスポ】の会場で聞いた女性コスプレイヤーの言葉が、心に強く残る。「コスプレには、社会的地位も、性別も、人種も関係ない。コスプレをすれば、みんなが平等になるの」。もしかしたら、コスプレは、世界平和実現の一つの鍵なのかもしれない。私も、いつコスプレイヤーになろうか、虎視眈々とタイミングを計っているところである。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像