2017/11/21 17:30
11月はベイビーフェイスの音楽が最も似合う季節だ。というのは、80年代のディール在籍時に彼が書いた「Sweet November」という甘く切ない曲があるから…というこじつけなのだが、2017年11月20日、ビルボードライブ東京での最終日セカンド・ステージを観て、深まる秋とフェイスの相性の良さを改めて感じた。全身黒で決めたコスチューム。シュッとしたスタイル、そして相変わらずの童顔。全米音楽界の大御所でありながら物腰柔らかで人懐っこい雰囲気がライブ・パフォーマンスにもそのまま反映される。もちろんシンガーではあるが、それ以上にソングライター/プロデューサーとして大成した男が58歳にしてこれほど歌って踊るというのも、考えてみれば珍しい。
大きく分けて3つのパートから成り立っていたショウは、当たり前だが名曲しかない。歌われる曲は全てフェイスのソングライティングもしくはプロデュースによるもの。大半が80年代後半~90年代前半にヒットした曲だ。シンガーとしては、いわゆるソウルフルに歌い込むタイプではなく、センシティヴな表情を見せながらメロディに寄り添うように歌う人だが、とにかく曲の作者本人がそれらを目の前で披露していることに興奮を覚える。
ソロ・シンガーとしてのヒットを連発した前半。「For The Cool In You」を筆頭に、エンディングに「Soon As I Get Home」のフレーズを交えての「Every Time I Close My Eyes」、チャーチなオルガン・ソロ炸裂が待ち受けていた「Never Keeping Secrets」、そして「Whip Appeal」と、彼自身が“自分らしい”と思う曲を歌っていく。ショウ全体を通してアンドレ・ロバーソンのソプラノ・サックスが大きくフィーチャーされていたのもポイントで、これがメロディの美しさを際立たせ、セクシーなスロウ・ジャム感を演出していた。
中盤はギターを弾くシンガー/ソングライターとしてのパート。アコースティック・ギターを抱えて椅子に座るレフティのフェイスは、まるで2007年のアルバム『Playlist』のジャケットから飛び出てきたかのようだ。フォーキーな爪弾きをイントロにして始めた「When Can I See You Again」。続いてこの回では、最新作『Return Of The Tender Lover』の冒頭を飾った先行シングル「We’ve Got Love」を披露したのだが、その弾むような勢いのまま屈指のプロデュース曲「Change The World」でカントリー・ロックの力強いグルーヴを持ち込んで最初のクライマックスを迎える。
だがハイライトは、80年代から90年代初頭に他アーティストに提供した曲を中心とするヒット・メドレー的なパートだろう。近年本国でのライヴでも定番となっているこのパートでは、ソングライター、特にメロディ・メイカーとしての才能、松尾潔氏言うところの“美メロ”ぶりをこれでもかと見せつける。ミッドナイト・スターの「Slow Jam」で甘くしっとりとスタートし、ウィスパーズ「Rock Steady」やジョニー・ギル「Fairweather Friend」といったビートのきいたアップから、自身のソロ曲も挿みつつ、ドゥルー・ヒルの「We're Not Making Love No More」「These Are The Times」、そしてディール「Two Occasions」と、緩急つけながら矢継ぎ早に名曲を披露していく目眩くような展開。とりわけステージと客席の双方が熱くなったのは、ボビー・ブラウン「Don’t Be Cruel」「Every Little Step」「Rock Wit’cha」「Roni」の4連発だ。ステージではフェイスを中心にバンド・メンバーがステップを踏み、視覚的にも躍動感をもたらす。テヴィン・キャンベル「Can We Talk」ではサックスのアンドレがソウルフルに歌い込む場面もあり、アフター7「Ready Or Not」ではフェイス、アンドレ、そしてベースのウォルター・バーンズの3人が即席でアフター7となって歌っていた。そして、ジョニー・ギル「My My My」で酔わせた後は、MTVアンプラグドでのライブ(『MTV Unplugged NYC 1997』)でのメドレーも思い出されるボーイズIIメン「I'll Make Love To You」~「End Of The Road」で大団円。フェイスは自らハグを求めに行くように客席を駆け巡り、ここでも彼らしい人懐っこさを振りまく。ちなみにこのパートで歌った曲は、ミッドナイト・スター「Slow Jam」がオリジナルでは男女デュエットだったことを除けば、自身のナンバーも含めて全て男性のシンガー/グループに提供したもの。男性シンガーとして歌う自分の立ち位置をわきまえているというわけだが、逆に言えばこれは、楽曲提供をした女性シンガー/グループに対するリスペクトだとも受け取れる。
最新作の曲を中心としたステージになるのだろうという予想に反して、結局同作から歌ったのは(最終日セカンド・ステージでは)「We’ve Got Love」のみ。だが、セットリスト的に89年作『Tender Lover』以降数年間の楽曲が中心となった今回の公演は全体を通して『Tender Lover』の時代に戻った、まさしく〈Return Of The Tender Lover〉なショウだったわけで、そう考えれば最新作のコンセプトに沿ったものだと言える。ともすれば懐メロ・ショウになってしまいそうなところだが、フェイスも関与したブルーノ・マーズの『24K Magic』が80年代中期から90年代初頭のR&Bへのオマージュとなっていたように、そうしたリバイバルの中でリバイバルの対象となっているフェイスの曲をフェイス自身が歌うというのは非常に意義深い。これが3年前の来日公演との大きな違いではないかと、今回のステージを観て思ったところだ。
Text:林 剛
Photo:Masanori Naruse
◎公演情報
【BBL 10th Anniversary Premium Stage
ケニー “ベイビーフェイス” エドモンズ】
2017年11月18日(土)~20(月) ※終了
ビルボードライブ東京
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