2018/06/21
ピアノの美しい奏で幕を開ける、クリスティーナ・アギレラのニュー・アルバム『リベレイション』。本作は、2012年11月にリリースした『ロータス』から5年半振り、通算8作目のスタジオ・アルバムで、彼女がどういった形でカムバックするか、期待に胸を躍らせたファンも多いはず。
タイトルが示すのは「解放」。たしかに、“ヒットさせなきゃいけない”という意気込みみたいなものはない、やってみたいことに何の縛りもなく挑戦している「解放感」はある。サウンド面で好き嫌いは分かれるかもしれないが、これが本来やりたかったことなのだろう。
その美しい奏のイントロ「リベレイション」から、子守歌のように囁く「サーチング・フォー・マリア」~本編「マリア」へ。さっきまで触ったら崩れてしまいそうな声を奏でていたシンガーと同一とは思えない、ドスのきいたアルト・ヴォイスに激変し、1曲1曲にメリハリをつけるアギレラ。同曲は、自身も大ファンだと公言しているカニエ・ウェストによるプロデュース曲で、ジャクソン5の同タイトル曲「マリア」(1971年)がサンプリングされている。初期のカニエがお得意としていた“早回し ”にも、ニヤリとせずにはいられない。
カニエは、本作からの先行シングル 「アクセレレイト」もプロデュースしている。カニエの他、マイク・ディーンやHonorable C.N.O.T.E、米カリフォルニアの女性シンガーソングライター=イルジー・ジューバー、カニエの7thアルバム『ザ・ライフ・オブ・パブロ』(2016年)をプロデュースしたチャーリー・ヒートなど、そうそうたる面々が制作に参加。エフェクトをかけたボーカル、最先端のシンセ・サウンドを取り入れたトラップは、アギレラ本来の持ち味を引き立たせていないように思えるが、タイ・ダラー・サインと掛け合うヴァースや、 早口で言葉を繋いでいくラップ調のフレーズなど、これまでは決して聴けなかった彼女の“新たな一面”が伺える。
【第59グラミー賞】で「最優秀新人賞」にノミネートされた、ヒップホップ/シンガーのアンダーソン・パークがペンを取った「シック・オブ・シッティング」は、迫力満点のファンク・ロック。アギレラの泥臭い歌いまわしも、曲にフィットしている。そのアンダーソン・パークに加え、ワシントンDC出身のラッパー=Goldlink(ゴールドリンク)が制作、そして曲冒頭のラップとコーラスを担当した、ヒップホップ感覚の「ライク・アイ・ドゥ」も、どっぷり黒い。この曲には、人気沸騰中のK-POPグループ、BTSの大ヒット曲「MIC Drop」を手掛けたテイラー・パークスも参加している。
ジュリア・マイケルズ&ジャスティン・トランターのゴールデンコンビが制作した「ライト・ムーヴズ」も面白い。彼らがプロデュースしたジャスティン・ビーバーやセレーナ・ゴメスのポップ路線ではなく、まさかのレゲエ。しかも、“レゲエ風”ではなくがっつりレゲエ。これも、難なく歌いこなしてしまうのだから、彼女の歌い手としての力量には感服する。同曲には、ジャマイカ・キングストン出身の女性レゲエ・シンガー=シェンシーアと、同ジャマイカのケイダという、こちらもレゲエ・シンガーの2人がフューチャーされている。
子どもたちが将来の夢を語り合うイントロ「ドリーマーズ」から繋げる「フォール・イン・ライン」は、デミ・ロヴァートとのデュエット曲。エレポップを中心にヒットさせてきたデミにとっても初挑戦となるブルース・テイストのナンバーで、両者どちらも引けを取らない、圧倒的歌力をみせつけ合うボーカル・バトルは、もう聴き入るしかない。2015年にザラ・ラーソンとデュエットした「ネバー・フォーゲット・ユー」のヒットで知られる、英ロンドンのシンガーソングライター/プロデューサーのMNEKによる「ディザーヴ」も、これまでの作品では聴けなかったタイプの曲。浮遊感漂う不穏なサウンドをバックに、アギレラの歌声がタッチするネオ・ソウル風味の同曲は、本作の中でも特に難解。それだけに、聴けば聴くほど味が出てくる曲でもある。
一方 、名曲「ハート」(2006年)の続編的なピアノ1本で仕上げたマイナー・コードの「トゥワイス」や、すべてを振り絞るように、メリハリある発音で言葉を放つソウルフルな 「マゾヒスト」といったミディアム~バラードは、往年のファンも違和感なく聴けるはず。男性から「女性になった」ことで大きな反響・共感を得た、シンガー・ソングライターのテディ・ガイガー作の「アンレス・イッツ・ウィズ・ユー」は、本作のハイライト。彼女だからこそ醸し出せる、繊細な曲の切なさや儚さを、ゴスペル・コーラスを従えて歌うアギレラに、「待っただけはあった」と唸るはず。
Text:本家一成
◎リリース情報
『リベレイション』
クリスティーナ・アギレラ
2018/06/27 RELEASE
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